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東京禁胞区  作者: 朱音ゆうひ@4月1日新刊発売!
一章、龍神の代償

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猿の手と白の異神、ラーメン(2)

「降神者は、白の異神と世界中に怪異を拡散して争乱を起こした」

「ふむ、ふむ」

「その後、東京で二柱目を呼んだ。この二柱目が火の神だ。火の神は地上を焼き払った。これを人々は神災と呼んでいた」

「なるほど。たぶん、兄は一柱目も二柱目も呼びたかったのと違うのを呼んじゃったんですね」


 稲荷は父と兄を思い出した。あの怪しすぎる言葉を。


思金神(おもいかねのかみ)をわが身に卸し、祭事によりて天照大神(あまてらすおおみかみ)を迎える。地上に蔓延る腐ったものはすべて焼かれ、神による絶対統治の時代が始まる』 

 

 常盤の願いは「稲荷准教授を生かしてほしい。第三次世界大戦が起きない世界にしてほしい」だったのに、なぜ神による絶対統治になったのだろう。歪みっぷりがひどい。

 神様が「人間だめだ」と思っていて、「この機会に統治してやろう」と決意したとか?

 

「兄は……一柱目は思金神を呼びたくて、二柱目は天照大神を呼びたかったはずなんですよ」

「お前の兄は神を呼ぶ才能が致命的にないな」

「二柱も神を呼んだのに? めちゃくちゃ才能あると思うけどな」

「とにかく、お前たちが好き放題したので人類は滅びかけた。だが、ここで元々いた神々が『おれたちの縄張りを荒らすにもほどがあるだろう』と乗り出してきたんだな」

「お前たちって……僕を犯人グループに加えないでくださいよ」

 

 神々には縄張り意識があったらしい。

 細麺を海苔と一緒に口に運んでいると、「緑色の結界や植物が都市を守っていただろう」と喚起される。


「あれは木花咲耶姫(このはなさくやひめ)だ」


 さらっと「知っていて当然」みたいに言わないでほしい。

 スマートフォンで検索すると、AI動画が出てきた。綺麗なお姫様だ。


「あの姫が東京というごく狭いエリア限定で結界を張り、生存者を守っている」

「へえ。アニメみたいですね」

 

 結界の内側に白の異神が根を張って胞子を降らせていた気がするが、果たしてどれだけ守れているのだろうか。

 

「神々にも個性がある。気まぐれだったり、快楽主義だったり、刺激を求めるような神がいて……」

「まあ八百万(やおよろず)の神々の中にはいろんな神がいますよね」

「そいつらは東京に身を寄せる生存者を見世物のように見守り……」


 見世物と言われた瞬間、霊輪世界の商店街の柱に取り付けられた古いパネルモニターが思い出される。


【偽の穀霊神が稲荷三朗を憐れんでいます】

【自称・天宇受売命が腹を抱えて笑っています】

【牛頭天王がもっと過激な見世物を望んでいます】


 まるで配信のコメントのようだった。 

 

「僕も見世物になって憐れまれたり笑われたりしてましたね」

「そうだな。連中は気まぐれに人間に加護を与えてくれることもある。結果、うちの一族のように神の加護を持つ霊能力者が生存者の中に生まれた」


 ああ、なるほど――「もうそれ、アニメじゃないですか」――稲荷は笑った。

 

「でもそれ、わかりますよ。僕が一緒にいるきつねさんも、加護を与えてくれますからね。おかげで、僕の仲間は異能持ちになっています」

「……お前が集めた連中は霊輪の世界では【降神衆(こうじんしゅう)】と呼ばれていて、白の異神の手先として世界の敵認定されている。【降神衆】は統領が降神したあと、積極的に世界を滅ぼそうと暴れていた」

「まじですか。道徳教育したほうがいいかな?」

「お前が言うのかそれを」


 今夜はもう遅いが、後日、日を改めて先輩を仲間に会わせよう。

 降神のXデーは、いつだろう?

 場所はスカイツリーなのだろうか。

 日時と場所がわかれば、未来を変えやすくなるぞ。


「ちなみに、先輩の猿の手……神様はどんなお方で?」 

「俺の神を猿の手呼ばわりするな。立派な龍神だ」

「ははあ」

 

 稲荷が脳内で計画を立てていると、ふと異変が起きた。

 常盤の折り鶴が白炎を上げて燃え出し、ラーメン屋が極寒の吹雪の山中のように真っ白に染まったのだ。


 ひゅっと息を吸う合間に、周囲のひとが消えて真っ白な空間にひとりぼっちになる。

 びゅうびゅうと雪礫が吹き付けて……。

 

 ――否。これは、白い胞子だ。


 

【ケケケケケケケケケ】 

 

 

 一瞬、幼い子供が楽しそうに笑う声が聞こえた。


 

 声を上げる間もなく、白の世界は消える。瞬きすると、ラーメン屋に戻っていた。


「きゃああああ!」

「お客さん、大丈夫か⁉ なんで燃えたんだ、煙草か?」

 

 気づくとテーブルの上には燃えカスになった折り鶴の残骸があった。

 常盤は店に「煙草の火が燃え移ったみたいだ」と説明して謝罪し、弁償する相談を始めている。


 稲荷は目を擦った。

 

 今のは白の異神だ。

 奴は愉しそうに笑っていた。愉快犯だ。なるほど、あれは悪神だ。


 となると、アレの力で不死になり、アレの眷属であるきつねと仲良くやっている僕は、やっぱり邪神の手先なのだろうか。

 

「嫌だなあ」


 稲荷はスマートフォンでグループチャットに愚痴を吐いた。


稲荷三朗:皆さん、僕たちの神様についてちょっとわかったことがあって聞いてほしいんですけど

稲荷三朗:奴は今、僕を嘲笑ったんです

稲荷三朗:すげーむかつきました

稲荷三朗:僕は絶対に奴の思い通りにはさせないぞ


「ふう……」 

 感情というのは、吐き出すとスッキリする。稲荷はビールの残りを喉に流した。


 じっとりとした目付きでチャットログを見ていると、ぽこんと反応が表示される。

 

夏海:稲荷さん酔ってる? 

稲荷三朗:ほろ酔いですよ

夏海:酔っ払いって知性下がってる感じしておもろい

稲荷三朗:今、僕を蔑んでます?

   

 夏海は問いには答えず、新作のイラストを共有してきた。

 

 巻物を抱えた小さな神の絵――バッグにマスコットも付けている、夏海のお気に入りのキャラだ。

 流行りのアニメは、そういえば霊輪世界の設定に似ている気がした。


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