7、お前には絶対にやらんわ
村の広場の周囲を黒く脈打つ鱗が煌めいている。約3周程巡って、持ち上げられた鎌首が夕月に合わさり、神々しさを醸し出している。本来の時間からすると周囲は暗く、別世界に来てしまったかと錯覚させる。
村の人々は絶望を感じている。村の誰かが神か悪魔を本気で怒らせた。もう喰われるしかない。
その中で恐怖だけでなく、強い後悔を滲ませている顔の奴がいる。人々は犯人探しなんてする余裕はない。犯人がいるなんてそもそも思ってないからだ。だが罪人達は違う。自分の罪が明らかになるのか? 自分の罪で人々が死ぬのか? 自分は何であんな事をしてしまったのか?
スキヤキは咎人達の背後に回り、締めて落としていく。全部で七人いた。七人目の男を落としてから右手を上げる。これで終わりだ。
『契約を破りし者は、正直だったようだ。他の者には恐怖を与えた詫びとして豊作を誓おう』
ラミアはそう人々に語ってから、幻術を解いた。
村は夕月に照らされて、まだ明るい。人々は消えていなくなった黒き大蛇に畏れを抱きながら、平伏して感謝の言葉をそれぞれ口にしている。
人間サイズに戻ったラミアはフード付きの外套で、蛇の髪を隠している。
同じようにアールマティも赤髪を隠している。そのアールマティがラミアの代わりに村の人々へ言い渡す。
「森の守り神を落とし入れようと謀った者達は捕まえてある。彼らの処分は神にしていただく。わかったな! 」
ヘリオスの家に、スキヤキが判断した七人を連れてくる。ヘリオスは、ラミアとスキヤキ達三人に感謝を述べる。彼の横には可愛い村娘がひとり付いてきている。この村に着いた初日、アールマティに祈るように話しかけていた女性だ。
「どうするのなん? こいつらの処刑。村の外れか森でやって来ようか? 」
ダニエルはこういう時はドライだ、そう思いながら縄で縛りつけている男達を見ながら、スキヤキがヘリオスに付け加える。
「訊きたい事を訊いてからでいいぞ、ヘリオス。俺達はどうしても構わない。ラミアもヘリオスの好きにしていいよな? 」
「私は構いません」
ヘリオスは縄で縛りあげられて、猿ぐつわを咬ませられている男達を見て、その後、ラミア、スキヤキと見る。二人が頷くのを見て、皆の猿ぐつわを外していく。
そして、ヘリオスは彼らの中心人物に話し掛ける。
「村長、なぜこんな事を? 」
「魔族を放っておくわけにはいかない」
村長は他の六人とは違い、恐怖を感じながらもまだ心が折れていなかった。
「家畜が襲われていない、不作が起きていない、それなのに森の守り神を悪魔だと? 」
ヘリオスが村長に尋ねなおす。
「俺らは知らねえ」
「村長に頼まれただけなんだ」
残りの六人が謝罪と言い訳を言い出し始めるが、彼らをスキヤキが眼で静止させる。
「今も蛇の悪魔がいるかどうかはわからなかった。だが、蛇の悪魔が確かにいた事は知っている。確か名前はラミアだったな」
ヘリオスがラミアを見る。
「私はこの者を知りません」
「アポロから聞いていたんだよ。お前を倒しにいき、お前に騙されて帰ってきた事もな」
「騙していません」
「人間と、神や悪魔が愛し合う? 笑わせるな。だからこそ私はお前が悪魔と言い切れるのだ」
村長はもう恐怖ではなく、正義という名の麻薬に酔っている。
「確かにこれまで村に被害はあってない。だがアポロが亡くなった。これからはわからない。いや、アポロ亡き後、ヘリオスが村の若者達の中心メンバーになればどうなる? ヘリオスの気持ちや考えなんて書き換えられるのだからぬ」
「この村を大切に思っています。だからこそ森の守り神を大切にしないといけないんです」
「やはりどこまでいっても魔族の味方なんだよ、お前は」
「どこまで言っても平行線ですね」
そう言って、ヘリオスはスキヤキに顔を向け声をかける。
「村長以外は少し村の仕事を何回かしてもらいます」
そして、村長に顔を向けて宣言する。
「村長は一年間村の仕事を頑張っていただきます」
「私への罰を軽くしたとして、私は変わらない。そしてお前はいつか必ず人を村を騙す」
「騙しません」
「知らないんだな。……お前は目覚めるのさ、悪魔に、魔族に」
「なりません」
「お前は悪魔の子なんだ。アポロの子ではある。だがその女……魔族の息子でもあるのだ。そんな存在が許されるわけないんだ」
村長の声はさらに強くなり。
「お前には絶対にやらん、やらんからなっ! 」




