6、私の求めに応えてくれた
「彼は私の求めに応えてくれた。そして産まれたのがあなたよ、ヘリオス」
そう呼び掛けられて、すぐ、母さん、なんて応えられる者はいないだろう。ヘリオスは逃げるように別の質問をぶつける。
「何故、僕の家以外の家畜や畑を襲ったの? 」
「本当に私は何もしていない。アポロが亡くなったのは知っている。でも、ヘリオスがいる。あなたのいる村に害を与えるはずはないわ」
話を途中から黙って聞いていたダニエルがヘリオスに尋ねる。
「ヘリオスの家畜や畑は襲われてないんだな? で、村の集会で君が行くのは立候補でもしたのかい? どうやって決まった? 」
「僕のところが襲われてないのは勇者の息子だからに違いないって。だから勇者の息子が魔族退治に行けば倒せるだろうって、村長の息子が言い出して……」
「村長か村長の息子に恨まれてる可能性は? 」
今度はスキヤキが質問する。
「ない……と思う……けど……」
ヘリオスは自信なさげに答える。
スキヤキは提案してみる。
「この際だから村まで来てみれば? 」
ラミアは頷いて。そして宣言する。
「誰が騙したか白状させるのはどうでしょう? 息子の為にそれくらいの事はしますよ」
「面白そうじゃないか。やろう」
戸惑うヘリオスを置いてきぼりにして、話はどんどん決まって行くのであった。
ラミアは姿を巨体な蛇に見せる事にする。それが一番見た目的に禍々しく見えると皆の意見が一致した。彼女によると、一般の人間どもに見破られた事はないと言う。そう、彼女の蛇の姿は身体を変化させて、あの姿になっていたのではない。全て幻術であったのだ。
彼女は正直に話す。息子は別として、スキヤキ達三人とやり合って勝てる気がしない。幻術で脅して逃げて貰えない限りどうすることも出来なかったと。
ラミアが正直に話したと完全に信じられないスキヤキではあったのだが、あの睨み合いの長さを考えると全部嘘とも思えなかった。
村への道中で、ラミアは勇者アポロの話をする。
神様でないというラミアの話を信じ、それでいて魔族や精霊とか肩書きを求めず、彼女の存在をただラミアとして見てくれた事。
契約に縛られていた彼女をその優しさで、解き放ってくれた事。
存在の異なる彼女と、目線を合わせようとしてくれた事。
ラミアはずっとずっとこの惚気を聞いて貰いたかったとばかりに話続ける。
ヘリオスは黙って、その話を聞いていた。
スキヤキはそんなヘリオスを見ながら思う。勇者アポロは確かに勇者で、勇者の息子はただの息子だと。ヘリオスがラミアの話を信じようとしているが、ラミアの動く髪を恐れているし、あくまでも人外としての意識で接している気がしたのだ。それはヘリオスの息づかいや、顔や身体の強張りから見て取れたのだ。
「あぁ、心配しないで下さい。別に森から出られないわけではないのです。森から出る必要性がなかっただけで」
そうラミアは語る。森は彼女の住処ではあるが、森そのものではないから、と。
宵の口には村に着いたのであった。
「勇者アポロの息子ヘリオスが魔族退治を成功させた。魔族を捕まえた。村の衆を集めよ! 」
アールマティが昨日同様、よく通る声で宣言する。
村人達はぞろぞろと、おっかなびっくりではあるが、昨日と同じように広場に集まってくる。
黒い太蛇を縄で縛って連れてくるヘリオスに声をかけながら集まってくる。流石勇者の息子、新しい勇者だと。ただその中に彼を素直に称えない者達がいる。捕まっている黒蛇を異常に恐れていたり、憎んだりする者達がいる。
完全に村人が集まった時、昨日より人数が多くなった時、村長が皆を代表して、大きな声で確かめる。
「その黒大蛇が我々の村を襲っていた魔族、いや、魔物か? 」
ヘリオスが答えるよりも早く、黒大蛇が言葉を返す。いや、言葉を皆の脳内に響かせる。
『面白い話だな人間ども。いつ私が村を襲ったのだ? 』
そう響かせると、縄が弾け飛び、身体の大きさが村を包むくらいの大きさになる。村人達を包囲するようにトグロを巻き、その大きな鎌首を皆の頭上から下ろす。
『私は森の守り神。勇者アポロとの契約によりこの村を守ってきたが、どうやら人間どもが契約を破るようだ』
「待って下さい」
村長が慌てる。いや、村中が慌ててる中で、発言出来たのは流石村長というべきだろう。
「どういう事ですか? 村の家畜を襲っていたのは守り神様ではないと言うことですか? 」
『当たり前だ。もし襲うなら家畜ではなく、人間を襲ってもいいのだからな、私は』
そう言うと、ラミアは村人を包囲している胴体を黒く輝かせて圧倒的な力の差を感じさせる。
『私を馬鹿にした奴は出て来い。出て来ないなら一人ずつ喰らっていっても良いぞ! 』




