5、人間は信じられないが
森に入った時に隠れた魔力は感じた。魔力を小さく小さく漏れでないようにしている感じが伝わった。だがスキヤキはその魔力そのものがどんなものであるのかを考えようとしていなかった。その魔力の波長? デザイン? 言葉にはできないが、魔力の質を感じようとしていなかった。魔力の質が禍々しいなら魔族。魔力の質が優しいものなら森の守り神。それだけでしか考えようとしていなかった。
「わかった? スキヤキ。あんたは眼もいい。耳も肌感覚もいい。だがまだこの世界を掴みきれてない。前世に惑わされてるな」
ダニエルが状況を掴もうと、二人に尋ねる。
「二人だけで話を進めないでねん? つまりはこの蛇……の女の子は森の守り神だって話? 」
「違う。この女の子……いや、女性は……いやいや、どっちだ? 」
スキヤキは森の女神ラミアと、勇者アポロの息子ヘリオスを交互に見る。
アールマティがボソッと呟く。
「家族って言っとけば間違いない」
「家族? 」
ヘリオスが一番驚いた。当然だ。相手は魔族、父親が封じた魔族が甦った可能性を一番考えていたからだ。
ラミアはヘリオスを襲うと言うのが脅しとわかって、落ち着いて答える。
「ヘリオスは私の息子です。よくわかりましたね? 」
「言われて初めて……魔力の波長なんて言われて初めて気付いたよ。ヘリオスをアールマティが人質にしたのもあったしね。ヘリオスとラミアの魔力の波長が、魔力量は全然違うけど、凄く似てる事に気付けた」
スキヤキがラミアに答えながら、ヘリオスとダニエルに説明する。
人間の身体に魔力が確かに存在している世界。スキヤキは確かに知っている。だから相手が魔法を使おうとしているとか、魔力量がどれくらいかなんてのは戦闘に入れば絶対に知覚するようにしている。この世界で生き残る為に。
だが個人個人の魔力の波長、癖みたいなモノは今まで意識した事がなかった。アールマティがまだまだ一流でないと言うのは確かだなと、スキヤキは思う。スキヤキは自分が凄いチートな能力を得たと思っている。
スキヤキは自分の能力がこの脳ミソにあると考えている。
知覚に当たる五感全てが異常なくらい鋭敏で、身体を自由自在に動かせる運動神経、異世界に生まれてすぐに語学を習得出来たこと……全部、脳の働きでないのかと。
前世に惑わされてるなとは、前世に魔力なんてなかったから、魔力に対しての注意力が低いという事だろう。というか、アールマティこそ何者なんだ?
「あなた達は、ヘリオスを騙してここへ連れて来たのではないのですね? 」
「ヘリオスが騙されたって事は間違いなさそうだけど、俺達が騙したわけではない。ラミアは村に被害を今は与えてないんだよな? 」
「もちろんです。最愛のアポロが愛した村を襲う意味がありません」
「聞きたいのはねん、ラミア様は魔族なの? 守り神なの? 」
「私はラミア。私を魔族と呼ぶのも守り神と呼ぶのも人間が勝手にしていること」
「あ~、ね。で、勇者はラミアを倒した話と言うのは? 」
ダニエルの話に、ラミアがわかりましたと頷いて詳しく説明する。
「大昔、この地域の人間達と契約しました。私に供物を渡すから豊かな恵みを下さいとな。20年前、永年続いた供物が途切れた。だからこの地へ送る恵みを止めて、我が眷属らは家畜を襲った」
ラミアの髪は、ラミアが話している間も動きっぱなしだ。だが彼女は色違いの両目を閉じて、思い出しながら語り続ける。
「そんな中、アポロだけは周りに隠れて私に祈り続けた。私は契約を違えた人間を腹立たしく思っていたので脅してやった。他の人間達は脅すと恐怖で逃げ惑い、私の幻術にかかり、自滅したのだが、アポロだけは違った」
息を吸い、胸に手をあてて、想い出を大事にしているように話す。
「彼は真に私を信じ、私の怒りが収まるならと、自分の身を捧げる。私はそんな彼の心意気に打たれた。だから彼と新しい契約を結ぶことにした」
ヘリオスは父親と目の前のラミアを繋ぎ合わせようと、父親の言葉をラミアの話を聞きながら思い返す。
「人間は信じられないが、アポロは信じられる。自分の身の危険を怖れず、ただただ守り神と呼ばれる私に祈る姿。私は、神でも何でもないこと、ただ古くからの約束を守っていた事をアポロに伝えた。その上でアポロの顔を立てようとな。アポロが村のモノには内緒でよい、供物を納める気があるならまた恵みを与えようと話した」
涙を閉じた眼に浮かべながら、その時の事を思い出してラミアは続ける。
「ラミア様は大変だなって、言うのよ。忘れていく、いなくなっていく人間との約束を守り続けるなんて、神様でもないのに大変だなって」
「だから供物の代わりに求めたの……」




