6、悪巧みする奴を騙すのが
「今回は迷惑をかけたな、ダニエル」
「いやいや、親分を慕ってるのはネスだけではないよん。ワシも親分には世話になった。報らせをくれて良かったさ」
早朝の賭場に客はいない。今、ここにいる三人は、賭場で働く二人と、客ではないダニエルだけ。
「本当にあの人強いのかしら? 」
「メーディアがあんな頼み方するからだん」
「ダニエル、おんしもキチンと説明しとらんかったんじゃろう? 」
「いやいや、ネス。ワシはアイツと一緒に仕事しとるが、貸し借りなしの関係さ。だがな、美女が普通に頼めばホイホイ仕事を受ける男なんよ」
「普通に頼んだつもりよ? 」
ダニエルは、首を振り呆れたように呟く。
「酒に何か仕込んだろ? 」
「何にも」
「じゃあ、魅了か? 」
「エルフの魅了は本能よ」
メーディアはまともに返事なんてしない。
「あぁ、本当におんしらは。ドワーフとエルフってのはこうも相性悪いんかなぁ」
「ネス。今更って話よん」
「で、本当に上手くいくの? 」
「ワシはな、メーディア、君を騙すのは楽しい事だと思ってるよん。でも、親分の為に今回は動いてるんだな。絶対に上手く行かせるのよん」
詳しく話を訊くために、ネスはダニエルに視線を持って行き、普段は年老いた姿で隠している本性を表に出してくる。
「失敗する可能性もある。だからおんしの計画を知っておきたい」
「ネス。親分がネスを使わない理由を考えてな。ここにいるのはみんなはぐれ者ばかり。時には見せる為の暴力は必要かも知れない。でも、殺し屋の集まりではないのねん」
ダニエルは、ネスが激昂することなんてないのを知っている。説明をきちんと聞いてくれるし、理解してくれると信じていた。
「賭場の給仕でいてよん」
「親分の命令は絶対さ。だが、親分の命の為なら話は変わる」
「ワシがこの賭場に関係がある事をスキヤキは知っている。で、この仕事を受けて欲しいと思ってる事も知っているなん」
メーディアは舌打ちする。ドワーフの話は長い、そう思っているが、それは彼女の勘違いだ。ドワーフは本来寡黙なものが多い。知り合いのドワーフがダニエルしかいないからこその勘違いである。
「スキヤキが仕事を受ける基準は、美女からのまともなお願いなら即受ける。そうでなければ話を調べてから、神に見放された人々を救おうとするだろう」
ダニエルは茶を飲む。酒でないのは、ネスに敬意を払っているからだ。
「メーディア、あとな、スキヤキは酒で酔いつぶれることはないのなん。それと、君程度の魅了にかかる事もないのなん」
ダニエルはメーディアの魅力の高さを良く知っている。本当に素晴らしい。だからエルフは嫌いなんだが……。
ダニエルも、そしてスキヤキも、もっと魅力の高い、もっともっと魅了の力が強い女性を知っている。その女性の性格がとてもイイ性格であることも知っている。
「だが調べた上で、こちらの味方をしてくれるのよん」
「そこまで確信があるのか、相棒を信頼してるんだな」
「いやいや、信頼してないわけではないが、今回はコリンティアファミリーを信頼してるんだなん」
ダニエルはここぞとばかりに人の悪い顔を作る。
「悪巧みする奴を騙すのが一番簡単なのよん」
「だから早く教えなさいよ」
客前では絶対に見せないメーディアの姿。ああ、この姿でスキヤキに頼めば一発なのに、とダニエルは思う。
メーディアがスキヤキにいきなりこの姿を見せる訳ないのだが、ダニエルはダニエルで、彼女のこの姿に慣れ過ぎていた。
「コリンティアファミリーにこんな情報を流したのよん」
やはり酒が飲みたいな、口の運びが良くない。
「剣の腕前に自信のある男がこの街に来ている。この騒動を聞き付けて、名を挙げたいその男は、衛兵の武道大会で優勝したレオニスを斬りたがっている、とね」
「おいおい」
メーディアは慌てて、ネスは確認する。
「レオニスはあんな男だが、剣の腕は間違いない。大会で優勝したのは実力だからな。彼の正体をバラしても大丈夫なんだな? 」
「そもそもレオニスにスキヤキが敵わないなら、それまでよ。スキヤキと親分に関係がないってところが大事なわけだし」
三人とも、それぞれ親分の為ならという気持ちは同じだ。そして、もし今回失敗したら親分の『争うな』という命令には背くつもりでいた。




