5、悪魔は命なんて欲しくないのさ
「レオニス隊長は腕に自信があります。そして、実際に夜に襲撃された事もあります」
シナモンスティックを咥えながら話を聞き続ける。
「もちろん返り討ちにしてるわけですから、今も生きている」
スキヤキは返事をせずに、顎で話の続きを促す。
「もちろん、私は処分したいので、お手伝いします。彼が確実に独りで、酒に酔っている状況をご準備します」
「で、俺が失敗した時の用意もしてある、と」
アーバンは満足げに頷いて答える。
「スキヤキさんが止めを刺しきれない時は、たまたま通りかかったイーサンがレオニス隊長を助ける為に走り寄って……」
「止めを刺す」
「そうです、そうです」
正解ですよ、とアーバンはニッコリ微笑む。
「俺は馬鹿じゃない」
スキヤキは馬鹿な男を装おう事にする。
「何で、レオニスを処分しようとする? イーサンに裏切られて二人がかりだと厳しいから、そこは知っておきたい」
ここでアーバンに殺気を放つ。
「納得できない時は、今、お前を殺してから逃げる。ここから逃げる事なんかわけないからな」
アーバンは唾を飲み込んでから、ゆっくり話出す。
「レオニス隊長、いや、レオニスは狂っています。ただただ剣で斬り殺したいだけなんです。確かにあいつは亜人か大嫌いです」
咳払いをしてから続ける。
「この街の目立つ様な亜人は斬って廻るでしょう。そして、私の商売敵も潰してくれるでしょう」
アーバンは、スキヤキに断りを入れてお茶を飲む。
「で、レオニスが亜人を斬り、あの賭場を潰し、次にやる標的は誰でしょう? 」
「非合法な組織であるコリンティアファミリーを斬り殺しに来るでしょう。衛兵隊を引き連れて、ここをぶっ潰して、地下に潜んだ奴を、炙り出してひとりひとり自分の剣の餌にする」
最後に、静かに決意を持って告げる。
「だからレオニスには消えて貰わないといけないんです」
宿に戻る道で、ボーッと考える。
とりあえずレオニスは狂っているというので間違いないのだろう。
アーバンの理由自体には、不自然なところはなかった。
口の中がどうもネバつく。ここのところは交易都市カラハタスを塒にしてきた。どうもこの帝都の環境は合わない。イライラしながら、スキヤキは歩く。
昨日と同様に、あの路地の角に、少年がいた。
「良かった」
そう少年はスキヤキに気付いて呟く。そして、次には力強く声を出す。
「お願いがあります」
「俺は悪魔じゃないぞ」
スキヤキは少年に先回りして答えた。
「違います。悪魔にはもうお願いしました」
スキヤキは首を捻る。
「悪魔に頼んだら、叶えてくれるさ」
「僕は悪魔と約束したんです。僕の魂に価値があるかわからない、でも絶対に約束を叶えて欲しいから……」
少年は両手とも拳を握りしめている。まっすぐ立ち、スキヤキを見上げて続ける。
「僕の命を悪魔に捧げるって約束したんです」
「それで? 」
「本当に突然で申し訳ないんですが、どこか人目につかないところで僕を殺して下さい」
スキヤキは懐からシナモンスティックを取り出して、咥える。息を吸い、シナモンの香りをゆっくりと脳へ送る。
呼吸を深くとる。
今回の依頼主は、この少年に決まりだ。
「昨日、きちんと説明してやれば良かったな」
少年はスキヤキが殺してくれないと思った。
「悪魔の事を教えてくれたくせに殺してくれないんですか? 」
「悪魔は命なんて欲しくないのさ。そんなものいつでも手に入る」
「どういう事ですか? 」
「悪魔が欲しいのは魂なんだよ。殺す事なんて悪魔に取っては難しくない。悪魔が手にしたいのは、神に還されていく魂をぶんどる事なんだ」
「どうすればいいんです……」
「俺が証人になってやる。誓うんだ」
「神に愛される、善良に長生きをした魂になれ、そして、その魂を死ぬときに悪魔に捧げる、とな」
「そんなんで叶うのか」
「お前が真に願い、約束を果たす事を誓うなら、今夜にでも悪魔も約束を果たすさ」
断言する。
「願いを叶えてくれるさ」
スキヤキは力強く宣言する。




