4、ひとつ提案があります
「へえ、凄いなあ」
「なんだ、てめえは」
「討ち入り直前って感じ」
「けっ」
スキヤキは殴りかかってきた男の拳を躱して、腕を取り、関節を極める。
痛みに悲鳴を上げる男を突き飛ばして、周りの奴らに大きい声で話かける。
「仕事が欲しいんだ。腕を見せる必要があるなら、あと二人くらいでいいかな? 」
武器に手をかける者、すでに剣を抜いた者もいる。
「待ちなさい」
落ち着いた、それでいて笑いを絶やさない男が制止する。
「腕に覚えがあるなら、ここら辺のではなく、うちの切り札と手合わせして欲しい」
「ほう」
「まあ、奥へ来なさいな」
スキヤキは頷いて、付いていく。切り札の力が見れるのなら儲けモノ。
奥の部屋にいたのは、剣を既に抜いて、身構えて、静かに様子を伺う中年男性だ。短髪で大柄な男だった。鍛え込まれ、余計な筋肉は付けてない。
「こいつヤバい奴だぞ、アーバン」
「先生もそう思いましたか? 」
汗を拭わず、スキヤキの動きを精査しようと先生と呼ばれた男は目を光らせていた。
「この童顔がいけない。用心してからでないと腕を見誤りそうだ。アーバンの嗅覚は流石だ」
アーバンはスキヤキに向けて、宣言する。
「雇わせていただきます。お名前は? 」
「スキヤキ」
「私はアーバンと言います。コリンティアのアーバンです。こちらは……」
「イーサンだ」
先生と呼ばれた男は剣を納め、アーバンに合わせて自己紹介をする。
スキヤキは二人の顔を見る。アーバンには余裕がある。イーサンは剣を納めたが、まだ緊張を弛めてないと見てとる。
これくらいの用心棒を手にして、縄張りを管轄する衛兵隊を味方にしているのだ。余裕があるのも当然だろう。
「ひとつ提案があります。本当に信用できるか試させていただきたい」
スキヤキはアーバンを睨みつける。役作りとして大事なところと思っているからだ。
「あ、腕はまったく疑ってないですよ。私はイーサンを信用している。その彼が貴方の腕を高く見てるんですから」
アーバンは一息ついて、声を潜める。
「私は腕が立つ人ではなくて、信用出来る人が欲しい」
「へえ、信用ねぇ」
「ひとまず、今夜はお近付きの印に、お酒でも」
そう言うと、使用人に声をかけ、いや、人相の悪い使用人だったが、酒と女が用意される。
「美女揃いじゃないか、アーバン。あんた人を見る目があるね」
スキヤキは、隣に座った女性に視線を向けたまま、酒を飲んでアーバンを誉める。女性はスキヤキの手を握り、誉めたてる。
「優しい顔、ここら辺にはいない顔。いいわぁ」
「腕はたくましいのね、しゅっとしてるのに」
「やだぁ、どこ見てるの? 見られると恥ずかしい」
「あら、私を誉めてくれるの? もう一杯飲んでよ」
くだらないが楽しい時間だ。何も考えずに飲むのはイイ。スキヤキは女性が見せたがってるとこを見て、合いの手を入れて、ただただ飲む。
アーバンもイーサンもそれなりに飲んでいるが、スキヤキは遠慮せずにグイグイと飲み続ける。
コリンティアファミリーの屋敷で、一晩泊まったスキヤキは、荷物を宿に置きっぱなしにしているのを悔やむ。
まず髭剃りがない。これはまあいい。小型ナイフをズボンの横に付いているポケットから取り出して、それで髭を剃る。
もうひとつのものがないのが、一番気に入らない。彼が豚の毛で自作した歯ブラシが無いことだ。この世界には歯ブラシが無いのだ。
昨日出された酒は二種類。アルコール度数が高いだけだろう酒と、甘ったるいだけの酒だ。特に甘い酒がいけない。口の中が非常に気持ち悪い気がする。
「さて、何をすれば信用してもらえるのかなあ」
何かしら条件かテストを出されるだろうと、スキヤキは思っている。
あの賭場を襲えとは言われないだろう。信用という意味では多少あり得る話だが、腕が立ちそうな俺を使う必要はない、とスキヤキは考えていた。
朝食があると、人相の悪い使用人が告げに来る。少し緊張した顔つきでやって来た。これは中々の条件がくる、そしてこの使用人は条件の中身を知っていそうだ。
「おはようございます。よく寝れましたか? 」
「昨夜は楽しい酒だったからな。二日酔いもない」
スキヤキの身体は酒自体に酔う事はあるが、二日酔いは一度も経験したことがない。
「羨ましい。私は、スキヤキさんにつられて、少し飲み過ぎましたよ」
「いやいや、アーバン。最後までしっかりしてたじゃないか」
アーバンは軽く笑って、目の前のパンをスキヤキに差し出す。
「食べながら聞いて下さい」
スキヤキはパンを口に入れながら、頷く。
「ある人を今晩斬っていただきたい」
「雑魚は美味しくないと思っているんだが……」
「大丈夫ですよ。中々腕が立つ人ですから。スキヤキさんに斬って貰いたいのは……」
「レオニス隊長です」




