7、人間は傲慢になるものだな
夜道だ。それなりに広さはあるが、飲み屋などはなく、灯りはほとんどない。
ただ今夜は不知夜月、剣で火花を散らし、腕比べをするのには丁度良いのかも知れない。
人気はない。コリンティアファミリーが人払いをしている。念入りな事である。
じっと待つ。イーサンと同じ場所で待機するのであれば、会話に集中力を取られたかも知れないので、それは良かった。
飲み屋を出て、こちらまで歩いて約10分。決まった道で帰るのは襲撃されたいからだという。頭が沸いている。既に刀は抜いている。居合い抜きをするのではない。後方から刀で切りかかる。
スキヤキは、刀が月で光らないように持ち、シナモンスティックを咥えて待つ。
歯磨きって、大事だな。スキヤキは宿に戻って、念入りに歯磨きをしてから仮眠を取った。起きてからも歯磨きを念入りに行った。
たがら今の気分はスッキリしている。スキヤキの耳には、この通りを歩いて、近付いてくる足音がはっきりと聴こえた。
足音を聴きながら、スキヤキは考える。どう出てやろうか?
作戦では、酔っ払ったレオニスが通り過ぎて後方から襲う予定だ。
シナモンスティックを懐に戻して、まずは作戦通りにやる事を決める。どうやっても斬る事には変わらない。スキヤキは自分の思考がレオニスと近い事に気付く。
「才能や力があると、人間は傲慢になるものだな」
一度、足音が止まる。
まだスキヤキの独り言が聴こえる距離ではない。予定通りだな、と確信する。
足音が近付いてくる。スキヤキは目を瞑り、耳に意識を集中させる。刀を握るのに力は入れず、通り過ぎていくのを確認してから、レオニスの後方にでる。
スキヤキは足音を立てず、近付く。
急がず、必要な距離を見定める。
一歩一歩、距離を縮める。
次の一歩でという刻。
カンと音が鳴る。
スキヤキの目の前を剣の切っ先が通り抜けていく。
「これくらいでないとな」
もう一度、返す剣がスキヤキの眼前を通り過ぎる。
「嬉しいな」
笑いながら、今度は右首筋を狙った斬り。
「お前なかなかやるじゃないか」
レオニスの踏み込みは力強く、その剣は誰もが受け止めきれるものではない。
「太刀筋は見せないのか? 」
レオニスは呼吸を整え、隙を見せず、通りの壁にスキヤキを追い詰めて行くように、剣を振るう。
あからさまに片方からだけ打ち込んでくるのではない。
剣術をかなりやり込んでいる。
全然乱れていない。
酒も飲んでいない。
「俺は面白くないぞ」
スキヤキは呟く。
「もう次はない。斬り合おうじゃないか」
レオニスは歯を見せる。
「そうだなあ、悪魔に喜んで貰わないとな」
そう言うと、左首筋を狙った剣が振り下ろされているのを、右に刀で受け流し、レオニスの右脇腹を蹴り飛ばす。
壁にぶつかるも剣は離さず、すぐに剣先をスキヤキに向ける。
スキヤキはレオニスが立ち上がるのを待っている。
「魔法が飛んで来るのは無さそうだな」
スキヤキは呟く。
レオニスは立ち上がり、叫ぶ。
「俺は剣で負けた事がないんだ」
「お前がしてたのは試合だろ? 」
「試合だと……」
「俺がやっているのはそういうのじゃないんだ」
スキヤキは下げていた切っ先からそのまま切り上げる。
レオニスは剣で受けようとするが、彼の手前で上がった刀が、彼の右手の指を斬る。
指を切った刀が、今度はレオニスの剣を叩き落とす。
スキヤキは懐からシナモンスティックを取り出して咥える。
「本当に終わりかもな」
「きさまぁ」
「慌てるな、ちゃんと殺してやる」
スキヤキは変わらない状況を確認して、レオニスに告げる。
「捨てられたな、レオニス」
「甘いよ、お前は。片手でも逆転がある。殺せる時に殺せない奴は駄目さ、生き残れない」
レオニスは左手で剣をしっかり握り、打ち込んでくる。
スキヤキはその剣をしっかりと避けてから、レオニスのあばらへ刀を突き刺す。
突き刺した刀を引き抜いて、刀に着いた血を布で拭う。
「喋るのは終わってからでいいんだよ、衛兵隊長さん」
刀を鞘にゆっくりと仕舞う。
「イーサンは出て来ないか、まあ、充分か」
「少年の願いは叶えた」




