陽光
よっしゃ!後半!と思ったら後半案外短かった。すいません。後半と言うより締め?
身支度を整えると、
「レオちゃん」
シャオが呼んだ。
その可愛い唇に唇を重ねる。
出発前の儀式のようになっていた。
そして二人はテントを出ていった。
空は穏やかに晴れて、太陽がその光で地上を温めていく。
カストーニャ平原を見渡せる崖の上で、レオ、シャオ、カイリ、ブルーマンの四人は、陣地を見下ろしていた。
相手の陣形も整えられており、もういつ始まってもおかしくない空気が漂っている。
「あちらさんもかなり焦っているようだね」
ブルーマンが見下ろしながらレオに言った。
「そうみたいだな」
「新しい魔道士が何人かいる・・・。全部で8人ね」
シャオが風の探索魔法で向こうの陣地の魔道士の気配を探る。
前回の戦いで、レオ達がことごとく魔道士をたたきのめしてしまったからだろう。
「なら、さっそくいくか」
レオがニヤリとする。
その顔を見てカイリの背筋が寒くなった。
「レオ!」
「ん?」
何でもないことのように見つめるレオ。
それを睨み付けるカイリ。
両者の間を走るよく分からない緊迫感に、シャオもブルーマンも首を傾げる。
カイリが一つため息をつく。
「分かってるわよね? 私は楽には死なせないわよ?」
「はい」
レオの顔に冷や汗タラリ。
「何かあったの?」
シャオが心配してレオの顔を覗き込む。
「いや~…」
背中を見せたカイリから感じられる威圧感に、冷や汗タリタリ。
なんとか心を持ち直し、
「ま、見てろ」
「うん」
お得意の爽やか笑顔でシャオに答えた。
そして、両の手に力を集中し始める。
最初は火と風。
これを合わせる。
ここまでは簡単な作業だ。
そして地の力を集中させていく。
その時ブルーマンが気づく。何か異質な感じに。
「カイリ…」
ブルーマンがそっとカイリに尋ねる。
「レオは、何をしようとしてるんだ?」
(さすがはブルーマン、気づいたのね)
どう説明するか迷う。
「この前の夜のあれよ」
「あれか…」
あの夜、カイリが戻ってくるのを待っていたブルーマン。
少し離れた場所で異質な気配を感じ取っていた。
帰ってきたカイリに問いただしたものの、カイリは何故か話しづらそうにするだけで、結局細かいことは何も言わなかった。
ブルーマンにもなんとなくは分かっていた。
レオの実験、異質な力の気配。
それはとても危険な臭いのするもの…。
「あなたも備えておいて」
「分かった」
カイリとブルーマンがそれぞれに得意な力、水と地の力を集め出す。
そしてレオも、発現させた地の力に水の力を混ぜ合わせていく。
(この前よりも水の気が安定している)
この前の時は少し力みすぎて水の力を少し多めに出してしまったが、今回は2回目ということもあるのか、水の力は多すぎず少なすぎず、いい感じにまとめ上がっていた。
そして、両の手の4つの力を合わせていく。
ゾクッ
カイリ、シャオ、ブルーマン達に悪寒が走った。
何かとてつもなく恐ろしい気配を感じて。
(何?! 今の悪寒…)
シャオが思わず両手で身体を抱きしめる。
気を抜くと膝から力が抜けてしまいそうだ。
(なんだ?! 今のは?!)
(この前とは…、違う?!)
ブルーマンとカイリも両足に力を入れて踏ん張った。
悪寒に押しつぶされてしまわないように。
そして、レオの両手の間には、白く光る力が生み出されていた。
その力は白く、そして例えようもないほど大きく、深く。
(あれは…?!)
シャオが思わず後ずさった。
(明確に感じる…)
(あの力は…、光の力!)
ブルーマンとカイリもレオの手の中にある発光体を見つめる。
たまらずシャオが声を上げる。
「レオちゃん! それって!」
「ん? 分かるか?」
そう言ってレオが振り向いた瞬間、
バリバリバリッ!!!
発光体から、稲妻のような光が迸る。
「!」
「レオちゃん!」
「水…」
「地…」
「「壁!」」
カイリとブルーマンの声が重なり、レオの周りに水と地の結界が張られる。
「レオ! なんとか制御してちょうだい!」
「く、くう…」
レオが歯を食いしばり、なんとか力を安定させようとするが、稲妻は収まることを知らず、ますます結界の中を荒れ狂う。
「もしもの時は…やるわよ?」
カイリが右手に水の力を集め始める。
一撃でレオの身体を貫くことのできる水の槍を。
「カイリ姉さん! やめて! レオちゃんを殺す気?!」
シャオが両手を挙げてレオの前に庇い立つ。
「シャオ。レオとの約束よ。あなたはどいていなさい」
カイリが冷たく言い放つ。
その言葉がシャオは真実だと分かった。
いつどこで約束したかは分からないが、カイリとレオは二人でそういう約束をしたのだ。
シャオには、自分にはできないから…。
「いやいや! レオちゃんを殺すなんて!」
シャオにも分かっている。
力を暴走させた魔道士を止めるには、意識を手放させるしかない。
まだ低度の魔道士ならばそれもなんとかなろう。
だがしかし、相手はあのレオ。
最強と謳われるレオナルド・ラオシャスだ。
そして彼が今呼び出した力は、ここにいる者達では扱うことはできない。
でなければ、もし四大精霊の力であればまだ対処もできたかもしれないが。
故に方法はただ一つ。
「レオちゃん…! レオちゃん!!」
シャオが必死でレオの名を呼んだ。
その時、
ドッ!!
力の片鱗がレオの身体を貫いた。
そのままレオが崩れ落ちる。
「!」
「レオちゃん!」
「シャオ! あなただけでも逃げなさい!」
「え?」
カイリが結界の力を強める。
「見なさい、術士が倒れたのに術が発動してる…、だから…!!」
発光体から光が溢れ出した。
「ん?」
崖下で陣形を整えていた兵士の一人が、なにやら光り出す崖に気づいた。
「あの崖は、魔道士達のいる所では? あの光は何だ?」
つられて隣にいた兵士も崖を見つめた。その光はどんどん大きくなり、やがて味方の陣地を飲み込みだした。
「なんだ?」
アトワーディスⅢ世が魔道士に問いかける。
「先ほどから大きくなっていくあの光は何なのだ?」
だが魔道士達も答えない。
いや、彼らにもよく分からないのだ。
ただ、なんとなく感じているのは、それが光の力だということ。
そして、なんだか嫌な感じがするということ。
どうしたらいいのかもよく分からず、その光は大きくなり、やがてこちらの陣地も飲み込んでいった。
光の球体は大きくなり大きくなり、味方の陣地も敵の陣地も飲み込んで、森にかかろうという所まで大きくなると、突然消えた。
何事もなかったかのように、小鳥が空を横切っていった。
太陽が大分傾いた頃、崖の上に転がった人影が、ぴくりと動き始めた。
「う…、俺は…、いったい?」
赤みがかった茶色の髪、そして赤い服を着た人物。
そう、レオナルド・ラオシャスだ。
レオは起き上がり、眼下に広がる光景を見てギョッとなる。
敵も味方も綺麗な陣地を保ったまま、倒れて誰も動かない。
ただ風が吹いて時折布製のものがはためくだけ。
そこにいる人間達の中に、生きているものは誰もいなかった。
「死んで…?」
そしてハッと気づく。自分が倒れる前に何をしていたのかを。
「シャオ! カイリ! ブルーマン!」
振り向くと、三人が倒れていた。
外傷はほとんどない。
その顔は一様に青白く、薄く開けられた瞳には何も映さない。
「う、嘘だ。嘘だよな? 俺を殺してくれって、カイリ?」
だが何の反応も返っては来ない。
「冗談は似合わないぞ、ブルーマン」
根が真面目なせいで、冗談なんか言ったことのないブルーマンも何も答えない。
「シャオ? 起きろよ、シャオ」
肩を掴んで揺さぶる。
しかしその肩はすでに冷たく、固くなり始めていた。
「嘘だろ? 嘘だといってくれよ…シャオ…」
冷たくなったシャオを抱きしめる。
その感触はもはや生きている人のものではない。
つややかな光沢を放っていた唇は、青紫色になってしまっていた。
「シャオ…」
涙がとめどなく溢れ、レオは狂ったように泣き叫び始めた。
陽が陰り始めた頃、泣き叫ぶことにも疲れ、ただシャオを抱きしめて放心していたレオの側に、一つの影が舞い降りた。
コツン
という靴音に気づき、虚ろな顔で振り向くと、そこには一人の少女の姿。
長い髪は白く光り、穏やかな空気をまとった少女だった。
そして少女は、その瞳から一筋の涙を流すと、
「ごめんなさい」
と呟いた。
「私が、もう少し早く目覚めていたら、こんなことにはならなかったのに…」
「君…は?」
レオにはなんとなく分かっていた。彼女がどんな存在なのか。
「光の御使い。光の御子とも呼ばれるわ」
「光の…」
やはりそうか、としか考えられなかった。
この気配、この感じ。それしかないだろう。
そして、その彼女が目の前に現れたということは、
「そうか、…俺を罰しに来たのか…」
「え?」
「さあ、早く殺ってくれ。もういい、早く終わりたいんだ…」
シャオに顔を近づける。
あちらに行ったら、シャオにまず謝らないとな…などと考えるが、
「できないわ」
その少女の口から出てきた言葉は、レオが想像したのとは真逆の言葉だった。
「え?」
「あなたはすでに罰を受けている。時の流れからあなたは排除されているの」
レオは何を言われているのかよく分からなかった。
すでに罰を受けている?
何が? どうして?
「今後あなたは一切年を取ることもなく、死ぬこともできない。それがあなたに課せられた、罰。その罪が許される日まで…」
そういうと少女の瞳からまた涙が溢れ出してきた。
少女の言葉の意味がぼんやりとわかり始めると、レオの顔から血の気が引いていく。
「は、はは、神様は、いじわるだな…。一番大事な者を失った俺に、それでもなお生きろと言うのか…」
山の端に陽が落ちていく。
風が時折強く吹き、周囲の温まった気温を吹き流していった。
「いじわるだな…」
レオの後ろに立つ少女の耳に、レオの呟いた声が聞こえた。
これにてレオナルド・ラオシャス編は終わりです。そしてキーナ本編に繋がっていくのですけど、それは読者様の想像に任せます。また違うお話を書けたらと思います。キーナの本編も続きを書こうかな~と思ってます。その時はまた、気が向いたら読みに来てください!




