言葉
ズドドドドドドウゥゥゥ…
壮絶な地響きがこだました。
眼に涙を浮かべ、肩を震わせてそれを見つめるシャオ。
全ての木々が地面に突き刺さったのを確認して、彼女は呟いた。
「あたし…、もう無理」
そして風を纏うと、空へと舞い上がっていった。
隙間なく林立?する木々の間に、人影。
降り注ぐ木々を避けるためにか、あっちに腕を、こっちに足を、とおかしな態勢で動けなくなっていた。
「あ、危なかった…」
もう少しシャオのコントロールが良かったら、本当に串刺しになっていたかもしれない。
「と、とにかく、シャオを追わねば…」
と言っても動けるような態勢ではない。
ので、レオはもっとも簡単な方法を選んだ。
火で木を焼く。
火の精を集めると、一瞬にしてレオは木々と共に業火に包まれた。
一斉に焼け落ちていく木々。
あっという間に木々が炭になると、業火は他へ燃え移ることなく、一瞬で鎮火されてしまった。
その焼け落ちた灰の中央に、ただレオだけが残った。
「シャオ!」
風を纏い、シャオを追いかけ空へ舞い上がった。
カイリが気づくと、シャオがこちらへ向かってずかずかと歩いてくるところだった。
「あら? シャオ?」
呼びかけに気付かなかったのか、シャオのテントに突っ込んでいってしまった。
なにやらおかしなシャオの雰囲気に追いかけるカイリ。
「レオをとっちめに行ったんじゃ…」
とその言葉を切った。
テントの中をのぞくと、自分の荷物をまとめ始めているシャオ。
「何かあったのね…?」
その言葉に気付いたのか、シャオが振り向いた。
「お姉さん…」
瞳が潤んでいる。
「シャオ?」
「短い間でしたけど、お世話になりました!」
そう言って深々と頭を下げるシャオ。
「シャ、シャオ?!」
いきなりの展開に驚くカイリ。
「どうしたの? 何があったの?」
とにかく落ち着かせようと、シャオの肩に手をかけ、優しく問いかける。
ところが、シャオの目からはポロポロと涙がこぼれ、
「あたし…、あたし…、もうダメ!」
と、泣き出してしまった。
シャオを優しく抱きしめてやるカイリ。
そのカイリの耳に、
「なんであんな男好きになっちゃったんだろう…」
とつぶやくシャオの声が聞こえた。
(それは言えてる…)
と思ったがさすがに口にはしなかった。
「シャオ、落ち着いて、あなたが今いなくなると困るわ」
シャオも貴重な戦力だ。
今いなくなられると、いろいろ作戦に支障が出てきてしまう。
シャオもそのあたりは理解しているらしい。
涙を止めて、カイリを見上げる。
「だけど…、あたし、もうあいつの顔もみたくない!」
と叫ぶと、また目から涙がポロポロポロ。
(重症ね…)
さてどうしようかと考え始めたそこへ、
バターン!
「シャオ!」
腰に簡素なタオルを巻きつけただけのレオが飛び込んできた。
ドドドドドドドドドド
宿営地に風の矢が降り注ぐ。
逃げ惑うレオ。
その他巻き添えを食いそうになる兵士達。
はた迷惑この上ない。
「あんたなんか、大っ嫌いよ―――!!!」
眼を三角にして怒り狂うシャオ。
「シャオ! 待て! 話を聞いてくれ!」
「聞く耳持た――――ん!!」
そして風の矢が降り注ぐ。
(ああ…、破壊されていく…)
カイリには見ていることしかできなかった…。
バチイッ!
何かが風の矢をはじき返した。
そこに立っていたのは、穏やかな顔をしたブルーマンだった。
「落ち着きなさい、シャオ」
「ブルーマン…」
一瞬冷静に戻ったかと誰もが思ったが、
「そいつに味方する気―――!!」
「シャオ! 落ち着いて!」
カイリが慌てて後ろから止めに入った。
シャオのテントの中。
ベッドに座らされているシャオとレオ。
その前に立つカイリとブルーマン。
「とにかく、これ以上宿営地を荒らして欲しくはないので、とっっっっっっっっても嫌なのはわかるけど、二人で話し合ってちょうだい!」
そう言うと、カイリとブルーマンはテントを出て行った。
重苦しい沈黙が流れる。
なんともなしに顔をポリポリとかくレオ。
ちらりとシャオを見るが顔を向こうに背けていてその表情は見えない。
重苦し~~~さに負けて、レオが勇気を持って話しかけることに。
「シャ…」
「聞きたくない!」
一喝されてしまった。
「仕方なかったんだ! これにはいろいろ事情があって…」
「いつもそうじゃない! 事情があって、事情があってって…、結局女の人を抱きたいだけなんでしょう!!」
(それは否定できないけども…)
「いや! 違う! そうじゃなくて!」
慌てて頭に浮かんだことを打ち消すレオ。
「あたしもそうなんでしょ」
シャオが悲しげにつぶやく。
「結局、その中の一人でしかないのよね…。あたしも…。レオちゃんの性欲を満たすだけの道具…」
レオが目を見開く。
シャオの肩をつかむとこちらを向かせ、その頬を叩いた。
「俺が一度でもお前をそういう風に見たことがあるか?」
レオの顔が怒っていた。
自分の一番嫌いな人種と同じように言われたからだ。
女を物としてしか扱わない。
レオはそんな人間が大嫌いだった。
レオはどんな女性も女性として扱った。
例え娼婦として生きていようとも、彼女たちは彼女なりに懸命に今日を生きている。
レオはそれを尊重した。
故に娼婦たちからレオは好かれた。
物ではなく人として対等に扱ってくれるレオに、彼女たちはおしむらく協力するのだ。
「だって…、だって、それ以外にあたしを傍に置く理由なんてないじゃない!」
「だからそれはお前を愛してるから…!」
「そんなこと! 誰にでも言ってるんでしょ! 信じられない!」
シャオの言い分はもっともだ。
どんな女でも抱けるのなら、別に自分でなくてもいいわけなのだから。
だがレオはシャオを選んだ。
その理由が分からない。
だからいつもシャオは不安だった。
レオがそんなシャオをじっと見る。
「シャオ、お前も魔導士のはしくれだから、言葉の持つ重みが分かるだろう? ならば、俺が軽々しく言葉を放たんことは分かるだろう?」
つまり言霊のことだ。
言葉は力を持つ。
放たれた言葉は形こそないが、人を傷つけも、癒すこともある。
魔導士になるにはそこから学ぶ。
言葉とはどういうことか。言葉を発するということがどういうことか。
「うん…」
言葉だけで人を縛り付けることもある。
言葉だけで人を開放することもできる。
特に、精霊に向けて放つ言葉は、契約にも等しい意味を持つ。
故に魔導士は軽々しく言葉を発さない。
特に重みを持つ言葉は。
シャオの涙をぬぐう。
顎に手を添え、自分の方へ顔を向かせる。
そして言い放つ
「愛してる」
シャオの瞳が潤む。
「この言葉はお前だけに捧げる」
真っすぐ瞳を見る。
「ほんとね?」
シャオの顔が上気して赤くなる。
「ラオシャスの名に賭けて誓う」
二人の顔が近づき、唇が合わさった。
扉の外に二つの影。
カイリとブルーマンがそっと扉に耳を当て、中の様子を伺っている。
しばらくわやわやと言いあう声が聞こえていたが、ほどなくして、それが歓びの声に変わったのを確認し、扉から身を放した。
こうなればもう大丈夫だろう。
「何とか仲直りしたようね」
「そのようだね」
レオが風の結界を張ったのか、その声が大きく漏れてくることはなかった。
やっと仲直りしました。
レオがやられているところは書いてて楽しかったです。




