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キーナの魔法~外伝~  作者: 小笠原慎二
始まりの赤の賢者
10/15

殺気

前話でいい思いをしたレオが制裁を受けます。

当然のことです。

月が天頂に達しようとしていた。

ベッドの中でお互いの体温を感じていた。

ユーリィは夢の中の出来事でもあったかのような顔をして、レオの腕枕に顔を預けていた。

レオはさすがに少し疲れたのか、うとうととしているようだった。


「ラオシャス様」

「ん?」


半分閉じかけていた目が開いてユーリィを見る。


「お年が25と聞きましたが、ご結婚はなさらないのですか?」


レオの目が遠くを見つめる。


「心に決めた人はいるよ」


そう呟いた。

ユーリィの目が一瞬暗くなった。


「そう…ですか…」

「うん」

「きっと…素敵な方なんですね…」

「うん」


ユーリィが微笑んだ。

こんな人に愛されてる人は、とても幸せに違いないと思った。

レオの脳裏には黄みがかったオレンジの髪を風になびかせる少女の姿が思い描かれていた。

何よりも自由で、気高くて、気まぐれで、わがままで、春の嵐のように荒々しくレオの前に現れた彼女。

何者にも屈せず、己の力だけで生きていく。そんな強い輝きを持った瞳に惹かれたのかも知れない。


「彼女以外は、考えられないんだ…」


そう言って微笑むレオ。

けれども、聡明な読者なら当然お気づきのことだろう。


ナラオマエガイマシテイルコトハナンダ?


と、



バターーーン!!


突然勢いよく扉が開け放たれた。

そこに立っていたのは、怒りで体から蒸気がしゅうしゅうと音を立てて出ているシャオだった。


「シャ、シャオ!!」


レオが飛び起きる。


ギロリ!


とシャオがレオの隣にいる女性を射殺すように睨みつける。

女性は当然のように、裸だった。

もちろん布団で前は隠しております。


「レ~オ~ちゃ~ん…」


地獄の窯の底の音のような、おどろおどろしい声がシャオの口から洩れてくる。


「あたしずーーーーーーーーっと、待ってたのよ…」


レオの顔が真っ青になる。

ようやっと事態を理解し始めたユーリィがレオにしがみつく。

風の気配が部屋を満たし始め、シャオが上げた両の掌に集まっていくようだった。


「なのに…、あんたって人は…」


風がまとまり、形を帯びてくる。

その形状は、大きな槍の形をしていた。


「ま、まて! そんな大技…!」


制止するレオの言葉も風にかき消され…、


風槍カウリヤ!」


シャオの言葉に従って、風が槍の形を成してレオ達に襲い掛かった。


ズゴドオ!!


壮絶な破壊音とともに、ベッドが真っ二つになった。

おまけに床に穴が開いて、実は下の階にいたお客達が突然起こった出来事に飛び起きたりもしていたのだが、破壊した当人はそんなことなど構っていない。

普通の人間ならばベッドとともに真っ二つになっているところだが、そこはさすがというか、寸前で躱したらしい。

シャオが辺りをなめまわす。

風の気配を手繰る。


「外ね!」


いつの間にか開かれていた窓の外に、微かだがレオの気配を探り当てた。


「逃がすもんですか!」


そう言うと風を纏い、宿屋の窓から外へと飛び出していった。

と、壊れたベッドの脇で、何かが光ると、パキパキと音を立てて結界が崩れ、レオの隣にいたユーリィの姿が現れた。

レオがとっさにユーリィの周りに姿を隠す地の結界を張っていったのだ。

風を得意とするシャオが苦手とする地の系統の力で隠せば、とりあえずシャオの目からは隠せるだろうと踏んでのことだった。


「な…なんなの?」


ユーリィには、一瞬の出来事で、何があったのかよく分かっていなかった。













腰に簡素なタオルを巻きつけただけのレオが夜の空を飛んでいく。

その後を鬼のような形相をした、笑えば可愛いはずの少女が追いかけていく。


「シャオ! 待て! 落ち着け!」

「落ち着いてられますか!!」


シャオの周りに風の精が集まる。


「風鎌!」

「地壁!」


飛びながらも二人の攻防は続く。

とにかく街から離れた広い場所を目指してレオは飛んだ。

もしシャオが本気で暴れだしたら、周りのものなど全て破壊しつくされてしまうかもしれないからだ。










十分街から離れた場所にレオが降り立つ。

少し離れてシャオも降り立った。


「シャオ! 話を聞け!」

「聞きたくない!」


シャオが涙目で叫ぶ。


「言い訳はもう何度も聞いた! でも同じことの繰り返しじゃない!」

「シャオ…」

「もうあたし、耐えられない!」


そう叫ぶと、シャオの左手に風、右手に火の気配が集まっていった。


(あの技は…俺の…)


普通違う属性の力を同時に使うことはできない。

テレビのチャンネルのようなもので、1のボタンを押せば1のチャンネルしか映らず、2のボタンを押せば2のチャンネルしか見ることはできない。

風の魔法を使っているときは、同じ風の魔法ならば違う技を使うことはできるが、そこから地の力を使おうとするならば、改めて地の力にチャンネルを合わせなおす必要がある。

風と火、水と地など、相性のよい属性の力ならば、それなりの鍛錬を積めば同時に現すことも可能ではあるが、やはり技術は必要だ。

上手く顕現できないのはまだいいほうで、下手をすれば双方の力に命をとられる可能性もある。実はそれほどに難しいことだったりする。

ところが目の前の少女は、風と火の力を上手く操り、力を形にしていく。


「風巻! 火龍!」


ゴウ!


シャオの左手で風が渦を巻き、右手で炎の竜が踊り狂う。

その両手を合わせると、レオに向かって力を解き放った!


(火と風の属性の違う力を使う高度な技…、いつの間に使えるようになってたんだ?!)


きっと見ていないところで相当な鍛錬を積んだのであろう。


(ま、あいつの属性が風に近いからできたということだろう)


人それぞれにやはり得意な分野というものは出てくる。

相性がいいとでもいうのか。

レオはもちろんのこと火。

シャオは風。

カイリは水。

ブルーマンは地。


得意な分野では簡単にできる魔法も、苦手は分野になると何故かうまく形にならないこともあったりするのだ。

レオはもちろん水が苦手で、カイリも少し苦手…と、この話はまた今度。

迫りくる風と火の攻撃に、レオは右手をかざした。


(2流はこれで朽ち果てる。1流はとっさに結界を張る。だが俺は!)


レオの周りに風と火の精が集まる。


ズバッ!


レオの目の前で、その力は消し飛んだ。

同じ風と火の力を使ってその力を相殺してしまったのだ。

もともとレオが編み出した技であるので、力の流れも読み方もよく分かっていた。


「シャオ! 俺にはこの技は効かん! 話を…」


と言ったところでレオは、頭上に広がる光景に気付いた。


「それくらい予想してたわよ…」


風の力を目いっぱい使いながら、シャオが呟く。

夜空に無数の木々が浮かんでいた。

そこらの森から伐採してきたのだろう。

全ての木の切り口は、奇麗なほどに尖っていた。

まるで何かに突き立てるためにつくられたかのように…。

四大精霊で一番切れ味のいい精霊魔法はな~んだ?

答えは風である。

かまいたちの現象はご存知であろう。

つまりはそういう原理である。

真空の状態を故意に作り上げ、目当てのものをスパッと切り上げる。

風の魔法が切り裂く系のものが多いのはそのせいかもしれない。


「あんたなんか…、あんたなんか…」

「シャ、シャオ!」


さすがにこの木の大群が頭上から一斉に降ってきたら…。

やばいかもしれない。


「大っ嫌い!!!!」


やばいことが現実になった。

風の力で支えられていた木々たちが、一斉にその切れ味の良さそうな切り口をレオに向け、降り注いだのである。


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