第二話:能力測定(前)
昼下がり、王の間に集められた雉崎たちは、老人によって摩訶不思議な儀式を受けてしまう。
この儀式によってクラスメイトは半数ほどが死亡し、生き残った生徒たちも右腕に刺青が彫られ、錯乱するなど、悲惨な状況となった。
…そしてそんな状況下、今から、彼らに与えられた能力の測定が始まっていく。
王座の間。
ノア受容の儀が終わり、鑑定士たちが彼らの元に近寄る。
儀式を終え生き残った、十五人の勇者の元に。
「「「おおお!!!!これは!!!!」」」
突然、兵士たちが喧噪をあげた。
視線の先を見れば鑑定士が上にかざした水晶が黄に濁り、電気を帯びているのが分かる。
「これは…!雷の息吹!!この国で三人目の雷使が、ついに誕生なされたか!!」
鑑定士が手を降ろすと水晶は黄色から透明に戻っていった。
鑑定道具と思しきそれはかなりの貴重品のようで、とても丁寧に、重ねて慎重に扱っているよう。
「……与えられたノアは、”再加速”です。」
鑑定士が呟く。
兵士たちからのどよめきもより一層高まり、王座の間はより一層騒がしくなっていく。
「いやはや、さすが勇者様でございます!さあさあ、次のお方どうぞ!」
黒いローブを羽織り、老人は興奮した様子を隠せないでいる様子。
あくまで厳かで礼儀正しい王や兵士とは異なり、彼の眼は常にはつらつと輝いていた。
「…お前はいつも元気よのう、オーランド。」
「ははっ!申し訳ありません、王。
儂としたことが、何せこれは300年ぶりの快挙。
魔道官総督としても、一魔法士としても、大変喜ばしいことでございますので…」
「…はは。よい。好きにやれ。」
「ありがとうございます…。」
老人は生粋の魔法オタクであったのだろう。
だからこそ、王の隣にいるまでの役職に就けたともいえる。
昔からの感性と情熱は、今も忘れずにいるようだ。
「…おお。次は貴方様の番ですな。
昨日の勇敢な方よ。」
昨日の彼の一部始終をどこからか、この老人は見ていたらしい。
彼は昨日必死に王と言葉を交わしたことを褒め、その勇猛さを讃えていた。
そんなお世辞におだてられたのかは知らないが、雉崎もようやく立てるようになり。
そうして彼は義務感で鑑定士が掲げた水晶に手を伸ばした。
「では、失礼いたします。」
鑑定士は傷だらけの手で倒れたままの手を掴み、水晶に触れさせる。
その瞬間、冷たい感触が彼の手のひらいっぱいに伝わっていく。
────玉座の前、周囲には数多の兵士と一人の王。
玉が輝く瞬間を見ようと、多くの視線、多くの期待、それが自分一人に集まってくるのを感じる。
皆に注目され、期待される勇者。
…ここまでは、彼の期待した通りだったのだが。
現実は、そう甘くない。
むしろ甘いというよりは辛酸を舐める様な現実が、彼に突き付けられたのだった。
「属性、"無し"。ノアは…分かりません。
未発見のものかと。」
「属性が…無い…?
そんな馬鹿な!魔法は使えるはずだぞ!」
老人が叫ぶ。そんな事はあってはならないと、その事実の撤回を求める。
「いえ。魔法は使えます。魔力を帯びていますので。
彼は魔法は使用できるものの属性が無い、非常に珍しいパターンのようです。」
「な…!!ふざけるな…!!そんな者が勇者であっていいはずがない!!」
静まり返る広間。
勇者であるからにはさぞ凄い能力を持っていると、兵士を含めた皆が思っていた。
…いや、実際そうだったのだけど。
彼を診断する前の人達は全員、確かに一級品の才能を持ってはいたのだ。
「ありえない…。」
「こんな奴が勇者なんて呆れる…。」
待っていたかのように、兵士たちは不満の声を上げ始める。
「どうします?殺しますか?」
老人は戸惑う彼を背後に振り返り、王に問いかけた。
雉崎はさも当然のように、期待外れのモノとして始末されそうになる。
(なんで…!?俺は、勇者じゃなかったのか…!?)
当然の如く、彼は無情な現実に対して抗議を発する。
再三言うようだが、この世界での”殺す”は本当の意味であり。
煽りでも脅しでもなんでもなく、本当に殺害され、命を落としてしまう。
その事を、雉崎は必然に理解していた。
「待て…!!止め…」
「よい。ノアによっては役に立つこともあるだろう。生かしておけ。」
「え…?許された…?」
すると何故か、意外にも王は雉崎を許容する。
地獄から這い上がったと思いきやまた落とされ、さらにまた引き上げられたような、生死のジェットコースターが止まることなく滑走していくような、そんな心地。
「正気ですか?王よ…。」
「ああ。正気だとも。
対して価値もなく使い捨てなのは他の者も同じであるからな。」
唐突に現れた死の臭いは、静かに過ぎ去っていく。
そしてまた一人の仕事を終えた鑑定士たちは雉崎の元を離れ、次の生徒の元へに移っていった。
「では、次の方をお願いします。」
──────騒動の後は見向きもされず、置き去られる自分。
一瞬の事だったが、確かに自分は価値が無いのだと、そう言われたらしい。
彼は床に座って上を見つめ、絵画が書かれた天井と宝石で出来たシャンデリアを視界に入れて、しばらくの間考えていたのだった。
(そういえば、もう親とかは気にしなくていいんだよな…)
以前の環境を想起する。
捨てられた今でもまだ、後悔はしていない。
それほどまでに以前の世界は彼にとって、生き辛いものであったのだから。
(あいつ…もちゃんと属性があるな…)
さすがに老人の言葉には驚き、焦燥感を覚えたものの、その後死を免れてからはそんなに慌ててはいない。
ただ自分が勇者にならないと日比野が独りぼっちでかわいそうだな、とは思っていたようだ。
…その時。
「なん…だこれは…!?!?」
突如、鑑定士の声が轟く。
それは今まで努めて冷静だった男の、動揺の呟きであった。
「なんだ…!?何があった…!?」
老人が慌てて聞き返す。
そして先ほどの比ではない声量に、思わず王も耳を傾ける。
「なんと彼の属性は…”空間”です…!!」
「なんと…!?!?空間じゃと!?!?」
─────特殊属性。
魔法の属性として挙げられる炎、水、雷、などとは一線を画す、特異な属性。
魔法使い1,000人に1人いるかいないかの代物であり、ノア所持者との融合は未だかつて存在しない。
つまり彼が佇む其処には、大器という言葉では生温い、宇宙の根源に至るかのような可能性が存在していたのだった。
「ノアは…分かりません…。不明です…。」
「あ…?なんだ…?
俺に何かあったのか?」
うざったそうに立ち上がるのはこの騒ぎの張本人、坂本義影。
クラス一のイケメンで富豪、加えてそれを台無しにするほどの傍若無人さ。
彼のむっとひそめた眉と、見てくれだけは綺麗な瞳が老人に突き刺さって、彼はその美術的価値に感服するかのように両手で平静を取り繕った。
「いえいえ!少し取り乱してしまっただけなのです!何しろ貴方様の能力が大変貴重なものでして…」
「…そうか。じゃあいいよ。」
一瞬雉崎の方を見た後、再び王の方を向く。
申し訳ないと思っているわけではないが、それでも彼のことを気にかけてはいたのだ。
…性格でも境遇でも、雉崎は坂本の正反対の立ち位置に居た人物であったために。
有象無象よりも彼にとっては、雉崎は印象深い人物であった。
「サカモト様、でしたよね?後で個別にお話しさせてください。
この力、他の者に渡すのは勿体ありません。」
「分かったって。それより早く次の人に行ってくれ。
もう何もせず座るのはいい加減飽き飽きだからな。」
態度もわきまえずに、無礼にも彼は老人に説う。
だがその能力を目前にすると、兵士たちも何も言うことが無い。
何せ前代未聞。間違いなく現代最強のポテンシャル。
数日後にはとうに実力を越えられていそうな相手に、わざわざ喧嘩を売る相手はいないだろう。
「では次の方、これで最後ですね…」
ふう、とため息をついて鑑定士は水晶を掲げる。
そして、最後。
下に座っているのは、日比野であった。
「やめて…やめてくれ…」
怯える彼の手を強引に取り、水晶にかざす。
目を背け、聞こえまいとする日比野の上で、
鑑定士が結果を告げようとした瞬間──────
「はい。クーデター開始ーw」
不遜な男による、王への反逆。
クーデターが、突如として行われたのであった。




