第七・九話:早朝
ジェネラリーゼ家の早朝。ある日常の風景。
主人と従者の、少し変わった関係が繰り広げられていく。
幸せな生活は、すぐに消え去ってしまう。
で、あるからそれを守るために。
雉崎は確実に才能を示さなければならない。
無属性だった魔法を除外した、ノアの種類だけを、見極めなければならなかった。
今日で雇用開始から20日。
期限の二か月というデッドラインが、少しずつ見え始めていた。
「能力を見るってたって…!
結局ノアが分からない事には…!!」
今日も今日とて早朝、庭に倒れこむ雉崎。
無属性である上に現在は魔法の発動すら不可能。
肝心のノアも未知数で片鱗を見せる気配も無い。
幾度も様々な試行錯誤を重ねてみたものの、既に雉崎の脳は限界を迎えていた。
「もういい案が思いつかない…!
戦闘訓練もアイリスさんと数回やったけど、さっぱりだし…!」
瞑想によって魔力の流れは掴めても、それを動かすことが出来ない。
さらに仕事との両立もあって体は限界に近づいている。
「せめてノアの使い方さえ分かれば…」
「…今日も練習ご苦労様ね。
ほら、紅茶を淹れたからいらっしゃい。」
まだ地平線から昇って短い太陽を尻目に、ジェネラリーゼは雉崎に話しかける。
庭に面したリビングのカーテンは開けられ、眩しい朝日が室内と庭とを照らしていた。
「え!すみません!もう起床なさっているとは露知らず…!」
「いいのよ。それくらい。
それで?ここ二週間くらいの成果はどう?
毎日、結構な量をやっていたでしょ?」
「はい…。」
時々ではあるが、主人はこうやって彼の早朝練習に顔を出す事がある。
魔法自体が使えないという陳腐な存在ながら、彼女は彼に何とかアドバイスをしようとしきりにその行動を観察しているのだった。
「全然ですね…。
魔力の揺らぎみたいなものは見えてきたんですが、魔法自体の展開やノアについては進展が無く…。」
「やっぱりそうよねー…。
そもそもノア自体、私も特にコツがあるわけじゃないもの…。」
「え?ジェネラリーゼ様もノアを使えるんですか…?」
「ああ。言っていなかったかしら。そうよ。
私もノア保有者なの。」
そう言って、彼女は右腕の裾を捲った。
其処には刺青があり、雉崎たちと同じ様に複雑怪奇な紋様が描かれている。
(そういえば、最初に教えてくれた時に見せていたっけ…。)
「ノアを持つ人は全員、右腕に刺青が入っているから。
そして刺青の色は全部属性任せ。
ほら、私は土属性だから茶色だし。
貴方のは灰色でしょ?」
ジェネラリーゼは裾を戻し、時間の来る紅茶を取りにキッチンへ戻っていく。
その背中を追いかけ、雉崎も三人分のコップを用意しにかかった。
「もうすぐアイリスが起きてくる頃だから、ゆっくり待ちましょう。
朝食の支度もできていることだし。」
テーブルの上にはいつの間にかパンと牛乳が揃えられている。
豪勢ではないにせよ、小食なアイリスに合わせた適切な朝食であった。
「美味しいですね…。これ…。」
「昨日商会長に貰ったものよ。
騒ぎを起こしていた魔物の一体が倒されて、物流が復活したらしくね。
お祝いだって。」
「へー…。魔物ってやっぱり増えているんですか…?」
「そうね。近年、というか貴方たちが召喚されたくらいから急増したみたい。
…まったく。勇者が現れると魔物が増えるなんて、順序が逆よね。
魔物が増えたから勇者は現れるものなのに。」
「確かにそうですね…。」
主人は紅茶をするすると口へ流し込む。
背筋を伸ばした飲み方は相変わらずの気品が感じられた。
(何で、この人はこんなに普通なんだろう…?)
雉崎はそう、思ってしまう。
才能を見極められなければ即解雇という条件で自分を雇い、案の定自分は未だに手がかりさえ掴めていないのに。
あと数週間でいなくなってしまうかもしれない養子を、こんなにも気にせず接せるものなのだろうか。
…そんな間も、目の前の主人は黙々とカップに紅茶を注いでいた。
「おはようございます。ジェネラリーゼ様、キジサキさん。」
しばらくすると、階段を下りてアイリスが登場する。
髪と服装はもうとっくに整えられており、学校への支度は万全のようであった。
「あれ…。朝食が既に…」
「ジェネラリーゼ様がやってくれたんです。
早朝だからと、自分も気を抜いてしまって…」
「…そうですか…。ありがとうございます。ジェネラリーゼ様。」
「いえいえ。大した事ないわよ。」
─────そうして始まる、一日もあった。
後は普段の通り。
アイリスは学校に出かけ、雉崎は昼間から仕事場に赴き、ジェネラリーゼは室内で事務仕事にあたる。
三人それぞれがすべきことを為し、明るい未来へと突き進む。
…そんな希望を、胸に抱えて。
朝日は今日も、テザーニアを照らしていた。
よければレビューや評価等、頂けると励みになります。
続きも是非お楽しみください。




