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テザーニアの勇者譚/true  作者: 佐倉マス
第一章:残酷な世界
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第七・五話:国王の事務作業(閑話)

雉崎もアイリスも関係ない、これは城の中の話。


儀式を行った老人オーランドの、事務仕事の一幕である。


※閑話のため、読み飛ばしOKです。

 



「うむ…。」


勇者を初日に出迎えた国王の側近、オーランド。

かの老人は今、亡き王の代理として忙しく業務にあたっていた。


─────時刻は午前七時半。

多くの人が朝食を済ませ、出勤のため電車に乗ったり歩いたりしている頃だろう。

だが異世界の城内では職場も何もありはしないので、老人は定年退職をとうに過ぎた年齢でありながら早朝から働き詰めの日々を送っている。


「どうしたものか…。」


「あの…。どうしたもの、とは…」


玉座に座ったはいいものの、此処から見下ろす景色はどうにも居心地が悪い。

本来ならば横の家来のように立っていたいものだが、国王の身分はそれを許してくれないようだ。


「いや、何でもない。

 それで、要件というのは…?」


「はい。そこの斥候によれば、付近の村の家畜が悉く壊滅していたという事でして。

 恐らく供物の量が足りぬのもそれが原因かと…」


「ほう…。」


以前、勇者たちが召喚された場所。

玉座の前の広間には一人の人間がひれ伏していた。

状況を見るに彼はかなりの疲弊を催しているようで、靴や衣服もぼろきれのようになっている。


そして彼の文言を聞いた老人は、若干の皺寄せと共に少し前方に体を傾けていく。


「顔をあげい。一体その村々はどんな状況であったのだ?

 建物が破壊されたり、死肉が転がっておったり、なんでもいい。

 情報をくれ。」


「…は。建物に損壊は見られませんでしたが、中で育ていたはずの家畜が軒並み消えておりました。

 ただ血飛沫の一滴も無く、最近増えた魔物の仕業とも考えにくくてですね…」


「…何?消えた…?跡形もなく…?」


老人は髭をさすり、何かを思いついているようだが、話したくはない、そんな顔で宙を見つめている。

その状況に斥候は困り、また下を向いてひれ伏すだけ。


「…お言葉ですが。国王代理。

 ここ一か月ほどで民間でも何人かが消息不明の後、遺体で発見される事件が発生しております。

 一説では未知の魔物による仕業かと…。」


側近が左から耳打ちをする。

正義の信念に満ち溢れた目と面。

まだ若さ故か、物事を決めつける癖がある。

そのような欠点も課題だな、と彼は思いなおすのであった。


「…恐らくそれとは関係ない。

 どうせ貴族連中の遊びに巻き込まれたのだろうて。

 何度も言っておるはず。あ奴らは取り繕うのが上手いだけの猿に過ぎないとな。」


老人は呆れたように手を払って追い返す。

彼らは報告書にあるほど温厚ではないし、催事にいるほど社交的でもない。

ただ欲深く、ブレーキの壊れた欠陥品。

吐き気を催す程に邪悪な、酷く浅薄な輩なのだと、彼は知っている。


(あと半年…、いや数か月でも持てば…)


勇者が台頭してしまえさえすれば、全てを解決することが出来る。

貴族たちが自分の敵にせっせと水をやっているうちにやるべきことを終わらせねばならない。

なるべく早期に第三勢力を取り除き、貴族と王族の二極化に収束させたいの、だが。


「問題が山積み過ぎてな…。」


内政は面倒臭い。

かといって、外政はもっと厄介。

小難しい政治は研究者肌の老体に少し厳しく、老人は頭を悩ませていた。


「…とりあえず放っておけばいいかのう…。

 消息不明とあっては手がかりも掴めんし、まだ他にもやるべき事が山のように残っておる。一旦は様子見で付近を探っておけ。」


「は。御意。」


そう言って去りゆく後姿を視界の端に捉えながら、老人は隣の従者に目をやる。

それを受けた従者は王の目線を即座に察知すると、すぐさま向き直り、敬意を示して座した。


「近々、戦の予感がする。

 天災を迎え撃つ準備をしておれ。

 魔官全員で、”あれ”を掃討するためにな。」


「王…。それは…」


「知らなくて良い。

 背景を知ったとて、気分を害すだけだ。」


脳裏を掠める少女の影。

その昔、老人がまだ青年であった頃、

彼女は泣いて、消えていってしまった。

周囲の村人を食らいつくして、迫害されて、自分以外の全てを崩壊に追い込んで。

そうして残った自分だけが、彼女を殺める事が出来た。

…で、あるからして。仕方が無く。


──────世界の平和のために。


彼は幼い頃、初恋の幼馴染を手にかけてしまったのだ。


「……………………。」


血を流したナイフの感触と生暖かい肉塊の弾力は、今でも決して忘れる事は無い。

魔官となり、やがてその総督となり、今は亡き王を育てても、有り余る財と名声はその心を溶かしてはくれない。


ならば失ったものに意味を与えてやるのが一番の報いだと。

そう信じて老人は、その身体を動かしている。


身を燃やし、知らぬ者たちに未来を託そうとも、今生の願いだけは成就せねばならぬのだから。


(どんな厄災がふりかかろうとも。決して…。

 王家の血を、絶やしてはならぬのだ…。)


※次回も、補充的なショートストーリーです。

 こちらも読み飛ばし可ですので、ご自由にどうぞ。

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