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「じゃあ、私こっちだから。ありがとう依乃里ちゃんっ」
頭上で大袈裟なくらい手を振って朱々寧と別れ、私は晴れ晴れとした気持ちで軽くスキップまでしながらお婆ちゃんの家に帰宅した。
蒸発した母親もどきのせいで、いまはこの古い日本家屋の平屋が我が家になっている。
以前住んでいた六畳二間の賃貸は息が詰まりそうなくらいボロくて狭かった。
それに比べれば、お婆ちゃんの家はたとえ古くとも私たち二人が生活する分には充分すぎる広さだった。
ちなみにお爺ちゃんは私がずっと小さい頃に亡くなっていた。病気だったそうだ。
それからずっとお婆ちゃんは一人で生活していたこともあって、経緯は酷いものだったけれど私と一緒に生活できることが少し嬉しそうでもあった。
『ヘイヘイ依乃里、めーこちゃんからなんて怒られたの?』
お風呂に入っているうちに茉椰からLINEが届いていた。
どうもこうもないよ、と文字を打ち込む途中で突如勃発した朱々寧の母親との言い争いが蘇ってきた。
あの時はアドレナリンが沸騰でもしていたくらい頭に血が昇っていたけれど、冷静に思い返すと友達の母親相手に言い過ぎてしまったとじわじわ後悔が押し寄せてきた。
せっかく出来た二人目の友達である朱々寧の、よりにもよってその母親とバトルを繰り広げただなんてそのまま文章にしても大丈夫だろうか。
どうにかおかしな誤解を招かないように、内容を簡潔にまとめようとベッドに横になって文章を考えているうちに迂闊にも寝落ちしてしまった。ぐっすりだった。
翌朝、慌ててスマホを開くと茉椰からの『どうした依乃里、死んだか?』というメッセージと、やたら可愛らしいキャラが『さみしい……』と目を潤ませているスタンプでトーク画面が埋まっていた。
そして最後のメッセージが『既読スルーは乳揉みの刑~!』で締められていた。
やってしまった。
せっかく転入してすぐに出来た一人目の友達である茉椰からのLINEを既読スルーしたみたいになってしまった。
そして茉椰の乳揉みは、あろうことか転入当日いきなり繰り出された実績があった。マジで揉まれる気しかしない。
屈託のない笑顔でそんな奇行に及んだ和久井茉椰との出会いである転入初日の出来事を思い返しながら、私は急いで着替えて慌ただしく朝の支度を始めるのだった。
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