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体育祭が終わり代休をはさんですっかり日常を取り戻した週明けの学校で、私はきっちりと生徒指導室に呼び出されていた。
コンコン、と控えめにドアをノックしてからそろりと遠慮気味に引き戸を開く。嫌な既視感に口元が歪んでしまう。
「失礼しまーす、一年二組の西森依乃里でーす……」
怯えたような口調と緊張感に肩を竦める演技もなかなか様になってきている気がする。こんなものが様になってしまうような学校生活は嬉しくもなんともないけれど。
至って簡素な室内をぐるりと見回してみるけど特に変わっている様子なんてない。むしろここだけ時間が止まっているのではと疑いたくなるほど、前に見たときと寸分の違いもなかった。
縁が欠けて傷の付いた長机と年季の入ったパイプ椅子にだってしっかりと見覚えがある。絵に描いたみたいな生徒指導室だった。
そんな風に以前の私自身が思い浮かべていたことを改めて思い出す。
「おー、毎回時間だけはぴったり守るんだな。感心感心。そんじゃ座ってくれ」
「やっぱ、めーこちゃん一人だけなんだね?」
「前も言ったが、きちんと先生と呼べ」
「めーこせんせー」
「……このくだりはあと何度やるつもりだ? まあ次に呼び出されるようなことがあったらスリーアウトだがな」
以前と同様にへらっと笑って見せた私を、やっぱり以前と同じ深さで眉間に皺を寄せながらめーこせんせーは大きなため息と共に睨んでくる。
「え、じゃあまだツーアウトだからギリセーフだよね?」
「なにがセーフだ。本来なら一発退場だ」
「諦めたらそこで試合終了ってやつじゃないの?」
「諦めなくても退場時点で試合終了だ。……なんだその心外そうな顔は? 当たり前だろう。体育祭での出場種目の勝手なメンバー変更。これはまだ良い。いや良くはないんだが、まだかわいいものだ。が、問題はここからだ」
不意に声を凄ませるみたいに低くして、めーこせんせーが目を細めて私を見据える。
「ほ、他になにかありましたっけー……?」
「そんなとぼけ方が通用すると思ってるのか? 競技中にジャージを脱ぎ捨て下着で疾走。危険だと伝えたはずにもかかわらず車椅子の名波をリレーに参加させ、挙げ句にその車椅子を破損させたうえに名波自身にも怪我を負わせている」
「……はい」
淡々と列挙される問題行動は、さすがに言い訳を差し挟める余地もなくて耳が痛い。
「これら全部引っくるめて、最悪な方向に転がっていた場合には教育委員会にまで問題が上っていくレベルだ」
「私、退学になっちゃうとか……?」
「西森だけ退学にして解決するレベルを超えてるって話だ。校長は配置転換という名の左遷は免れないだろうし、私に至っては最悪首が飛ぶ」
「うわっ……」
「他人事みたいに引いてるんじゃない。それくらい西森の取った行動は人に迷惑をかけたってことをちゃんと自覚できているのか?」
「うっ……、す、すみませんでした……」
こればっかりは演技ではなく、私はしゅんと肩を落として素直に頭を下げるしかなかった。
その、きっとしおらしく見えているはずの私の態度がどれくらい響いたのかはわからない。やがてめーこせんせーは長いため息を零して机に両肘をつき両手で口元を隠した。
これでグラサンでもかけていれば昔のアニメの司令官っぽいポーズだなって思った。やっぱりめーこせんせーって公言はしないけどアニメ好きじゃないかと脳裏を掠めたけど、いまはさすがに黙っておいた。触らぬオタクに祟りなしだ。
「ふん、きちんと反省されるとそれはそれで調子が狂うな……。その反省に免じてるわけじゃないが、ひとまず名波のお母さんからの取り計らいで問題提議はしないとのことだ」
「……ほんとですか?」
保健室での朱々寧の母親と交わした会話とやり取りが思い起こされ、私は条件反射みたいにちょっぴり鼻の奥がつんとなってしまう。
「ああ。幸い名波の怪我も軽い擦り傷だけで済んだからな。壊れた車椅子の方だが――」
「それはっ、私がバイトしてでも絶対に弁償する! しますっ!」
「うちの学校はバイト禁止だぞ」
「ぐっ……。じゃあ、……ぱ、パパ活とか――」
めーこせんせーがいきなりバンッと机に手のひらを叩き付ける。
「……本気で怒るぞ?」
細めた両眼にくっきりと怒りを含ませて睨み付けられ、私は首が埋まってしまいそうなくらい縮み上がってしまう。
「も、もう怒ってるじゃん。めちゃこわ……」
「冗談でも言うな。二度はないからな?」
「うぅっ……、はい……」
冷淡に切って捨てられ、それ以上に紡げる言葉さえ見失って喘いでしまう。
言うまでもなくパパ活なんてものの喩えだ。それくらいの覚悟を持って弁償するつもりの決意を示したかっただけだ。
「車椅子の方は元々、名波の体格に合わせた新しいものを購入予定だったそうで、それまでを繋ぐための中古品だったそうだ。その新しい車椅子の納期を早めてもらう対応も済ませたとのことで弁償の必要はないと申し出られている」
「そう、ですか……」
「しかし中古とはいえ車椅子は決して安くはないものだ。あんな無茶な真似は二度と繰り返してはダメだ。そこのところはきちんと肝に銘じておけよ?」
「わかりました……」
今朝、登校してきた朱々寧は見慣れない車椅子で登校してきていた。レンタルのちょっと良いやつだなんて笑うその顔に貼られた絆創膏が痛々しかった。
車椅子自体は当然として、レンタル等にかかる費用も含めて弁償するつもりでいたのは本当だ。
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