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私の考えていた作戦は、作戦と呼ぶのもおこがましいくらい単純なものだった。
クラス対抗リレーに出場するメンバーの変更届けはしないことにした。
当たり前だけれどめーこせんせーに却下されたこともあり、変更届けに朱々寧の名前があると絶対に受理されない。
いまさら言っても後の祭りだけれど、こんなことなら信用していない大人なんかに初めから許可なんて取りにいかなければ良かった。
そこでまず、瀧口さんにお願いして先輩たちから情報を集めてもらった。
変更届け無しで当日いきなりメンバーが変わっていた場合、そもそも気が付かれることがあるのかどうかだ。
「一応、競技の前にあの参加用紙に記入された名前の点呼確認があるんだって。けど体育祭実行委員が持ち回りでやってるだけだから名前と顔なんて一致しないし、ぜんぜん別人が代返したって気が付かれたりしないって言ってたよ」
瀧口さんがバスケ部の先輩から聞き出してくれた情報だった。
そう答えた先輩自身が、当日いきなり友達に代わりの出場を頼んだところ、バレることもなければ最後まで代わっていたことさえ気付かれなかったそうだ。
そもそも、その程度にしか盛り上がらないイベントなのだと付け加えられたらしい。となれば、佐野さんと由川さんが当日いきなり入れ替わっていても気が付かれることなんてないだろう。
「けど入場時点で朱々寧がいたら、別人であるかどうか以前にさすがに目に付くでしょう?」
由川さんの懸念はもっともだった。
どんなにメンバーが入れ替わっていても気が付かれないにしろ、さすがに車椅子に座った朱々寧が並んでいては入場前に気付かれてしまう。気にならない方がおかしい。
しかし、その点についてだけは私にはすでに考えがあった。
「朱々寧は入場はせずに、途中から乱入してもらう」
私の発言を受けて由川さんだけに留まらず、朱々寧も面食らった表情で大きな目を瞬かせる。
「ら、乱入……? 穏やかじゃないわね……」
「とりあえず聞いて。まず由川さんがスタートダッシュを決める。その後、瀧口さんと私がどんなにリードを取ったとしても、最終走者のスタート位置から普通にバトンを受け取ったんじゃ、さすがに一位でゴールは無理だと思う」
「……うん。スピード出した状態のままだと、コーナーを曲がりきれないと思う」
慎重に言葉を選んで述べた私の見解に朱々寧が神妙な顔付きで呟く。きっと自分でもそう予想していたのだろう。
「だから朱々寧には、最終走者のスタート位置よりもっとゴールに近い最終コーナーの出口からラストの直線だけを走ってもらう。朱々寧がバトンを受けるのはその位置にする」
「でも、どうやってそんな位置に朱々寧を向かわせるつもり?」
いっこうに懸念の解消されない様子の由川さんが次の疑問をぶつけてくる。それが意地悪で言っているのではなく、単純に心配しているだけだということくらい理解出来る。
「グラウンドのまわりには生徒とか観客たちのイベント用テントが並ぶでしょ、茉椰から見せてもらった配置図にはゴール前の直線は一年生テントの目の前になってる。だから第三走者の私がバトンを受け取ったタイミングで、最終コーナーの出口に朱々寧がスタンバイすればいい。これなら出場前にバレることはないよ」
体育祭実行委員にだけ事前に配布される設営の配置図が確認できたことは大きい。茉椰にこの胸を捧げてバブらせた甲斐があった。
「……だから乱入なんだね。私が自分でそこに向かえばいいの?」
「ううん、さすがに朱々寧一人でコースに乱入するのは手こずると思う。テントの中を突っ切るにしても都合良く通れるスペースがあるとは限らないし。だから茉椰と佐野さん、二人にはバトンパス位置まで朱々寧の車椅子を押してほしいんだ」
「そんだけでいいの? うーん……、でもさ、どんなに直前だろうと乱入なんてしてたら目に付くんじゃね?」
納得してポンと手を叩いた佐野さんだったけど、すぐに表情を曇らせて首を傾げる。
「大丈夫。そこは……、手を打つから。乱入してる朱々寧たちが目立たなくなるようにすればいいだけだから」
「……本当に? 朱々寧に限った話じゃないけど、コースに乱入する人を目立たなくさせるなんて簡単じゃないわよ? そもそも朱々寧を最終コーナー出口にスタンバイさせるってことは、第三走者の西森さんが走る距離がその分増えるってことよ?」
わずかに言い淀んだ私の口調を鋭く見抜いたのだろう、由川さんが至極まっとうな意見を並べてくる。その細められた眼差しは真意を見抜こうとするみたいな鋭さだった。
「うん、もちろんわかってる。策だって当然考えてるから。私の走る距離が伸びるのは私が頑張れば良いだけだから。それに実質かかる時間は十数秒だし、そのわずかな時間だけ乱入する朱々寧を目立たなくする。まかせて、本当に大丈夫だからっ」
「でも――」
「私が持ち掛けた作戦なんだから、絶対に成功させる。私を信じてっ!」
食い下がってくる由川さんを振り払うように私は握り締めた拳を力強く振ってみせる。それにどれだけの説得力があったかはちっともわからない。
もちろん勢い任せなだけで楽観しているつもりだってない。
とにかく、なにがあろうとこのリレーを成功させるんだと意気込んで、わずかでも弱音の入り込む隙をなくすために自らを鼓舞し続けた。
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