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「……ダメに決まってるだろう」
めーこせんせーからの返答は手厳しかった。
朱々寧と由川さんを説得して理解を深めた私は翌日すぐさま行動に移した。
朝のホームルーム後、教室を出ためーこせんせーを廊下で呼び止めて、体育祭のクラス対抗リレーに朱々寧をエントリーしたいと搦め手など使わずストレートに申告した。
一瞬、きょとんとして私を見つめ返してきためーこせんせーは、まるで値踏みするみたいにまじまじと凝視してきながら却下した。
「車椅子でリレーに出場なんて危なすぎる。なにかあってからじゃ遅いからな」
面白みの欠片もない至極まっとうな意見を返された。こんな遊び心のない枯れ果てたような大人にはなりたくないと思った。
しかも却下するだけに留まらず、わずかに声をひそめて私の耳元に口を近付けると、
「……西森と名波は仲が良いと思っていたんだが、まさか嫌がらせというか……、いじめみたいな目的だったりしないだろうな?」
あろうことか私が嫌がらせ目的で朱々寧をリレーに出させようとしてる疑いまでかけてきた。
「そんなわけないじゃん! めーこせんせーの分からず屋の行き遅れっ!」
「おいっ、教師に純然たる暴言を吐くなっ」
さすがに頭にきて憤慨しながらわめき散らしてやった。廊下にいた生徒たちから何事かと遠巻きに見られていたけど知ったことじゃない。
怒りにまかせて床を踏み鳴らすみたいにドシドシと大股で教室に戻ってきた私は、朱々寧から注がれる不安げな眼差しを前に急速に落ち着きを取り戻し、なるべくお淑やかに椅子を引いてそろりと腰を下ろした。
「……やっぱり無理じゃない」
めーこせんせーとのやり取りをこっそり見ていたのだろう、由川さんが腕組みの姿勢のままそろそろと近付いてきて小さく溜息を零す。
「無理じゃないよ」
「いや完全に却下されてたじゃない。どうするつもりよ?」
「どうもしないよ。走るって決めたんだから、走るよ」
「走るって……、そもそもメンバーだってどうするつもり? 体育祭の種目の出場リストはクラス対抗リレーも含めて全部提出済みでしょう?」
「メンバーについてはもう考えてるから安心して。またお昼休みに話そう」
「……いや、まったく安心できないんだけど」
よほど信用がないのだろう、由川さんからの不信感を隠そうともしない胡乱な眼差しを払い除けるみたいに手を振って、
「朱々寧、絶対に成功させるから気が変わったとか言わないでね」
「……うん、わかった」
私からの圧を真正面から受けて、仰け反り気味に狼狽える朱々寧にぐいっと顔を寄せ自分を鼓舞するみたいに親指を立てて見せた。
その後、体感で普段の倍以上の時間を感じてイライラしながら午前中の授業を終え、
「今日集まってもらったのは他でもない!」
私は積もりに積もった苛立ちを解き放つ勢いで大仰に言い放った。
威勢良く腰に手を添え、むんっと胸を張った私の姿がどれくらい威厳を保っていたかは正直よくわからない。
場所はグラウンドが見渡せる中庭の錆び付いたベンチ。もはや昼休憩の私たち定番の場所となりつつあった。
雲一つない青空は高く、照りつける日差しはすでに夏を感じさせた。
「おっ、なんか重役会議はじまったぞー」
「たしかデスゲーム主催してるやつがモニターとかで言うセリフじゃね?」
「なになにー? ピンクモゲラ討伐依頼ー? マジヤバくねー?」
私を見上げつつ瀧口さんが間延びした声を上げ、佐野さんがこめかみに指を押し付けながら同調する。挙げ句に茉椰が手を叩いて茶化しながらケラケラ笑い始めた。
「ちょっと、私はマジだから! あとピンクモゲラって広めようとしないでっ」
面倒だけど事細かに訂正しておかないとおかしなあだ名が広まってしまう。思いつきでピンクモゲラって言い始めたのが自分なだけに、万が一にでも定着してしまったら恐怖しかない。
「それで、わざわざこんな面子で集まって何の話?」
比較的というと失礼かもしれないけれど、ちゃんと話が出来るタイプの瀧口さんが購買で買ってきたコッペパンに齧り付きながら話を促してくる。
視線をするすると滑らせながら『こんな面子』と称した先は、仁王立ちした私の隣で車椅子に腰掛けている朱々寧、さらにその隣で居心地悪そうに俯いている由川さんの姿があった。
「体育祭のクラス対抗リレーのメンバーに集まってもらったわけだけど、私から提案というかお願いがあるんだ」
瀧口さんに促され私はパンッと両手を合わせて口火を切る。
「ふむふむ、聞こうじゃないかー。ピンクモゲラくんの発言を認めようー」
「ピンクモゲラって言わないで。まず、茉椰と佐野さん。二人はクラス対抗リレーを朱々寧と由川さんに変わってほしいんだ」
「……はい? どゆこと?」
ここでもピンクモゲラを擦って茶化してきた茉椰だったけれど、私からの提示を耳にしてさすがに驚きが勝ったらしくわずかに身を乗り出して聞き返してきた。
「クラス対抗リレーを朱々寧と由川さんに変わってほしい」
「いや、それは聞こえてる。どうして朱々寧を……?」
「リレーで朱々寧を一位でゴールさせたいんだ。だから朱々寧はアンカーに据えたい。由川さんには第一走者でスタートダッシュを決めてリードを稼いでもらう。だから茉椰と佐野さんには申し訳ないけど変わってほしいんだっ」
「え、っと……、あたしは走らなくて済むなら別に、いいんだけど……」
「うん、ウチもぜんぜんいいけど、……朱々寧って、その、車椅子だよね?」
呆気にとられながら佐野さんが頷きつつ茉椰に視線を移す。
受け取った茉椰もしきりに瞬きしながらそろそろと頷き、ちらりと朱々寧を仰ぎ見る。
その視線の意味することは一目瞭然だった。
――車椅子で走るつもりなのか。
疑問はただその一点のみだけれど、はっきり言葉にすることを躊躇っていることが仕草だけで見て取れた。
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