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憤りをありありと態度で示しながら室内から出てきた名波さんの母親は、ちょうど向かい合う格好になった私のことを露骨に眉をひそめて睨み付けてくる。
「……なんなのあなた? うちの娘はただでさえ手がかかるんだからおかしなちょっかい出して来ないでくれるかしら?」
仰々しいくらい大きなため息を吐く態度でしっかり迷惑だと叩き付けられる。
「ちょ、ママ、友達にそんな言い方しないで――」
「黙りなさい! こんなおかしな頭してる子と付き合うのはやめなさい! 中学まではもっと普通の子と付き合ってたのに。こんなのと関わるから成績がおかしくなるのよっ!」
ほとんど条件反射みたいに名波さんの頭上へ怒鳴りながら私の鼻先を指差してくる。
その一方的な言い分にはさすがにカチンときた。いい大人のくせして人を指差すとか行儀ってものを知らないのだろうか。
「私、西森依乃里って言います。こんなの、じゃありません」
名波さんを怒鳴りつける母親の視界に顔を覗き込ませて、私は挑みかかるみたいにきっぱりと告げる。
ぎょっとした表情を浮かべた名波さんの母親がほんのわずかに怯んで後退った隙に、車椅子を背にして庇うように遮って割り込む。
「それに私、転入してきてすぐなので名波さんにちょっかいなんて出してませんから」
紛うことなき事実を言い淀むことなく突き付けてやる。
実際は転入してきてすぐに茉椰を介して接する機会は普通にあったけれど、二人きりで話をしたのはいまこの場が初めてだった。
もちろん、たまたまこの生徒指導室の前に居合わせたからで、お互いに望んで申し合わせたわけじゃない。
もっと言えば生徒指導室には私の方が先に呼び出されていたのだから、居合わせたのはむしろそっちの都合だ。やっぱり私に落ち度なんてない。
「おい西森、ちょっと待て――」
「ああ、それとついでですけど、私って名波さんよりずっと成績良いんで。転入試験の結果だってとっても優秀だったって、たったいまめーこせんせーに褒められてたくらいですからっ」
図らずも不穏な雰囲気が立ちこめてきて、たまらず諫めようとしてきためーこせんせーを完璧に無視し、私は大きく胸を張ってこれまた事実を突き付ける。
若干盛ってしまった感は拭えないけれど、この髪色だけ見ておバカ扱いされるのは納得がいかなかった。私の成績はピンクとは関係ないし連動しているわけでもない。そしてなにより私はこの色を気に入っているのだ。お洒落を馬鹿にされる謂れだってない。
「……っ、生意気にいい加減なこと言って――」
「事実です。もちろん私の成績は中学の頃からずっと優秀なので、今回の転入試験の結果がたまたまのまぐれだったわけでもないですっ」
どうせ、そう返してくるだろうと予測して先回りし、ツンと顎を反らしながら遮って告げた台詞はさぞ感じ悪く届いただろう。
もうすでに売り言葉に買い言葉になってる以上、この戦いは先に引いた方が負けだ。
束の間、憎々しそうに私を睨み付けた名波さんの母親はついっと視線を逸らしてしまう。
ぐうの音も出ないことを悟ったのか、それとも子供相手に本気でやり合うことが虚しくなったのか、とにかく私の存在を否定するみたいに身体ごと向きを変えてしまう。
「……朱々寧、そんなに勉強するのが嫌ならリハビリくらいしなさいっ。次にこんな成績取ったりしたら退学させるからねっ。わかったわねっ!」
私に向けていた怒りの矛先を叩き付けやすい自分の娘へと移してその頭上に雷を落とす。
その様が正直、鼻持ちならない大人の典型みたいに見えてしまい、名波さんの母親とはいえふつふつと苛立ちがこみ上げて睨み付けてしまう。
けれど私の鋭い眼差しに取り合うことなく、名波さんの母親は捨て台詞めいた言葉を叩き付けると返事を待つこともなく踵を返し、治まらない怒りを撒き散らすみたいにのしのしと大股で玄関に向かって歩き去っていった。
海外の映像で観たことのあるハリケーンが通り過ぎた直後みたいな有様だと思った。
「西森、お前やってくれたな……」
途方に暮れたみたいな表情でめーこせんせーが私を忌々しげに見つめてくるけれど、負けじとこれ見よがしにそっぽを向いて無視を決め込む。
私はなにもやってなんていない。
大人の決め付けを真っ向から否定して事実を述べただけだ。
言い過ぎでもなんでもなく名波さんの母親は嵐みたいな人だった。そんな嵐が残した惨憺たる爪痕に、名波さんは困りきった様子で肩を落として引き攣った愛想笑いを浮かべていた。
親子だけあって顔は似ていたけれど本当に血が繋がっているのかと疑いたくなるくらい、気遣いの塊みたいな名波さんの控えめな振る舞いと性格は対照的に映った。
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