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「名波さんも呼び出されたんだよね?」
「うん。……テストの成績がちょっと悪くって。あはは……」
「テストって中間のことだよね? それで保護者呼び出しって何点くらいだったの?」
「えっと、ね……」
生徒指導室に保護者まで呼び出されるほどの点数が、いったいどれほどのものなのか純粋に興味があった。
ごにょごにょと口ごもりながらも名波さんが列挙していった各教科の点数は、大袈裟じゃなく開いた口が塞がらないほどひどいものだった。
最初、冗談で言っているのかとその表情をまじまじと見下ろしてしまうほどだ。なにしろ、まさかの全教科赤点なのだからこの程度の驚きじゃ足りないくらいかもしれない。
その中間テストの平均点がどの程度だったのかまでは私の転入前なのでわからないけれど、さすがに全教科赤点は学年最下位も視野に入るくらいだと思えた。
そんなアニメや漫画みたいな点数を取る人が現実に存在していることに新鮮な驚きを覚えた。
「……え、名波さんって、勉強苦手なタイプなの?」
「苦手って言うか、ぜんぜんしなかったんだよね。高校も本当は推薦が決まってたから勉強する必要がなかったんだよ。あ、だから苦手なのか、あはは……」
困ったように眉尻を下げて、これまた漫画みたいに頭を掻いて乾いた笑いを零す。
「そういえば、さっきお母さんも言ってたね。推薦を取り下げなきゃならなくなったってどういうことなの?」
「うん。そのまんまの意味。決まってた推薦を取り下げたから急いで受験しなきゃいけなくなって、慌てて猛勉強して辛うじてここに滑り込めたんだよ」
ちょっぴり赤面しながら手のひらでぱたぱたと顔を扇ぐ名波さんは、私のご機嫌を伺うみたいにちらちらと上目遣いで黒目がちな視線を送ってくる。
推薦を取り下げる理由とは、いったいどういったものなのか気になった。けれど安易に訊ねて良いことなのか躊躇ってしまう。変に突っ込んで気を悪くされるのは本望じゃない。
「……あっ、そういえばリハビリもしてないって言ってたよね?」
「それも、そのまんま。行ってないんだ」
うまく話題を切りかえたつもりだったけれど、名波さんは決まりが悪そうに視線を落として俯いてしまう。
「そっか。でもリハビリって行った方が良いんじゃないの?」
「あー……、まあ、そうだよね。あはは……」
別に名波さんがリハビリに行ってなかったところで私が困ることなどない。リハビリに行っていないのは何らかの事情か思いがあるに違いないのだから。
いずれにしろ取り下げた推薦の話よりも、リハビリの件こそ話題にしない方が良かったみたいで自責の念から唸ってしまう。うー、もう少し考えてから喋る癖を付けないと。
「そんなことより西森さんがここに呼び出されたのってやっぱりその髪色のせいだよね? すごくかわいいよね、私もやりたいなー」
手っ取り早く話題を変えたかったのだろう、名波さんはことさらパッと表情を明るくして私の頭を見上げ、少し癖っ毛な自分の髪に触れて指先に巻き付ける。
正直つい先ほど名波さんの母親が激昂する様を目の当たりにしていたので、もし万が一にも名波さんの髪がピンクになったらあの母親は泡を吹いて卒倒しそうだと思った。
それでもかわいいと言われて悪い気はしない。私は転換された話題に颯爽と跨がる勢いで乗ることにする。
「ほんと? ありがと。そう言ってくれるの名波さんだけだよ。茉椰からインコだなんて言われたときには思わずビンタしそうになったもん……」
「茉椰ちゃんは人をからかうことを生き甲斐にしてるみたいなところあるもんね」
「やっぱりそうだよね? うわー、マジでムカつくわー」
「でもほんとにかわいいよ。西森さんっぽくてすごく似合ってる」
「うん。私も気に入ってるからね。それに私はやりたいことは残さず全部やるって決めたんだ。だから髪を染めたのもその一環。せっかくJKなんだし完全燃焼で青春するぜっ! てねー」
「いいね青春っ。それで自己紹介の時に陸上部で頑張るって宣言したんだ?」
「まあね。けど陸上部が廃部になってたとは……」
「……うん、残念だよね。だったら西森さんが復活させてみたら?」
「めーこせんせーにも同じこと言われたよ、けどさすがにそこまでの熱意は……。って、なんだか後ろ向きでぜんぜん青春っぽくないね」
「ううん。そういう風にはっきり言えるの、すごく良いと思うよ」
「そうかな? だったら名波さんも私と一緒に青春しようぜっ! あ、髪染めようって意味じゃないからね?」
「うんうん、青春しよう」
演技っぽく毛先を払ってピンクを揺らし、私と名波さんは声をひそめて笑い合った。
すると話の一区切りを待っていたみたいに生徒指導室のドアが大きく開け放たれた。
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