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しばし視線だけで鍔迫り合いを演じた私たちは、やがて由川さんが視線を逸らすことで折れて決着し、お互いに靴を履き替えて無言のまま練習コースへと歩き出した。
外周を迂回して進むグラウンドでは、サッカー部の男子たちが練習の準備を始めようとしているところだった。
気の早い野球部は野太い声を響かせながら鋭いキャッチボールをすでに始めていた。グローブにボールが吸い込まれ弾けるみたいな軽く乾いた音が小気味好い。
この高校は部の数自体は多くはなかったけれど活動は盛んなようだった。
私がほんの一ヶ月ほどだけ通った前の高校は、それなりに進学校だったので主に学業に主軸を置いていた。
運動部ももちろん存在はしていたけれど大会で結果を残すほどの実績はなく、本格的に活動している部活はごくわずかだった。
「……私も、ずっと後ろで見えなかったとか言って、ごめんなさい。思い上がってたわ」
練習コースに辿り着くなり、俯き気味に由川さんのほうから口火を切ってきた。
ここまで歩いてやって来るまでに思うところでもあったのだろうか、ばつが悪そうに由川さんらしくない小声でぼそぼそとした謝罪だった。
「ううん。気にしてないってことはないけど、謝ってほしいわけじゃないんだ。由川さんとしたい話は、朱々寧との確執についてだから」
「したい話ってまたそれなの? どうしたら諦めてくれるのよ……」
「私さ、朱々寧から話を聞いてきたよ」
「……っ」
ピクリとわずかに肩を揺らした由川さんは、私の真意を見抜こうとするみたいに上目遣いで疑わしげな眼差しを寄越してくる。
「どこまで話を聞いたの? 別に面白い話でもないでしょうに……」
景気付けみたいに小さく息を吐いて、由川さんはまるで気にしていませんと言外に示すみたいに素っ気ない言い草で視線を逸らす。
「全部聞いてきたよ。あ、もちろん私が無理やり聞き出したんだよ」
「……全部、ね。私が陸上部を辞めたのは、あなたが言った通りに私の性格が悪かったからよ。アイツからどんな話を聞いてきたか知らないけど、それが全てだから」
まるで挑発するみたいな由川さんの平坦な口調は、けれど私には通用しない。
むしろ、いまだ癒えない生々しい傷口を自ら開いているようにさえ思えて痛々しく映ってしまう。
「本当にそれで全部なの?」
「そうよ。これで気は済んだでしょう」
「ダメ。まだ、ぜんぜんわからない」
がっくりと肩を落としながら吐息を漏らす由川さんを、私は手のひらを向けてぴしゃりと抑え込む。
そもそも私は、この場での話を謝罪だけで穏便に済ませるつもりなんてないのだから。
「……は?」
「一つ、大事な質問をさせて」
軽くあしらっていたはずなのにちっとも納得しない私の態度に動転してしまったのか、ほんの少しだけ怯んだ様子の由川さんは視線だけで先を促してくる。
「由川さんが朱々寧に対して辛辣な態度を取るのって、……朱々寧のせいで陸上部を辞めることになったからなの?」
「……話を聞いてきたんでしょう? どうしてそんな話になってるのよ?」
「違うんだよね?」
「違うわよっ」
よほど納得いかなかったのだろう、向かい合って立つ私に詰め寄るみたいに由川さんが身を乗り出してくる。
「勘違いしないでほしいんだけど、朱々寧がそう言ってたんだよ。自分のせいで由川さんが陸上部を辞めるしかない状況に追い込んでしまったって」
「自分のせいって、なに、それ……」
「朱々寧は自分が不真面目だったせいで、由川さんを怒らせて酷いことを言わせてしまったって。――這ってでも会場に来なさいよって」
私の口にした言葉にわかりやすすぎるほど戸惑いを色濃くし、切れ長の目を大きく見開いて由川さんはぐっと唇を引き結ぶ。
「私が聞きたいのは、由川さんが陸上部を辞めたことに朱々寧が関係ないんだったら、どうしてあんな態度を取るのかってところ。その理由を知りたい」
私の懇願を正面から受け、けれど由川さんは踏ん切りが付かないのか、引き結んだままの唇を弛めては再び噛み締めるを繰り返して逡巡している。
「予想だけど、由川さんは自分の軽率な――、結果的に軽率な意味合いになってしまった言葉の責任を取ったんじゃないの?」
由川さんから返答はない。自分の爪先を睨み付けるみたいに視線を落としている。
「否定されないってことは肯定だと受け取るよ? 朱々寧のせいだとは思ってないし、自分の失言の責任を取って陸上部を辞めたんだとしたら、やっぱりどうして朱々寧に当たり散らすみたいな態度をとるのかがわからないんだよ」
ごくごく単純な、じつに素朴な疑問だった。
陸上部を辞めてしまったことに朱々寧が責任を感じているのはともかく、由川さんは完全に自己責任として納得した上で辞めているはずなのだ。
未練がなかったわけではないにしろ、だからといって朱々寧に厳しく接する理由がまったく見当たらなかった。
「……あなたって――」
「西森。私は西森依乃里。あなた、じゃないよ」
ややあって踏ん切りが付いたのか、それでも素直になりきれず忌々しげに口を開いた由川さんをきっぱりと遮って一歩前へと歩み出る。
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