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「……そのリレーの練習も、ぜんぜん参加しなかった、とか?」
「さすがに練習には参加してたよ。けど、参加してなかったって言われても仕方ない最低限の練習しかしてなかった。とにかく不真面目だったんだよ、今にして思えばね。だって必死に練習なんてしなくても、スタートダッシュで誰より速かった香奈がリードを稼いでくれるんだから、アンカーの私は届けられたバトンをゴールに運ぶだけ、一人で走るのとたいして変わんないとか考えてたんだよ。……改めて言葉にすると本当に感じ悪いうえに頭も悪いね」
「それが由川さんと揉めてる原因なの?」
「ううん。私が不真面目だったことは、その時点ではそこまで関係ない、と思う。でも積み重なってって考えれば関係あるのかな。でもやっぱりそれは決定的な原因じゃないよ。それで最初の話に戻るんだけど、私が転んだのが総体の予選会の日だったって」
「うん。ながら運転の自転車とぶつかりそうになって……」
そんなつもりはなかったのに引き寄せられるみたいに視線が朱々寧の脚を捉えてしまう。
「転んだんだよ。それで救急車で病院に運ばれたんだけど、その時にママのところだけじゃなくて学校にも連絡が入ったんだよ。当たり前だよね、大事な予選会の集合場所に現れずに連絡も付かないんだから。それで私抜きの予選会を終えた陸上部のみんなが慌てて病院に駆け付けてくれたんだけど、……そこで、やらかしちゃったんだよ」
「やらかした?」
大事な予選会に姿を現さず連絡も取れなかった部のエースが、こともあろうに病院へ運ばれたなんて知ったら誰だって慌てて駆け付けるくらい普通だろう。
どこにもおかしな点は見当たらない。その状況で朱々寧が何をどうやらかしてしまうのか見当も付かなかった。
「前も言ったけど、その時点ではまだ精密検査前だったからただの打撲って聞かされてて、私もこんなことになるなんて思ってもいなくて軽く考えてたんだよ」
表情にわずかな疲れを滲ませながら朱々寧が膝を撫で、ぎゅっと拳を堅く握り締める。
やりきれない思いを握り潰そうとしているみたいに見えて、思わず視線を逸らしてしまう。
「駆け付けてくれた陸上部のみんなに向かってさ、ぜんぜん大したことないよー、ただの打撲だってー、ちょっと転んじゃっただけで大袈裟なことになってさー。って冗談めかして笑いながら言っちゃったんだよ」
「でもそれは、みんなを心配させないためでしょ? 誰だってそうするよ」
「ううん、ただ恥ずかしくってみっともない気持ちの方が大きかったかな。照れ隠しだよ。だって、ただの打撲で病院に担ぎ込まれるなんてね」
「いや、だって……、その時点では脚が、そんな風に、なるなんて……」
意識していたわけではないし意味なんてないのに、そんな風なんて濁してしまった。
面と向かって『脚が動かなくなった』なんて、実際に車椅子に座ってきっちりと脚を揃えている姿を見てしまうと躊躇いが勝って言葉が続かなかった。
「うん、そうなんだよ。その時点では誰も知らなかったし想像もしてなかった。だから、私がへらへら笑いながら口にした言葉がその瞬間には事実だったんだ。そのせいでね、香奈から怒鳴られたんだ、ふざけないでよって」
「え……、病室で、だよね?」
「うん。個室で良かったって今でも思うよ」
「そんな勢いで怒鳴ったの? まあ、ちょっと想像できちゃうな……」
きっと朱々寧は大袈裟に言っているわけではないのだろう。
あの由川さんが怒鳴った際に個室で良かったと安堵するくらいなのだから相当な剣幕だったに違いない。
「私が現れなかったせいでリレーは補欠の子が急遽走ったって聞かされた。けどバトンパスがもたついて、勝てなかったって。みんな私のことを心配しながらそれでも必死でバトンを繋いで頑張ったのに、何をそんなへらへら笑ってられるのよって詰め寄られたの」
「いやだからって、事故に遭ったのは本当なんだし……」
「それも前に言ったでしょ、自転車と触れていないから事故でさえないんだよ。ただ私が一人で転んだだけ。私の不注意なの」
「そんな……」
「香奈はね、陸上部の中でもやり過ぎってくらい真剣に練習してたんだ。個人成績では標準記録にあと少し届かなかったから、この400mリレーに全てを賭けて全中出場を目指すって言ってた。だからさ、私の態度を前にして余計に感情が抑えられなかったんだよ」
「あー……、なるほどね……」
先ほどの体育の授業中、由川さんと言い争ったことを思い返すだけで充分だった。
あのやり取りを経験したおかげで、病室で怒鳴ったというのも割とすんなり頷けてしまった。真面目すぎるがゆえに気の強さに拍車をかけているタイプなのだろう。
「そうやってとにかく恥ずかしさを誤魔化したかった私の態度が香奈の怒りを逆撫でしちゃって、……余計なことを言わせちゃったんだよ」
「余計なこと?」
「うん……。『自分は標準記録をクリアして出場権を手にしてるから余裕なんでしょうけど、そんな不真面目に笑ってられるなら這ってでも会場に来なさいよ!』って……」
朱々寧が私をまっすぐ見つめながら声に怒りの感情を乗せる。
もちろん由川さんの口調を真似したのだけれど、その滲み出る迫力と刺々しさに思わず仰け反りそうになってしまった。
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