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「待って待って、マジで横暴すぎじゃん!?」

「はいはーい! 瀧口(たきぐち)司紗(つかさ)佐野(さの)杏奈(あんな)、クラス対抗リレーにご指名入りましたー!」

「ちょっと茉椰(まや)っ、勝手に決めんなっ!?」

「実行委員特権でーす、拒否権はありませーん」


 いかがわしいお店のコールみたいに茉椰がフルネームで二人の名前を叫ぶ。


 納得のいかない瀧口さんが声を荒げて抗議するけれど、まるで聞き耳を持たずに道連れにしてしまった。いざとなったら死なば諸共の精神らしい。


「いやー、毎年ぜんぜん決まらなくて時間ばっかりかかるリレーメンバーもすんなり決まって良かった。これも体育祭実行委員のおかげだなー」


 最初から想定していた思惑通りに事が運び、めーこせんせーは棒読みの賞賛を口にする。


 どれくらい決まらないのか前例を知らないのでなんとも言えないけど、そこまで生徒が嫌がるような種目ならやらなければ良いのに。

 種目そのものがなくなってくれれば、私に不本意な白羽の矢が立てられることもなかったのだから。


「それじゃー、種目ごとに分かれて用紙に名前記入してねー」


 クラス対抗リレーのメンバー決めで一悶着あった以降は滞りなく種目決めは進み、ひとまず全員の参加種目が決定した。


 めーこせんせーから受け取った記入用紙を頭上で振って茉椰が指示を飛ばす。

 それぞれ参加種目ごとのグループへと分かれる中、朱々寧(すずね)をちらりと仰ぎ見ると露骨に表情を歪ませていた。


 無理やり参加種目を決められてしまって不快そうというより、どういうわけだか狼狽えた様子で唇を噛んでいるみたいだった。


 私もクラス対抗リレーに無理やり参加させられるので気持ちはわからなくもないけれど玉入れがそんなに嫌なのだろうか。


西森(にしもり)さーん、こっちこっちー」


 苦虫を何匹も噛み潰したみたいな朱々寧の横顔に声をかけようかと思った矢先、瀧口さんからおいでおいでと手招きされた。


「あ、うん」


 手を振る瀧口さんの隣には、道連れにされた恨みを晴らそうと茉椰のほっぺを摘まんで捻じり上げている佐野さんの姿もあった。


「うー、いたた……。杏奈マジで剛力すぎてほっぺ千切れるかと思ったわ……。けど冷静に考えてさ、ウチと依乃里(いのり)は髪色を戻せばリレーは回避出来るってことじゃん?」

「は? そんなことさせるわけないっしょ。もし黒髪にしたら漂白剤ぶっかけてやっからな」

「めーこちゃんっ! ウチめっちゃいじめられてるー! こんなギスギスしたメンバーとじゃ信頼のバトンを繋ぐリレーなんて出来ないよー! ウチだけ外してっ!」

「うるさいぞ和久井(わくい)ー。騎馬戦にも出るかー?」

「騎馬戦、男子の種目じゃん!?」


 わかりやすい泣き真似をしながらめーこせんせーに泣き付いた茉椰だったけれど、まるで取り合ってもらえず撃沈して戻ってきた。


 正直、私も頭の片隅でほんのわずかに髪色を染め直そうかと過りはした。


 それくらい私にとってクラス対抗リレーという競技に良い思い出はなかった。


 中学の体育祭での出来事を思い出すと、たったそれだけのことで身が竦みそうになってしまう。


 かといってリレーの免除のためだけにピンクを染め直すのは、校則違反覚悟でお洒落を追求した自分のJK道を簡単に覆すみたいで我慢ならない。

 それに漂白剤をぶっかけると言い放った瀧口さんの目は本気だった。


 今から憂いを抱えたままのすっきりしない気持ちで体育祭まで過ごすのは癪なので、諦めて気持ちを切り替えるしかないだろう。


 何も問題なんてない。私はもう中学生の頃の私じゃない。

 リレーだって普通に走れば良いだけなんだから。


「うー……、よしっ。書いたよ!」


 キツく歯噛みしながらペンを握り締め、力強く自分の氏名を用紙に書き込む。

 くっきり色濃く書き込まれた自分のフルネームがやけに角張って見えるのは覚悟の現れだ。


 この高校の体育祭は各学年の奇数クラスと偶数クラスで紅組と白組の二つのチームに分けられる縦割り形式だった。

 なのでクラス内で敵味方に分かれることはないため、ライバル心を剥き出しに殺伐とした雰囲気に陥ることはなさそうだった。


 それ以前に一年生にとっては入学からわずか数ヶ月しか経っていないため、同じクラスメイトとはいえ一致団結を誓えるほどの関係性がまだ築かれていない。

 私に至っては転入してきて間もないため、まだ一度も喋ったことのないクラスメイトの方が多いくらいでなおさらだ。


 二年生、三年生ともなればもっと気持ちを込めて盛り上がるのかもしれないけれど、現状の私たちにとっては足並みを合わせるためにまわりの様子を窺う方が重要だ。

 あまりアグレッシブに盛り上げ役を買って出た挙げ句に浮いてしまうことだけは避けたい。


 それでもクラス対抗リレーの記入用紙に名前を書き終えた私の姿を見て感じ入るものがあったのだろうか、瀧口さんと佐野さん、そして茉椰の三人がそれぞれ目配せを交わす。あと一歩、踏ん切りが付かないのだろう。


「えーと三人とも、こうなったからにはもう腹を括ろうっ! 青春しようぜっ!」


 がやがやと騒がしい教室内でここだけお通夜みたいな淀む空気を一蹴する勢いで、私はがおがおポーズで決死の説得を試みる。





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