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「じゃあ朱々寧を入れて玉入れはいま五人かー。あと一枠あるし玉入れ面白そうだからウチも参加しちゃおっかなー」
失意に満ちた様子で天を仰ぐ朱々寧を気遣いもせず、玉入れのメンバー決めに戻った茉椰が残った一枠に意気揚々と立候補しようとしたところ、
「あー、そうだ和久井。玉入れに出るのは構わないんだが、それとは別にクラス対抗リレーの方にも出てもらうぞー」
改めてたったいま思い出したみたいな口調でしれっとめーこせんせーが付け加えた。
「うえぇっ、なんでっ!?」
「毎年リレーだけは本当に誰も立候補しなくてなかなか決まらないんだ。みんなー、リレーに出たい奴いるかー?」
まったく欠片も期待なんてしていない口調でクラスメイトに問い掛けると、それまで和気あいあいと談笑混じりに種目決めをしていたにもかかわらず、一斉に申し合わせたみたいに視線を逸らした。怖いくらいに息ぴったりだった。
「な? 毎年こんな調子なんだ」
大仰に肩を竦めるめーこせんせーの表情は宣言した通りの結果にむしろ満足そうだった。
「それでなんでウチが出なきゃいけないのっ!?」
「ピンク西森と同じ理由だブラウン和久井。嫌なら明日までにその頭をどうにかしろ」
「ダッサ! なにその売れないお笑いコンビみたいなあだ名!?」
「良いじゃないか。ピンクとブラウンがクラス対抗リレーでバトンを繋ぐなんて髪色も相まってやたら目立つと思うぞ。なんだったら二人で面白パフォーマンスを交えながら走っても構わんぞ。どうせ毎年たらたら走って盛り上がらないし」
茉椰よりも先にクラス対抗リレーを押し付けられていた私にしてみれば、教師サイドが盛り上がらないと認識しているなら止めれば良いのにとしか思わない。
それにしたってピンクとブラウンだなんてセンスの欠片もない。
コンビ名がダサすぎるという実力とは無関係な理由でお笑いグランプリの一次予選で落とされそうだ。
「そんな目立ち方したくないんだけどっ!? 実行委員は参加種目免除って言ったじゃん!?」
「ああ。だからクラス対抗リレー以外は無理して出なくても良いぞ?」
「うわああぁぁっ、騙されたっ! 横暴じゃんっ! 鬼教師ーっ!」
「今からそんなに喜ぶな。その元気は本番まで取っておけ」
「まったく喜んでねえしー!?」
「終わってみれば淡い青春時代の良い思い出になったなーって振り返れるもんだぞ?」
茉椰が頭を抱えながらめーこせんせーに食い下がるが、私のときと同じでまったくもって暖簾に腕押しだった。
こればっかりは何度も生徒たちを相手にしてきためーこせんせーの手腕の方が一枚も二枚も上手だった。
「やったじゃん茉椰。アンタの駆け抜ける青春、しっかり見届けてやるわー」
「めっちゃウケるんだけどー。そうだっ、あたしゴール間近で動画撮っててあげるわ」
クラス内でもかなり目立っている、いわゆる陽キャ女子グループの瀧口さんと佐野さんの二人が、ケラケラ笑いながらすっかり意気消沈してしまった茉椰をからかう。
茉椰を含めた瀧口さんと佐野さん三人が、クラス内カーストの最上位であることは転入した初日の雰囲気だけで伝わってきた。ただ、カースト最上位とは言っても三人から排他的な線引きみたいなものは感じなかった。
そのうえ転入直後に茉椰の方からおかしな賭けで声をかけてきたこともあり、瀧口さんと佐野さんの二人からも私はごく自然な流れで受け入れられた。そういった点からも、やはり茉椰の奔放さには感謝するべきなのだろう。
「あー、そうそう、瀧口と佐野の二人もリレーに出場なー」
ここぞとばかりに茉椰をからかって笑い合っていた二人に向かって、びっくりするくらい低く単調な声でめーこせんせーが無慈悲に告げる。
どれくらい無慈悲かというと、今度は手元の資料から顔すら上げることなく言い放つくらい冷淡な宣告だった。
主文を読み上げる裁判官でももう少しは感情を乗せて喋りそうな気がする。
「ちょっ、なんでっ!? 私、茉椰と違って地毛なんだけどっ!?」
「あたしの色はギリギリセーフじゃん! 茉椰と一緒にしないでよっ!?」
机を叩いて立ち上がった瀧口さんは襟足の長い王子様系ショートカットで艶のある黒髪だった。
ギリギリセーフと自己判断した佐野さんは栗色の長い髪を緩く結っているお姉さん系だ。
対照的な見た目の二人から引き合いに出された茉椰はへの字に口元を歪めている。
「ギリギリもなにもない、髪染めは全てアウトだ。そしてお前ら二人は単純に現国の成績が悪いからだ。このクラスで私の担任教科が著しく悪いなんて職員室でみっともないんだ。反省の意味も込めてしっかりバトンを繋いで、期末では現国だけでも赤点取らないように頑張るように」
揃って立ち上がりながら抗議した二人に、めーこせんせーはぐうの音も出ない理由を言い淀むことなく淡々と叩き付ける。
きっちりと引き締めた口調から職員室でみっともないというのはどうやら事実らしい。
教師の間でもカーストみたいな関係があるのかと思うと、大人のことは嫌いだったけれどほんのちょっぴり気の毒にも感じた。
それにしても、めーこせんせーは油断ならない。
普段から疲れが滲んでいる怠そうな口調からいまいち頼りなさそうな印象を与えるくせに、こちらを巧みに油断させて癖のある生徒たちをまとめて不人気な種目に押し込んでみせた。
的確にこちらの弱みを突いてくるあたり、警戒の糸は常に張っておかないと次はどんな厄介ごとを押し付けられるかわかったものじゃない。
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