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 昼食を終えた私たちにとって手強い睡魔との戦いとなる午後の授業をなんとかやり過ごし、朝のホームルームで説明されていた通りに学級会が始まった。


「それじゃあ体育祭の出場種目を決めるんだが、まず先に体育祭実行委員を男女一名ずつ選ぶぞー。やりたい人は挙手ー」


 教室にやって来るなりめーこせんせーがそう告げながら挙手を促すが、まるで競り合うみたいに静かになった教室内で誰一人として手を挙げるものなどいない。


「まあ、もしかして手が上がるかもって聞いただけだからな。面倒な実行委員を率先してやりたいやつなんていないよな。毎年のことだからわかってるぞー。そこで実行委員になった場合の特典なんだが、面倒な実行運営に携わる代わりに全体参加種目以外の出場は免除されるぞ」


 そう付け加えられた一言に、誰よりも早くお尻を浮かせながら茉椰(まや)が挙手した。


「はいはいはーいっ! ウチが実行委員やりまーすっ!」

「よーし一人目は和久井(わくい)なー」


 ここまでの流れがすでに織り込み済みなのだろう、めーこせんせーはやたら威勢の良い茉椰の挙手に驚きさえしなかった。


 それなりに責任ある実行委員を参加種目免除という後ろ向きすぎる特典で釣り上げていいのか疑問だったけれど、同じ後ろ向きな目的でペアとなる男子の実行委員もすぐに決まった。


 俄然、体育祭を頑張りたくない代表二人に教卓を預けためーこせんせーは満足して、これ以降は関わるつもりはないとばかりに窓際の椅子に座り込み、なにやら手元の書類に視線を落として自分の仕事に没頭してしまう。


「それじゃ、ちゃっちゃと決めよっかー。まずは二人三脚に出たい人は手を挙げてー」


 意外と言うと失礼かもしれないけれど、教卓に肘をついて声を弾ませながら挙手を求める茉椰の姿はわりと様になっていた。


 典型的な陽キャなノリに加えて疑いようもなくギャルな見た目の通り、体育祭みたいなお祭りごとを率先して盛り上げていくのは性に合っているのかもしれない。

 もしくは中学時代に何かしらの実行委員の仕事を経験済みなのだろう、それくらいには茉椰の所作は熟れて見えた。


「あー、これは六人までだから二人多いねー。そんじゃじゃんけんで決めよー」


 種目を告げて参加希望者の挙手を募る形で決めていくのだけれど、言うまでもなくいわゆる楽な種目はすぐに参加者が集まってメンバーが決まっていく。なので競合してしまった場合にはさっさとじゃんけんを促して学級会を進行させる。


 茉椰の仕切りの手際よさを目の当たりにしてつくづく人は見かけによらないのだなと感心してしまう。


「はーい、じゃあ次は玉入れに出場希望の人は挙手してー……」


 そんな風に茉椰の評価をちょっぴり見直したのも束の間、ものの数分後には面倒臭くなってきたのだろう、声の張りを露骨になくして頭上に伸ばした手をゆらゆら揺らす。


 飽きっぽさを隠そうともしないところにまでうっかり感心しそうになってしまった。


「えっとー、参加メンバーは六人だからー……、田村さんとー、由川(よしかわ)さんとー……」

「あー、和久井」


 まばらに掲げられた玉入れ参加希望者の挙手を数える茉椰をめーこせんせーが遮る。


「んえー? めーこちゃんどうかしたのー? まさか玉入れ出たいの? 年甲斐もなく?」

「先生と呼べ、出たいわけあるか、年齢に触れるな殴るぞ」

「誰かいまの暴言撮影してないっ? ネットに流して世論に訴えかけようっ!」

「……ふう、もうこれ以上はツッコまんからな。で、その玉入れなんだが一枠ほど名波(ななみ)に取ってあるんだ。伝え忘れていた」


 それまで実行委員に任せっきりで我関せずと手元の資料とにらめっこしていたのに、本当にたったいま思い出した様子のめーこせんせーが眉間をギュッと押さえながら言ってのける。


「えっ、そうなのー? じゃあ朱々寧(すずね)に一枠ねー、おけおけー」


 ちっとも訝しがることもなく茉椰は親指と人差し指でオッケーマークを作ると、黒板に名前を書き込んでいた男子の実行委員に目配せする。


「ちょっと先生っ、私そんなの聞いてないですけどっ?」


 あまりにさらりと流されたやり取りに、教室内で誰より一番驚いていたのは当の朱々寧だった。声の裏返り方からして本当に初耳だったらしい。


「今朝その話をしようと思ってたんだが――」

「だから私は見学で良いって言ったじゃないですかっ」

「車椅子のままでも対応可能で参加できそうな種目をリストアップしておいたんだ。その中から選んでもらおうとしたんだが西森(にしもり)の話に逸れてな、いや悪い悪い。もちろん他に出たい種目があるならやれる範囲で対応するつもりだぞー?」

「いや、だから見学で……」

「最低一つは参加が決まりなんだ。名波は全体参加種目も難しいだろうが玉入れだったら危なくもないしチームで協力できるだろう? 先生としてはもう一つくらい出場しても――」

「わかりましたっ、出ますよ……」


 朱々寧の苦言をまるで意に介さず、きっちりと教師らしい対応を見せためーこせんせーの手腕は鮮やかだった。


 諦めてがっくりと肩を落としながら渋々了承した朱々寧の姿を見て満足したのか、椅子に座り直すとゆったりと脚を組んで再び手元の資料に視線を落とした。






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