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これ以上の返答はないでしょう、だからこの話はこれでおしまい。
一方的にそう結論付けて笑顔を浮かべつつも、どこか冷めた雰囲気をまとっているみたいでたじろいでしまう。
「いや、そうは言ってもだな、先生の方でいくつか――」
「いいですいいです。私、身体動かすのって好きじゃないんで見学します」
手元に広げた資料プリントを示そうとするめーこせんせーと、頑なに視線は合わせようとはせずに朱々寧はひらひらと両手を振ってみせる。
「え、でもさ、車椅子でも参加できる競技って何かあるんじゃないの?」
その、どこか諦めが先行している風に見えてしまう朱々寧の仕草を前に、私はなぜだかすんなり聞き入れることが出来ずに口走ってしまう。
「普段の体育も見学してるんだからあるわけないってば」
「でも、せっかくのイベントなのに……」
「いいんだよ、ありがとね。で、私の話はそれだけですよね? じゃあお次はピンクの用事の方にいってみましょー!」
なにも対案さえなく口ごもった私を逆に気遣って、ふるふると小さく頭を振って朱々寧はぴしゃりと自分の話を打ち切ってしまう。
切りかえるみたいに冗談めかした口調で舌っ足らずに語尾を伸ばして手のひらを私に差し向ける。
「ちょっと、そのピンクって定着させようとしないでよ……」
「うーん、じゃあやっぱりピンクモゲラを推していこうかな?」
「いや、普通の西森でいさせてよ……」
「さっさと黒髪に戻せば、なんてことない普通の西森に戻れるぞ?」
眉をひそめながらめーこせんせーが正論を挟み込んでくる。
「なんてことない普通の西森って侮られてるみたいでモヤモヤするんだけど……」
「そんな普通にすらなれない西森の方の用事はだな、体育祭で女子のクラス対抗リレーに出てもらおうと思ってな」
めーこせんせーがさらっと口にした提案はまさかの内容だった。
「えっ、クラス対抗リレー!? 嫌だよっ!」
「いやー、どういうわけか男子も女子もクラス対抗リレーだけは毎年最後まで出場者が決まらなくて無駄に時間がかかるんだ」
「どういうわけもなにもないよっ、純粋に不人気だからだよ! どうして私が!?」
「自己紹介で陸上部に入りたいって言ってただろう? ちょうど良いじゃないか」
「なにもちょうど良くないよ!? ちょ、待って、ほんとに嫌なんだけどっ!?」
含み笑いを隠そうともしないめーこせんせーの指摘通り、確かに私は転入時の自己紹介で陸上部に入りたいと言った。
私はずっと子供の頃から陸上を続けていた。
ただそれは、壮大な目標に向かって努力を積み重ねていたとかではなく、単純に走ることが好きだったというふんわりとした理由だった。
それでも中学時代の陸上部では短距離走で一番のタイムを出したことだってある。なので単純に走ることが嫌なわけじゃなかった。
リレーであることが問題なのだ。
私は中学三年の体育祭のまさしくクラス対抗リレーで、いまだに引き摺るくらいの大きな後悔を経験していた。
その後悔を拭い去るつもりで高校生になったら心機一転、改めて陸上を頑張ろうと誓っていたのだ。
それなのにいざ入学した学校は一ヶ月で転入を余儀なくされ、転入先のこの学校に至っては肝心の陸上部が廃部になっていた。
いきなり出鼻を挫かれた挙げ句に気持ちの整理も付いていない状況で、よりにもよってトラウマとも呼べるクラス対抗リレーを薦められて素直に受け入れられるはずがない。
「まあ待て。クラス対抗リレーで自慢の脚を披露して陸上部の部員募集を謳ってみろ、一緒に陸上をやりたいって生徒が出てくるかもしれないだろ?」
「いや、部員の募集だったら別に体育祭の、しかもクラス対抗リレーでやんなくってもいいじゃん!? とにかく私は嫌だからねっ!」
「残念だが西森に拒否権はないんだ」
「は? どうして?」
「嫌ならその頭を戻してこい」
めーこせんせーの最後通告は強烈だった。
ものの見事にカウンターパンチをお見舞いされたボクサーみたいに、ぐうの音も出せず軽く仰け反った私に向かって、
「そんなピンクよりも元の黒髪の方がかわいかったぞ? じゃあよろしくなー」
華麗に切り札を決めた悪党のボスみたいにほくそ笑みながら、めーこせんせーは軽い足取りで職員室へと帰って行ってしまった。
よりにもよって自分の抱える後悔の原因である、体育祭のクラス対抗リレーを押し付けられるだなんて思わなかった。私の事情なんて知らないとはいえ、やっぱり大人は勝手だ。
「うわぁ……、もう最悪なんだけど……」
「え、ピンク西森ってあだ名かわいいと思うよ?」
「そっちじゃないよ! いや、そっちもだけど! 私まるっきり巻き添えじゃん……」
「依乃里ちゃん陸上やってたんだよね? リレーは嫌なの?」
「あー、うー……、えっと……、あんまり得意じゃないっていうか……」
ごにょごにょと歯切れ悪く口ごもる私の顔を覗き込みながら、
「ほら、これも青春だよ、青春っ。がおー」
朱々寧が爪を立ててがおがおポーズを作ってみせる。
私の受け売りなんだろうけれど、どうにもその戯けてみせる態度には他人事として面白がっている気配が透けて見えてしまう。
「せ、青春……、けど、リレーかー……、うわああ……」
口元を両手で隠しながら笑みを堪える朱々寧をじっとりと睨め付けて、私はおかしなあだ名の元凶となったピンクを掻きむしるみたいに頭を抱えるしかなかった。
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