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「そっか。ちなみになに賭けてたの?」

「コンビニの唐揚げだよ」

「あー、美味しいよねあれ。私は断然ファミチキ派だわー」

「んえっ? ちょっとちょっと聞き捨てならないぞー? コンビニ唐揚げだったら絶対セブンのななチキっしょー!」


 可愛らしく照れて見せていた素振りをかなぐり捨てて、和久井(わくい)さんが納得いかない様子で鼻息荒く割り込んでくる。


「うん、セブンのも悪くないけど賭けは茉椰(まや)ちゃんの負けだから今回はファミチキ奢ってね」

「うぐっ……、ちょっと西森(にしもり)さん、今からでもいいから問題児になっちゃおうよー?」

「え、唐揚げごときで嫌だよ、無茶言わないで……」

「ほんとは胸がデカすぎて問題になって転入になったんじゃないのー?」

「なにが問題になるのよそれ? てか、そんなデカくないからっ」


 しきりに手を合わせて拝んでくる和久井さんの冗談に、名波(ななみ)さんは口元を押さえて肩を震わせながら笑いを堪えている。


「そこをなんとか! いまだけ胸デカ問題児のフリしてくれるだけでいいからー!」

「嫌だってば、なんなの胸デカ問題児って……。仮に私の胸がデカすぎだったとしても、茶髪ピアスな和久井さんのほうがそれでもまだまだ問題児でしょ?」


 思わず勢いで口をついて出た自分の言葉にハッとしてしまう。

 失言だったかと恐る恐る和久井さんを見遣ると、


「おー、言ってくれちゃうじゃーん。そーゆーの嫌いじゃないよー。それとさ、さっきも言ったけど苗字じゃなくって茉椰って呼んでってばー。ウチらもう友達じゃん?」


 演技じみた半眼で肩をぐいぐいぶつけてくる和久井さんは、その口調と態度から本当にちっとも気にしていないみたいでほっとした。


「じゃあ茉椰、私のことも依乃里(いのり)って呼んでよ?」

「もっちろん! 依乃里もこれでマブだねー」


 せっかく二度も求められたのだから、これ以上苗字呼びをしては失礼だろう。


 私はお返しとばかりに自分も名前呼びを求め返してやった。結果、あっさりとマブ認定してもらえた。もしかして誰でもマブになれるのかな……?


「じゃあ、そんなマブな茉椰にちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」

「どしたどしたー? ななチキの魅力とかー?」

「いや、どんだけななチキ好きなのよ……? そうじゃなくって、誰か陸上部の子っていないかな? さっきの自己紹介でも言ったけど部活見学とか行ってみたいんだけど」


 宣言した通りに入ろうと思っている部活はすでに決まっているのだから、クラスメイトに陸上部の子がいるなら早めに仲良くなっておきたかった。


 それなのに、茉椰からの返答は容易に私の期待をたたき落とすものだった。


「あー、陸上部はないよ」

「え……、ない?」

「そっそー。この春に三年生が卒業したことで部員がいなくなっちゃったんだってー。それで実質廃部状態になってるってめーこちゃんが言ってたよー」


 すらりと長い指を伸ばして大きく両手を開き、茉椰は肩を竦めながら教えてくれた。


「ええ……、そんなことってある……?」

「てか、そんなに陸上部に入りたかったのー? 依乃里ってそんな乳しておきながら陸上ガチ勢ってやつー?」

「そういうわけじゃないんだけど、乳って言うのやめて……?」


 ガチ勢ではないけれど転入を機に新天地で改めて陸上を頑張りたい気持ちはあった。


「胸デカいと走りにくそうだなーって思ってねー。ま、ないものは仕方ないよ。それよりも前に通ってた学校のこと教えてよー?」


 広げていた手のひらをわきわき動かし、茉椰は興味津々な表情で身を乗り出してくる。


「教えてって言われても一ヶ月くらいしか通ってないんだけど……」

「じゃあ胸をデカくする秘訣でもいいよー? やっぱ牛乳かー?」

「いや私、牛乳飲めないから。お腹痛くなる……」

「ええーっ、だったらなにが詰まってんのそれー!?」

「少なくとも牛乳じゃないから……」


 初っぱなから賭けの対象にされたり、やたらと胸の大きさを弄り倒されたりと、思い返せばずいぶんな洗礼を受けていた。それでも茉椰も朱々寧も間違いなく悪い人ではなかった。


 これが物怖じなんてすることなく一方的に絡んできた、私の一人目の友達となった茉椰との転入初日に交わされた奇行の顛末だった。





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