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「あー、なるほどね。残念ながら普通に引っ越しで転校になったってだけだから問題児とかじゃないよ。和久井(わくい)さん」


 同じようにわきわき両手を動かし返して見せながら否定すると、


「おっ、がおがおポーズ似合ってるじゃん!」


 やたら嬉しそうに両手をわきわき動かしながら覆い被さる勢いで顔を寄せてくる。

 これはがおがおポーズって言うのか、流行ってるのだろうか。


「それとさ、ウチのことは茉椰(まや)って呼んでよー。和久井さんってなんか照れちゃうし。それよか本当の本当に問題児じゃないのー? 今日は転入初日だから大人しくしてるだけでじつはこの学校を牛耳る隙を虎視眈々と狙ってたりしないー?」

「や、そんなバイオレンスなこと考えてないけど……」


 すげなく切り捨てたつもりはなかったけれど、どうにも気が済まないのか和久井さんは一段と顔を寄せてきて値踏みするみたいに私の顔から胸元へと視線を滑らせる。


「んー……、えいっ」


 すると何を思ったのか、顔の横に添えていたがおがおポーズの両手でいきなり私の胸を鷲掴みにしてきた。


「うおっ! いきなりなにっ!?」

「おおおおっ、ちょいちょい朱々寧(すずね)っ、西森(にしもり)さん胸デカいぞーっ!」


 私の胸をわしわし掴みながら和久井さんが首を伸ばして後ろの席へと声をかける。


「やめなよ茉椰ちゃん、西森さん困ってるよ?」


 されるがままに首だけ捻ってチラリと振り返ると、車椅子の名波(ななみ)さんが口元に手を添えてくすくす笑っている。


「自己紹介のときから思ってたけどマジでデカいわ西森さん。ほれほれ朱々寧も触ってみ?」

「もう、そんなこと言って誤魔化しても私の勝ちだからね?」


 胸を掴まれたままの私を挟んで二人にしかわからないやり取りが続く。


 それにしても私の自己紹介中ずっと胸を見ていたのか。全然気が付かなかった。


「えっと、別にそんなデカくないからいい加減離して?」


 狼狽えながら交互に二人へ視線を移し、ずっとがっちり掴んだままだった和久井さんの手を払う。せっかくの新しい制服が胸元だけ変な皺になっちゃうじゃないか。


「うあー……、朱々寧の勝ちかー、ちくしょー」


 払われた手を気にすることもなく、和久井さんは頭を抱えてもだえるみたいに身を捩る。


「え、なにこれ……? 転入生への洗礼みたいなやつ……?」

「違う違う、ごめんねっ」


 わけもわからず胡乱な眼差しを突き付けた私に、慌てて両手と首を振って見せる名波さんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「……えっと、それで勝ちってなんなの? 何か賭けてたってこと?」

「うん。転入生が来るって噂が流れて、こんな時期に転入してくるのは学校を追い出された問題児に違いないって茉椰ちゃんが言い始めたんだよ。けど絶対に茉椰ちゃんの方がずっと問題児だよって言ったら、じゃあ賭けようって流れになって……」

「なるほどね」


 確かに高校入学後わずか一ヶ月ほどで転入するなんて、本人か取り巻く環境に問題でもない限り起こり得ない。現に私は母親の蒸発で急遽、転入を余儀なくされたのだから。


「西森さん普通に引っ越しで転入って言ってるんだから、ぜんぜん問題児じゃないでしょ?」

「ううー、朱々寧がいじめてくるー。かれこれ一ヶ月になろうかって友情がー……」


 和久井さんはわかりやすい嘘泣きをして見せながら私の肩に頭をもたげてくる。


「え? 一ヶ月? 賭けてたくらいだし二人は友達なんだよね?」

「もちろん、ウチらはマブだよマブ!」


 やたら威勢良く和久井さんが拳を握り締めながら答えてくれる。


 ギャルギャルしい風貌でマブなんて口にするせいで、若干ヤンキーっぽさを感じてしまったけれど黙っておいた。


「うん、友達だよ。高校に入ってからだけどね。茉椰ちゃん、私のこれに興味津々で『うわっ、初めて見た! ちょっと押してもいいー?』って声をかけてきて、私が返事するより早くもう押してきたんだよ。それであれよあれよとね」


 名波さんが車椅子の手すりをポンと叩いて笑顔を零す。


 和久井さんはちょっぴり照れた様子でぐっと親指を立てて寄越したけれど、どこに照れる要素があったのかまったくわからない。


 初めて目の当たりにした車椅子に尻込みもせず、『押してもいい?』なんて聞ける和久井さんの奔放さは単純に感心してしまった。


 物怖じもしなければ、きっと裏表もない性格なのだろう。そうでなければ初対面でいきなり胸を鷲掴みになんて出来ないだろう。






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