第一話
「あっ、今日って、なんか大事なことがテレビで放送されるんだった」
学校の帰り道。きれいな夕焼けを見上げながら、私はつぶやいた。
「急がなきゃ、始まっちゃう」
リュックをかけ直して、少し足を速める。
私の名前は月城璃亜奈。
どこにでもいる小学六年生だ。
少しカールした黒髪に、ほんのり青みがかった目。
特別変わったところなんてない——……いや、強いて言えば、けっこう美人なところくらい?
あとは、父がいないこと。
小さい頃に亡くなったらしいけど、あまり覚えていない。母も父の話になると口をつぐんでしまうから、私の中の「お父さん」は、いつもぼんやりしている。
「ただいまー!」
家に入ると、カレーのいい匂いが広がっていた。
「お帰り。今日はカレーよ。なんだか大事な放送があるみたいだから、食べながら見ましょう。今日は特別」
お母さんが人参を切りながら言う。
「やった!宿題してくるね」
手を洗ってから、自分の部屋へ向かう。
今日の宿題はちょっと多い。でも土曜日だし、なんとかなるかな。
◈◈◈
「ご飯できたよー!」
お母さんの声が聞こえる。けど、まだ終わっていない。
「ちょっと待って、あと少し!」
「その“ちょっと”って、何分かしらね。よそい終わったらまた呼ぶわ。それまでに終わらせなさいよ」
文句を言いながらも待ってくれるあたり、やっぱり優しい。
「終わったよ」
ドアを開けると、またカレーの匂いがして、お腹がぐうっと鳴りそうになる。
「はい、座って」
「いただきます」
一口食べる。
「ん、おいしい。カレーってほんと、発明した人天才だよね」
「ご飯と一緒にする発想、すごいわよね」
「……あ、お母さん。テレビ、そろそろじゃない?」
そう言うと、お母さんがリモコンを手に取った。
画面が切り替わり、ニュースが始まる。
『地球の皆様へ、重要なお知らせがあります』
空気が、少しだけ張りつめた気がした。
『この放送は、これからの地球を大きく変えるものになるかもしれません。すべての国で同時に放送されています。どうか、最後までご覧ください』
画面が切り替わる。
現れたのは——エルフみたいな耳をした、知的で整った顔立ちの男性だった。
『はじめまして。セリオス・エルヴィンと申します』
え……?
思わず、息が止まる。
『突然で信じられないと思いますが、受け入れてください。わたくしたちの惑星には、“魔法”が存在します』
——は?
頭が追いつかないまま、言葉だけが流れていく。
『これから、それを証明します』
次の瞬間。
彼の手から、火が生まれた。
水が現れ、雷が走り、光が空間を満たす。
ありえない。
そう思うのに、目が離せない。
——これ、本物だ。
背筋がぞくりと震えた。
『これは決してフェイクではありません。各国の首脳もすでに理解しています』
本当に?
いやでも——あれは、どう見てもCGじゃない。
『今後、情報を公開するための専用チャンネルを開設します。質問にもできる限りお答えします』
画面の中の男——セリオス・エルヴィンは、淡々と語り続ける。
「すごい……夢じゃないよね?」
思わず頬をつねる。
「……ええ、そうね。信じられないわね」
お母さんはそう言ったけど、その目はテレビに釘づけだった。スプーンを持ったまま、動かない。
「……お母さん?」
呼びかけても、返事がない。
「どうしたの?大丈夫?」
ようやく、お母さんはゆっくり瞬きをして、私を見る。
「……うん、大丈夫。ちょっと、昔のことを思い出しただけ」
そう言って微笑む。でも、その表情は少しだけ固かった。
『私たちは、この地球と“共存”することを選びました——』
私は胸の高鳴りを抑えきれず、ただ画面を見つめていた。
そのとき。
「……そんな話、あの子から聞いていないのに……」
お母さんが、ぽつりと呟いた。
——その声に、私は気づかなかった。
そして、この出来事が、これからの私に深く関わってくることも——まだ知らなかった。




