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第29話 シュゼットは、ドレスを作る

 9月になり、リヴィエール王立学院は新学期に入った。


「おはよう、シュゼット。さっそく身に着けてくれて嬉しい」


 朝、コルネイユ侯爵邸に迎えに来てくださったレナルド様は、わたしがいただいた髪飾りを着けていることに気がつくと、淡く笑んだ。


「おはようございます、レナルド様。素敵なお品をどうもありがとうございます」

「気に入ってくれたのなら、なによりだ」


 レナルド様はわたしの髪を一房手に取ると、そこにそっと口付けた。


「よく似合っている」

「…………っ」


 なんだか最近レナルド様は愛情表現が増えた気がするわ。


 わたしは今だに慣れなくてどきどきしてしまうけれど、決して嫌ではなかった。



 ♢♢♢



 学園に着くと、レナルド様はわたしを教室まで送ってくださってから、ご自身の教室に向かわれた。


 それを見ていたミレーヌがわくわくした様子で話しかけてきた。


「ごきげんよう、シュゼット。ねぇ、その髪飾りってもしかして ベルクール様からの贈りもの?」

「ごきげんよう、ミレーヌ。ええ、そうよ。誕生日にいただいたの」

「これまさかブラックダイヤモンド? さすが筆頭公爵家ねぇ、凄い品だわ……!」


 ミレーヌは髪飾りを見ながら感心したように言った。


「それにしても、学園にまでお互いの色を身に着けているなんて、本当に仲が良いわね。学園祭の衣装も合わせるの?」

「ええ、今週末に一緒に決める予定なの。ミレーヌは衣装はもう決めた?」

「わたしもまだこれからよ。わたしは『花なし』だから、気合いを入れなくちゃね!」


 リヴィエール王立学園の学園祭に出席できるのは在校生のみのため、婚約者が在校していない生徒は1人で参加することになる。そのため、婚約者の有無を判別するために、婚約者がいる者は胸に生花を飾る決まりがある。そこから「花なし」は学園祭において婚約者のいない生徒のことを表す言葉になった。


 全校生徒が出席する学園祭は、婚約者のいない者にとっては絶好の出会いの機会だった。少しずつ恋愛結婚が増えてきた昨今では、学園祭での一目惚れから婚約に発展するケースも多いという。

 まだ婚約者のいないミレーヌが張り切るのも納得だ。


 学園祭はまだ社交界デビュー前の練習の場だけれども、レナルド様と一緒に社交の場に出るのは初めてなので、わたしもとても楽しみだった。



 ♢♢♢



 週末。


 コルネイユ侯爵邸で、レナルド様と学園祭の衣装の打ち合わせを行なった。


 レナルド様が手配してくださった仕立て屋は、なんと王都で最も有名な「ヴェールノワール」だった。


 デザイナーのマダムと相談しながらドレスのデザインを決めていく。ドレスを新たに作るのはいつもとても心が弾む。


 そんなわたしをレナルド様は微笑ましそうな眼差しで見つめていた。


 色々と悩んだ結果、わたしはレナルド様の髪色と同じ、ダークブラウンを差し色に用いた鮮やかなオレンジ色のドレスに決めた。


 今までアクセサリーなどでレナルド様の色を身に着けたことは何度かあったけれども、ドレスは初めてだ。


 レナルド様は「好きなように仕立てて良い」とおっしゃってくださったけれど、わたしは初めてのレナルド様と一緒の社交の場なので、彼の色を身に着けたかった。そう伝えると、レナルド様はとても嬉しそうだった。





 ドレスのデザインを決めたあと、わたしとレナルド様はいつもの薔薇園のガゼボでお茶をすることにした。


「レナルド様、ありがとうございます。できあがるのがとても楽しみですわ」

「私も君のドレス姿を見るのがとても楽しみだ」


 そう言ってティーカップのお茶を飲もうとしたレナルド様が、ふいにぴたりと手を止めた。


「……? レナルド様、どうかなさいまして?」

「……シュゼット、このお茶はどうした?」


 レナルド様は硬い声で問う。

 今日のお茶は、先日アニエスからもらったペパーミントとオレンジの香りのフレーバーティーだ。

 それが一体どうしたのかしら?


「先日の誕生日にいただいたものですわ」

「誰から?」

「アニエス・オベール子爵令嬢ですが……、それがどうかなさいまして?」

「アニエス・オベール……」


 レナルド様は剣呑につぶやくと、そのままティーカップをソーサーに置いた。


「シュゼット、すまないが、このお茶をあるだけ全てもらえないか?」

「えっ!? ええ、構いませんが……」


 お気に召したのかしら? と思ったけれど、レナルド様のお顔はこわばっており、とてもそんな様子ではない。


 疑問に思っていると、レナルド様はさらにわたしに尋ねた。


「シュゼットは、アニエス・オベール子爵令嬢と親しいのか?」

「いいえ、特別親しいわけではありませんが」

「そうか……。彼女には十分に注意してくれ。なにかあれば、どんな些細なことでもすぐに私に言ってほしい。良いね?」


 レナルド様の普段とは異なる様子に、わたしは疑問に思いつつも、神妙に頷いた。





 けれども、それから数日後にアニエスは突然学園を休学した。

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