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第28話 シュゼットは、17歳の誕生日を迎える

 ベルクール公爵領の別荘から戻ってきた数日後の8月最後の日。


 今日はわたしの誕生日だった。


 昨年同様、レナルド様からは朝一番に誕生日の贈りものが届いた。


 それはわたしの好きなオレンジと黄色の薔薇の花束と、髪飾りだった。

 どちらにもレナルド様の髪の色と同じ、ダークブラウンのリボンが巻かれていた。


 髪飾りは繊細な細工に大粒のブラックダイヤモンドがいくつも散りばめられた豪奢なものだったけれど、普段使いにも夜会用にもできそうな汎用性の高いデザインで、重宝しそうだ。


 添えられた上品なメッセージカードには、レナルド様らしい几帳面な字で、


「愛するシュゼットへ

 17歳の誕生日おめでとう

 私の代わりにいつも君の側にあれたら嬉しい」


 と書いてあった。


 こんな高価な品を普段使いだなんて。

 と思ったけれど、わたしがレナルド様に普段身に着けられるカフスボタンを贈ったので、彼もわたしが普段身に着けられるものをくださったのかもしれないと思い至った。

 ネックレスやイヤリングとは違って髪飾りならば、多少豪奢でも学園に着けて行けるからだ。


 今のレナルド様は本当にわたしのことを想ってくださってるのね。


 そう思うと、じわりと胸があたたかくなった。


 収穫祭まであと2ヵ月。

 レナルド様のお気持ちがこのままずっと変わりませんようにとわたしは切に願った。



 ♢♢♢



 今年の誕生日は、レナルド様は食事に誘ってくださった。


 レナルド様が案内してくださったのは、前にも連れてきてくださった、王都一との呼び声の高い有名レストランだった。


 通されたのは以前に訪れた時と同じ、2階の大通りに面した眺めの良い席だった。

 わたし達以外のお客がいなかったので、貸切にしてくださったのだろう。


 わたしはレナルド様との穏やかな会話とおいしい食事を楽しみながら、贅沢なひと時を過ごした。


 名残惜しく感じながら食後のデザートを食べていると、レナルド様がふいに切り出した。


「……ところで、シュゼットは学園祭の衣装はどうする?」


 リヴィエール王立学園の学園祭は10月の最初の日に行われる。

 学園祭という名称だけれども、実質は舞踏会だ。

 社交界にデビューする前の学生にとっては、3月の卒業パーティーと並んで貴重な社交の機会だった。


「まだ決めていませんわ」

「もし良ければ、揃いの衣装にしないか? 君にドレスを贈りたい」

「まあ……っ、よろしいのですか? ありがとうございます。是非お揃いにしたいです!」

「では、来週末に一緒に衣装を決めようか」

「はい! とても楽しみですわ」


 時を遡る前の学園祭では、レナルド様と衣装を合わせることはなかったし、ドレスを贈られることもなかった。


 時を遡る前と行動を変えてレナルド様と親しくなったことで少しずつ未来が変わっていく。


 このままいけばあの地下牢で果てる未来を変えられそうな気がする。


 そう思うと、わたしの心はとても軽くなった。



 ♢♢♢



 レナルド様との食事から帰宅すると、わたし宛に誕生日の贈り物やメッセージカードがいくつか届いていた。

 時を遡る前とは異なり、今はあまり社交はしていないので、量は少なめだ。


 ミレーヌからの贈りものは、ボワイエ伯爵領名産のオレンジを使ったお菓子の詰め合わせと、メッセージカードだった。


 そして、なぜかアニエス・オベール子爵令嬢からも贈り物が届いていた。


 時を遡る前は学園で隣の席だったので友人だったけれども、時を遡ってからは接点がないのになぜかしら?


 疑問に思いつつも届いた贈りものの包装を開けると、中から出てきたのはフレーバーティーだった。ペパーミントとオレンジの独特な香りのそれは、時を遡る前にもアニエスからもらって好んで飲んでいたものだった。


 わたしはさっそくアニエスからもらったフレーバーティーをエメに淹れてもらった。


 このあと味がクセになるのよね。


 爽やかなオレンジの風味とペパーミントのすっきりとしたあと味のおかげでいくらでも飲めてしまう。そのため、時を遡る前はほとんど毎日飲んでいた。


 わたしはミレーヌとアニエスからもらったお菓子とフレーバーティーをお供に、贈りものやメッセージカードへのお礼状をしたためることにした。




 時を遡る前のアニエスは友人だったので、親近感を抱いていたからかもしれない。

 この時のわたしはなぜ接点のないアニエスがわたしに贈りものをしてきたのか深く考えることはなかった。


 けれどもあとから思い返せば、これがのちに起こった事件の最初の予兆だった。

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