第27話 シュゼットは、心を決める
ふと気がつくと、わたしはレナルド様の肩にもたれかかっていた。
昨夜寝不足だったため、いつの間にか眠りに落ちてしまっていたようだった。
「……っ! すみません、レナルド様!」
「構わない」
レナルド様は開いていた本を閉じると、甘く微笑んだ。
わたしが眠っている間、レナルド様はどうやら読書をしていたようだった。
「目が覚めたのなら、そろそろ戻ろうか」
「はい」
レナルド様のエスコートで、わたし達は再び森の小径をたどる。
別荘に着く頃にはだいぶ陽が傾いており、湖は夕焼けを映してオレンジ色に染まっていた。
♢♢♢
「良かったら、一緒に星を見ないか?」
別荘に戻ってひと休みし、夕食を一緒にとったあと、レナルド様は2階のバルコニーに誘ってくださった。
バルコニーから見上げた夜空には明るい満月が浮かぶ、満天の星空があった。
眼前の湖は凪いだ湖面に満月を鏡のように映している。
昨年一緒に星空を鑑賞した時は、来年は一緒に別荘に来られないかもしれないと思っていた。
リリアーヌに出会えば、レナルド様はすぐに彼女に想いを寄せるようになると思っていたからだ。
けれども、実際はそんなことはなかった。
それどころか、レナルド様はリリアーヌには興味を示さず、わたしのことを愛してくださっているという。
そのことがわたしは今だに信じられなかった。
「レナルド様、今年も別荘にお招きくださってありがとうございました。わたし、とても楽しかったです」
「それはなによりだ。私も君と過ごせて楽しかった。来年もまた一緒にここに来よう」
時を遡る前は、収穫祭の時期にはレナルド様は王太子殿下と共にリリアーヌと一緒にいるようになっていた。
だから来年はもう不可能だろう。
そう思うと、ちくりと胸が痛んだ。
「……レナルド様のお気持ちがお変わりなければ、是非」
「……君は、いつも私の気持ちが変わらなければと言うが、私の気持ちが変わることは絶対にない」
「そんなこと、わかりませんわ。だって学園には魅力的な方がたくさんいらっしゃいますもの」
「君以上に魅力的な人などいるものか」
「……レナルド様」
「前にも言ったが、私は生涯君だけを愛すると誓うよ」
レナルド様はそう言うと、恭しくわたしの手を取り、そこにそっと口付けを落とした。
♢♢♢
心ゆくまで星空を眺めたあと、レナルド様はわたしを客間まで送ってくださった。
そういえば、昨年も部屋まで送ってくださったのよね。そして別れ際に……。
ふとそんなことを思い出していると、ふわりと柑橘系の香りが鼻腔をくすぐった。
レナルド様の香水の香りだわ……。
それに気がつくのと同時に、額に柔らかいものが一瞬触れた。
「おやすみ、良い夢を」
レナルド様は愛おしそうな眼差しでわたしを見つめると、甘い声でそう言った。
「……お、おやすみ、なさいませ」
ふわふわと熱に浮かされたような心地で扉を閉めると、わたしは扉に背を預けてずるずるとその場に座り込んだ。
胸の鼓動はどくどくと早鐘を打っている。
昨年は、どうしてレナルド様がわたしに口付けられたのかわからなかった。でも、今ならわかる。
レナルド様がわたしを愛してくださっていたからよ。
わたしはのろのろと立ち上がるとふらつく足でベッドに向かい、そのままぽすりとそこに倒れ込んだ。
ベッドのシーツに顔を埋めると、わたしはレナルド様の言葉を脳内で反芻した。
レナルド様はわたしを愛してくださっていて、ご自身のお気持ちが変わることは絶対にないとおっしゃった。
それに、生涯わたしだけを愛するとも誓ってくださった。
時を遡る前にレナルド様が命懸けでリリアーヌを庇ったことが強く印象に残っていたわたしには、その言葉をどうしても信じることができなかった。
けれどもその一方で、同じくらい信じたいとも思っていた。
レナルド様の言葉がどうしようもなく嬉しかったからだ。
レナルド様は今まで1度もわたしとの約束を違えたことはない。
それならば、あの言葉も信じられるのではないかという思いがわたしの中でじわじわと湧き上がってくる。
レナルド様の言葉を信じたい。
時を遡る前と行動を変えたことで、レナルド様との関係性が変わったように、レナルド様がリリアーヌを好きになる未来も変わったのかもしれない。
もし、収穫祭の時期を過ぎてもレナルド様がリリアーヌに想いを寄せることがなかったら、彼の言葉を信じてみよう。
レナルド様の言葉がどうか真実でありますようにと願いながら、わたしはそう心に決めた。




