第26話 シュゼットは、森を散策する
ベルクール公爵領の別荘に来て2日目の朝。
わたしは寝不足のまま、エメに起こされて目を覚ました。
あれからずっとぐるぐるとレナルド様の言葉を考えてしまい、なかなか寝付けなかったのだ。
「おはようございます、シュゼット様。レナルド様より、お目覚めになられましたら朝食をご一緒したいとの言づてを承っております」
エメがカーテンを開けてくれるのを寝ぼけ眼でぼんやりと眺めていたわたしは、その言葉を聞いて一気に目が覚めた。
「大変っ! レナルド様をお待たせするわけにはいかないわ……!」
エメに手伝ってもらって、大急ぎで身嗜みを整える。
今日は森へピクニックに出かける予定なので、動きやすいようにワンピースにした。
シンプルなデザインながら可愛らしいシェルピンクのワンピースに、レナルド様から誕生日にいただいたブラックダイヤモンドのイヤリングとネックレスを着ける。髪はポニーテールにして黒いリボンを結んだ。
身嗜みを整えたわたしは、急いで2階のバルコニーへ向かった。
「おはようございます、レナルド様。お待たせして申し訳ございません」
わたしに気がついたレナルド様は、読んでいた本を閉じて淡く微笑んだ。
「おはよう、シュゼット。私が早く起きただけだから気にしなくて良い」
わたしがレナルド様の向かいの椅子に座ると、すぐに朝食が供された。
ジューシーな厚切りベーコンに、目玉焼き、新鮮なサラダに、舌触りの良いじゃがいもの冷製スープ。それにサクサクのクロワッサン。
公爵領の別荘のシェフは腕が良いので、シンプルな朝食がとてもおいしい。
眼前には澄んだ水をたたえた大きな湖と、湖を囲うように広がる青々とした森に、見上げれば白い入道雲を浮かべた夏空。
うつくしい風景の中でいただく食事は、より一層おいしく感じられた。
昨日のこともあって、わたしは緊張しながらレナルド様との食事を終えた。
朝食のあと、わたし達は別荘の裏側に広がる森の散策に出かけた。
わたしは白いレースのパラソルを差しながら、レナルド様のエスコートで森の小径を歩く。
わたし達の少し後ろには、エメと公爵家の護衛が数人付き従ってくれている。
小径の両脇には色とりどりの野の花が咲き乱れていた。素朴な小さい花をつけるそれらは、整えられた庭園の大輪の花とは違った趣があって可愛らしい。
しばらく道なりに歩くと、少し開けた場所に出た。
そこには大きな白いかさのキノコが円形状に生えていた。
「まあ! フェアリーサークルがありますわ! この森には妖精がいるのかしら?」
「これだけうつくしい森だ。いるのかもしれないな」
円形状に生えたキノコの輪はフェアリーサークルやフェアリーリングなどと呼ばれ、妖精の世界への入り口になっていると言われている。
よく見るとキノコの輪は1つだけではなく、あちらこちらにあった。
輪の中に入らないように避けながら進むと、妖精の導きだろうか、なんと青紫の実をたくさんつけたブルーベリーの茂みがあった。
「まあ! ブルーベリーですわ!」
青紫に熟した実を摘んで食べると、とても甘くておいしかった。
わたしはハンカチを広げると、そこに包める分だけブルーベリーの実を摘んだ。
再びレナルド様のエスコートで森の小径を進むと、今度は色とりどりの野の花が咲き乱れる花畑があらわれた。
「なんてうつくしいのかしら……!」
「これは素晴らしいな。せっかくだからここで昼食にしようか」
わたし達は木陰に敷きものを広げると、そこで昼食をとることにした。
エメと公爵家の護衛が持ってきてくれた大きなバスケットの中には、おいしそうな食べ物がたくさん詰まっていた。
サンドイッチは鴨のローストとレタス、サーモンとアボカドとクリームチーズ、たまごとベーコンとトマト。
果物はフランボワーズ、メロン、ミラベルに加えて、先ほど摘んだブルーベリー。
他に揚げものやサラダもある。
きらきらと輝く木漏れ日の下で、わたしとレナルド様は隣に座って昼食を一緒に食べた。
不思議なことに、朝食の時は緊張したにもかかわらず、今はとても穏やかな気持ちだった。
自然の中にいるせいかしら? あれほど悩んでいたことがなんだかとても小さなことに思えるわ。
こんな穏やかな時間が永遠に続けば良いのに。
そう思いながら、わたしはゆっくりと目を閉じた。




