第20話 シュゼットは、学園に入学する 2
リリアーヌ・バリエ男爵令嬢。
肩のあたりで切り揃えられたセミロングのストロベリーブロンドは緩くウェーブしており、アメジストの大きな瞳が可愛らしい少女だ。
可憐な外見に反して頭脳明晰で、時を遡る前と同じく、今回もクラス分けの試験で首席を取り、生徒会役員に抜擢されていた。
生徒会は1年生の時に書記と庶務を務めた者が3年生の時に生徒会長と副会長を務める。
リリアーヌも3年生に進級したら生徒会長か副会長になるのだろう。
この貴族ばかりの学園で最も低い身分の1つである男爵令嬢が生徒のトップである生徒会長や副会長を務めるのは極めて大変なことだろう。
ちなみに、今は王太子殿下と筆頭公爵家嫡子のレナルド様が在籍しているので、例外的に2年生の彼らが生徒会長と副会長を務めていた。
そんな事情があるせいか、リリアーヌはクラスでも少し浮いていた。
わたしも隣の席なので挨拶くらいはするけれど、それ以外は特に親しく話すことはない。
反対側の隣の席が友人のミレーヌなので、どうしてもそちらと話すことが多いからだ。
入学して1ヵ月近く経つし、そろそろ生徒会で王太子殿下やレナルド様と親しくなったのかしら?
お昼休み。
わたしはそんな疑問をレナルド様に尋ねてみることにした。
ちなみに、お昼も毎日レナルド様と一緒に学園のカフェテリアで食べている。
ご学友と一緒に過ごさなくても良いのか尋ねてみたけれど、「せっかく君がいるのになぜ?」と言われてしまった。
当初はミレーヌも一緒に誘ったけれど、「そこまで野暮ではないわ」とお断りされている。
そんなわけで、今日もわたしはレナルド様と2人で昼食を食べていた。
もちろん、時を遡る前は月に1度しか会っていなかったので、昼食も別々に食べていた。
わたしたちのいるカフェテリアの壁側の席は他の場所よりも一段高くなっており、衝立と植物の鉢植えでいくつかの区画に仕切られているので、1つの区画が個室のような雰囲気になっている。
食後の紅茶を飲みながら、わたしはレナルド様に切り出した。
「レナルド様、生徒会でリリアーヌ・バリエさんとご一緒されてみて、いかがですか?」
「『いかが』……とは? 優秀なので助かってはいるが、それは他の生徒も同じなので、取り立てて彼女がどうこうということはないな」
レナルド様から返ってきたのは、予想に反してひどく淡々とした答えだった。
もしかして、まだ今の時点では親しくなっていないのかしら?
時を遡る前はクラスが違ったので、リリアーヌがいつからレナルド様や王太子殿下と親しくなり始めたのか、正確な時期はわからなかった。
ただ、いつの間にか気がついたら3人が一緒にいるのをしばしば目にするようになり、収穫祭の時期にはもう完全にそうなっていた。
わたしはレナルド様の答えを聞いてほっとした。
レナルド様がリリアーヌに想いを寄せるまでは、まだわたしは彼の婚約者のままでいられるからだ。
わたしはもう1つ気になっていたことをレナルド様に尋ねた。
「そうですか。……では、どなたか婚約者のいらっしゃらない殿方で、良い方をご存知ありませんか?」
「……なぜ?」
わたしの問いに質問で返したレナルド様の声は硬く尖っていた。
間違っても「あなたと婚約を解消したあとのわたしの婚約者候補に」などとは言えない雰囲気だ。
「わたしの友人のミレーヌが婚約者を探しておりますの」
「ああ、彼女か。……あいにく、シャルルしか心当たりがないな」
「王太子殿下は、さすがに一貴族の令嬢の恋のお相手には恐れ多いですわ」
レナルド様はご学友にさして興味がないらしく、同じ生徒会役員の方々ですら、婚約者がいるかどうかを把握されていなかった。
レナルド様から良い殿方をご紹介いただければと思ったけれど、それは難しそうだ。
それにわたしはまだレナルド様の婚約者なのだから、彼への贖罪の1つのために良い婚約者でいなければならないわ。
レナルド様との婚約を解消するのが確定するまで、次の婚約者のことを考えるのはやめましょう。
レナルド様に対して不誠実なことをしてはならないわ。
レナルド様は今のところリリアーヌにも興味がないみたいだけれど、今後いつ想いを寄せ始めるかわからないから、気をつけてよく見ていなければならないわね。
わたしはそれが少しでも先になれば良いなと願っていたけれど、この数日後に早くも思いもかけない変化が起こった。
なんと、王太子殿下とリリアーヌが2人で一緒にカフェテリアで昼食を食べるようになったのだ。




