第19話 シュゼットは、学園に入学する
年が明けた4月。
わたしはリヴィエール王立学園に入学し、レナルド様は2年生に進級した。
リヴィエール王立学園は王侯貴族の子息子女が3年間通う学校だ。
入学時こそ学力別にクラスが分けられるけれど、入学後は学力よりも社交の方が重要視される。
大抵の貴族の子息子女は幼い頃から家庭教師がついて学んでおり、必要な学問は学園の入学までに学び終えている。
それにもかかわらず、全ての貴族の子息子女が学園に入学するのは、学園が卒業後の社交界デビューに備えた人脈を作る場になっているからだ。
時を遡る前と行動を変えたことにより、わたしとレナルド様の関係は大きく変わった。
それに伴い、わたしの学園生活も時を遡る前と大きく異なるものとなった。
その違いの1つが学園への通学方法だ。
王都のコルネイユ侯爵邸とベルクール公爵邸はいずれも貴族街の一等地にあるけれど、場所は学園を挟んだ反対側だ。
そのため、遠回りになってしまうにもかかわらず、レナルド様は毎朝コルネイユ侯爵邸に迎えに来てくださり、わたしは毎日ベルクール公爵家の馬車でレナルド様と一緒に学園に通っていた。
当初は遠回りになることを理由に遠慮したけれど、レナルド様が「帰りは生徒会活動で一緒にいられないから」とおっしゃったので、申し訳なく思いつつも、お言葉に甘えさせていただいている。
時を遡る前は月に1度しか会っていなかったので、もちろん学園も別々に通っていた。
「まあ、今日も着けてくださいましたの」
「君が贈ってくれたものだ。当然毎日着けるさ」
朝、コルネイユ侯爵邸に迎えに来てくださったベルクール公爵家の馬車に乗り込んだわたしは、今日もレナルド様の袖口にオレンジ色の輝きがあることに気がついた。
去る4月の最初の日はレナルド様のお誕生日だった。
わたしはレナルド様へのお誕生日の贈りものに、オレンジサファイアのカフスボタンを贈った。
とても喜んでくださったレナルド様は、それ以降、毎日身に着けてくださっている。
いずれ婚約を解消するのに、わたしの色のものを贈っても良いのかしら?
と少し迷ったけれど、レナルド様もご自分の色のものをくださったし、今はまだ婚約者だからと思い切って良かった。
それに、レナルド様がリリアーヌに想いを寄せるようになったら、婚約者の色のものは外されるだろうから、これは良い試金石になるのかもしれない。
そのことを思うとちくりと胸が痛んだけれど、わたしは努めて気にしないようにした。
♢♢♢
「では、また昼休みに」
学園に着くと、レナルド様はわたしを教室まで送ってくださってから、ご自身の教室に向かわれる。
それを見ていた隣の席のミレーヌが感心したように言った。
「ごきげんよう、シュゼット。相変わらず仲が良いわね」
「ごきげんよう、ミレーヌ。そんなことないわ。レナルド様が真面目なだけよ」
「そうかしら? 毎朝送ってくださるなんてよほどよ。しかも今日もあなたの瞳の色のカフスボタンを着けていらっしゃったじゃないの! あれ、あなたが贈ったものなのでしょう? 羨ましいわね! あーあ、わたしも早く婚約者を探さなくては」
わたしやレナルド様のような高位貴族は相変わらず政略結婚が多いけれど、それ以外の貴族は昨今少しずつ恋愛結婚も増えてきており、この学園が婚約者を探す場にもなっている。
「まだ入学して1ヵ月も経っていないではないの」
「甘いわよ、シュゼット! 良い殿方ほど早く婚約を決めてしまわれるものですもの! わたしも乗り遅れないようにしなくては!」
ミレーヌはそう力説した。
ミレーヌ・ボワイエ伯爵令嬢。
ブルネットにオリーブグリーンの瞳の大人びた外見に反して快活な性格で、隣の席ということもあって、入学後すぐに親しくなった。
時を遡る前は、わたしの隣の席はアニエス・オベール子爵令嬢だった。
入学後のクラス分けの試験は時を遡る前と同じ内容だったため、わたしは2つあるクラスのうちの成績優秀者の方になった。
そのため、アニエスとはクラスが別れてしまった。クラスが異なるので今回はアニエスとは親しくなれないのかもしれない。
けれど、その代わりにミレーヌと親しくなれた。
これも時を遡る前との違いの1つだ。
いずれレナルド様とは婚約を解消するし、わたしも今のうちに良い殿方を見繕っておいた方が良いのかしら?
そんなことを考えながらわたしが席に着くと、ミレーヌとは反対側の席から声をかけられた。
「おはようございます、コルネイユ様」
わたしは顔がひきつらないように気をつけながら、そちらに向かって挨拶を返す。
「……ごきげんよう、バリエさん」
そう、成績優秀者のクラスに配属された結果、なんとわたしはリリアーヌと隣の席になったのだった。




