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第18話 シュゼットは、収穫祭に行く 2

 果物飴を食べ終わったわたし達は再び手を繋いで歩き出した。


 西広場のバザーはひと回りし終えたので、今度は西商店街の方へと向かう。


 前に訪れた時とは異なり、商店街は華やかに装飾されていた。


 通り沿いの街灯を繋ぐように色とりどりの小さな旗が吊るされており、至るところに収穫祭を象徴する野菜や果物を盛ったかごが飾られている。


 商店街を行き交う人の数も前に訪れた時よりもはるかに多かったけれど、レナルド様がはぐれないようにしっかりと手を繋いでくださっていたので、安心して歩くことができた。


 華やかに彩られた賑やかな街を歩くのはとても楽しくて、あっという間に商店街の終点に着いてしまった。


 もうおしまいなのね。なんだか名残惜しいわ。


 そんなわたしの気持ちに気がついてくださったのか、レナルド様は


「西教会へ祈りに行こうか」


 と提案してくださった。


 以前の西教会は傷んだところが目についたけれど、わたしの寄付金を有効活用してくださったようで、目立つところの傷みは修繕されていた。


 祭壇には素朴な野の花と、収穫祭を象徴する野菜と果物を盛ったかごが飾られている。


 わたしとレナルド様は祭壇の前でしばしの間、祈りを捧げた。




「シュゼット、今日はありがとう。収穫祭を君と過ごせてとても楽しかった」


 別れ際にレナルド様は本日のお礼を口にされた。


「わたしもとても楽しかったですわ」

「来年もまた一緒に過ごそう」

「来年……」


 時を遡る前、今の時期には既に学園ではレナルド様と王太子殿下やリリアーヌが一緒にいるのをよく見かけるようになっていた。


「もし、その時にレナルド様のお気持ちがお変わりなければ」


 わたしは曖昧な返事しかできなかった。

 来年もレナルド様と一緒に過ごすのが楽しみなような、それが叶わないことがわかっているから淋しいような、そんな複雑な心境だったからだ。


「私の気持ちが変わることは絶対にない。だから来年も必ず一緒に過ごそう。約束だ」

「…………」


 叶わないとわかっている約束とは、なんて切ないものなのかしら。


 レナルド様は黙り込んだわたしの手を取ると、そっとそこに口付けを落とした。


「おやすみ。良い収穫祭の夜を」



 ♢♢♢



 その日の夜は久し振りに家族全員が揃って夕食を共にした。




 わたしは早めに部屋に戻ると、エメに下がってもらった。


 1人きりになった部屋でデスクの前に座り、日記帳の余白ページを開く。


 そこには時を遡ったことを知った日のわたしの考えが書きつけてあった。


 ・レナルド様とリリアーヌの仲を取り持ち、円満に婚約を解消して身を引く。

 ・それまでの間、レナルド様にとって良い婚約者でいる。


 それがわたしのレナルド様への贖罪だった。


 レナルド様に贖罪したい。


 今もその気持ちに変わりはない。


 けれど。


 レナルド様と一緒過ごす半年の間に、いつの間にかわたしの中に別の思いが芽生えていた。


 レナルド様と一緒に過ごすのはとても楽しくて、来年も彼と一緒に過ごしたいという思いが。


 わたしの話をきちんと聞いて相槌を打ってくださったり、歩くペースを合わせてくださったり、わたしの気持ちを汲んでくださったり。

 レナルド様の隣はとても居心地が良かった。


 前々から思ってはいたけれど、今日1日レナルド様と一緒に過ごしてみて、改めてそう感じた。


 今の彼とならきっと良い婚約者同士になれるだろうし、これからも上手くやっていけそうな気がする。


 それに、レナルド様もわたしのことを好ましく思ってくださっているようにも見受けられる。


 けれど。


 それは全てレナルド様がまだリリアーヌに出会っていないからだ。


 リリアーヌに出会えば、レナルド様は必ず彼女のことを好きになるはずだ。


 だって、時を遡る前は命懸けでリリアーヌのことを庇ったのですもの。


 そうなった時にわたしがこんな気持ちのままでいては、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。


 わたしは、なんとしてでもあの未来を変えなければならない。


 レナルド様やリリアーヌのためだけではなく、他ならぬわたし自身のためにも。


 そのために、時を遡る前と行動を変えてきたのだから。


 その結果、レナルド様と親しくなれたけれど、レナルド様の心変わりが淋しいだなんて思っては絶対にだめよ。


 レナルド様がリリアーヌを好きになることなんて、初めからわかっていたことではないの。


 わたしは必ずレナルド様とリリアーヌの仲を取り持って彼に贖罪してみせるわ。


 そして、あのみじめな最期を迎えた未来を変えるの。


 わたしは改めてそう誓うと、日記帳を静かに閉じた。



 ———芽生えた小さな恋心に気がつかないふりをして。

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