第17話 シュゼットは、収穫祭に行く
リヴィエール王国における収穫祭は、秋の収穫を神に感謝し、厳しい冬を越えられるように祈るお祭りで、毎年10月末日に行われる。
この日は祝日なので、学園や客商売以外の大抵の仕事はお休みだ。
貴族も平民も教会で祈りを捧げたあとは、バザーを巡ったり、夜は家族でご馳走を食べたりして過ごす。
収穫祭当日。
バザーの会場の西広場は準備の真っ最中で、活気に満ちあふれていた。
王都の近隣の農家が荷車に野菜や果物をたくさん載せて運んできていたり、王都の西地区の商店が加工食品や服飾品、雑貨等を広げている。
わたしが西教会に割り振られた区画に到着した時には、既に値札の貼られたジャムの瓶がきれいに並べられており、準備が済んでいた。
朝早くから神父様と孤児院の年長の子供達で準備をしてくれていたとのことだった。
次第に広場に人が集まり始めると、あちらこちらから客寄せの声が聞こえて来るようになった。
それと同時に西教会の区画の前にも人が集まりだし、やがて人々は自然と列を形成していく。
ジャムは大きいサイズの瓶から飛ぶように売れていった。
わたしと神父様はひたすらその対応に追われて、人波が途切れてひと息つく頃には、ジャムは残り5つになっていた。
「お疲れ様、シュゼット。私にも1つもらえるか?」
「まあ、レナルド様! ごきげんよう。お買い上げありがとうございます」
今日のレナルド様は裕福な平民のような簡素な服装だった。
「もしかして、そちらがお忍びの時の装いですの?」
「ああ、そうだ」
「もう少々お待ちくださいな。あと少しで売り切れますの」
「残りわずかですから、あとは私だけでも大丈夫ですよ。シュゼット様、本日はお手伝いくださいまして、ありがとうございました。良い収穫祭の夜をお過ごしください」
レナルド様がいらしたことに気がついた神父様がそう言ってくださったので、ありがたくお言葉に甘えさせていただくことにした。
「ありがとうございます。神父様も良い収穫祭の夜を」
「では、行こうか」
レナルド様が差し出した手を取ると、彼はわたしの手を握って歩き出した。
てっきりいつものエスコートだと思っていたわたしは驚いてしまった。
どきどきと大きく脈打つ胸の鼓動が繋いだ手から伝わってしまうのではないかとそわそわしてしまう。
わたしとレナルド様は手を繋いだまま、西広場のバザーを見て回る。
わたし達の少しあとからはレナルド様の従者や、エメ、ジャンが付き従ってくれている。
毎年訪れる東広場のバザーは貴族が多く訪れることもあり、売られているのは焼き菓子やワイン、アクセサリー等の貴族向けのものが多かった。
それに対して西広場では、野菜や果物、加工食品に服飾品、雑貨と色々なものが並べられているけれど、そのどれもが平民向けらしく、値段もかなり安かった。
広場にいるのもわたしとレナルド様を除けば平民ばかりのように見える。
それら全てがもの珍しくて、見ているだけでもとても楽しい。
「まあ、あれはなにかしら?」
前に訪れた時にアプリコット飴を購入した西広場の近くのお店の店先に、棒に刺さったものがたくさん並べられていた。
近づいてみると、リンゴ、ミカン、梨、ブドウといった果物が一口大に切られて棒に刺してあった。
つやつやとしているので、もしかしたらアプリコット飴と同じように水飴で包まれているのかもしれない。
「ああ、果物飴だな。アプリコットのシーズンが終わったから、違う果物に変わったのだろう」
「ずいぶんお詳しくていらっしゃいますのね。レナルド様もよくお忍びでいらっしゃいますの?」
「シャルルの付き添いでたまにな。……シュゼットはどれにする?」
「わたし、梨が食べてみたいです」
レナルド様は梨とリンゴを1つずつ購入されると、わたし達は噴水の前のベンチで座って食べることにした。
パリッとした飴の部分と梨のとろりとしたジューシーな食感の違いが楽しい。
ふと視線に気がついてレナルド様の方を見ると、微笑ましそうな目でわたしを見ていた。
「こちらも食べてみるか?」
レナルド様がわたしにリンゴ飴を差し出す。
「ですが……」
「構わない」
はしたないかしら?
と思ったけれど、誘惑に負けたわたしは差し出されたリンゴ飴をひと口いただいた。
リンゴ飴の方はシャリシャリした食感で、こちらもおいしかった。
「あら」
レナルド様はわたしがひと口いただいたリンゴ飴の続きをなにごともなかったかのように食べ始めた。
「どうかしたのか?」
「い、いえ、あの、リンゴもおいしいですわね」
「ああ」
今さらながら、レナルド様はお気になさらないのかしら?
と思ったけれど、レナルド様は全く気にした様子もなく、リンゴ飴を食べ続けている。
もしかして、今のレナルド様はわたしのことを好ましく思ってくださっていたりするのかしら?
梨飴を食べながら、ちらりとレナルド様の方を見ると視線に気づいた彼が淡く微笑んだ。
「……っ!」
そんな眼差しで見られたら、わたしのことを好ましく思ってくださっているのではないかと錯覚してしまいそうだわ。
わたしは恥ずかしさを誤魔化すために、残りの梨飴を慌てて食べた。




