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第15話 シュゼットは、買い出しに行く

 夏の暑さが落ち着いてきた9月の終わり頃。


 わたしは孤児院の庭で子供達とブラックベリーの収穫をしていた。


 孤児院の周りを囲むようにブラックベリーの木が植えられており、赤や黒の実がたわわに実っている。

 その中から黒く熟したものを選んで摘み取り、次々とかごに入れていく。


 孤児院の子供達や神父様、シスターも総出で収穫していくけれど、朝早くからお昼前まで作業をしても全体の半分ほどしか収穫できなかった。


 まだ熟していない実もあるので、最終的な量はもっと増えそうだ。


「凄い量ね。こんなに食べ切れるのかしら?」

「ジャムに加工した後、大半はバザーで売る予定なのです」 


 ブラックベリーがいっぱいに入ったかごを前にして驚くわたしに、ベルニエ神父様は言った。


 神父様によると、毎年10月末の収穫祭のバザーで販売しており、孤児院の貴重な現金収入になっているのだとか。

 ジャムに使う砂糖が高価だったり、ジャムを詰めるガラス瓶がたくさん必要だったりと、経費もそれなりにかかるけれど、その分を上乗せしても飛ぶように売れるとのこと。

 王都には比較的裕福な平民が多いからだろう。


 午後からは子供達とシスターはブラックベリーの収穫の続き、神父様は砂糖とジャムを入れるガラス瓶の買い出しに行くという。


 王都の西部を出歩いたことがなかったわたしは、神父様に同行させていただくことにした。


 孤児院で子供達と一緒にパンと野菜スープの昼食をいただいたあと、神父様とわたしとエメ、護衛のジャンは街の商店街へと向かった。


 平民街は貴族街よりも道が狭く、馬車だと移動しにくいため、わたし達は歩いて向かう。


 エメや護衛のジャンは渋い顔をしていたけれど、初めての経験にわたしはわくわくしていた。


 孤児院から歩いて10分もしないうちに、両側にお店が建ち並ぶ大きな通りに出た。

 通りは行き交う人々でとても賑わっていた。


「こちらが西商店街です。まずはジャムを入れるガラス瓶の調達にまいりましょうか」


 そう言って神父様が入ったのは、鍋の絵が描かれた看板を掲げたお店だった。


 お店の棚には鍋や皿、ガラスや金属でできたキャニスター等の生活雑貨がところ狭しと並んでいる。


「こんにちは。収穫祭のガラス瓶をいただきに来たのですが、今どれくらいありますか?」


 神父様は店の奥に座って新聞を読んでいた強面の壮年男性に声をかけた。

 神父様の声かけに気がついた強面の男性は新聞から顔を上げると、相好を崩した。


「よお、神父様。今年は今のところ70くらいだな。今あるだけ持って行こうか?」

「ええ、お願いします」

「わたった! 店じまいしたら届けるな!」


 こちらは古物の生活雑貨の売買をするお店で、収穫祭で売るジャムを入れるガラス瓶を買い集めてくれているとのことだった。それが知られているため、収穫祭でジャムを買った人は食べ終わった後、大体こちらに売りにきているという。

 それ以外にも手頃な大きさのものがあれば取り置きしておいてくれるらしく、そうして1年かけて中古のガラス瓶を集めて、収穫祭の時にまとめて格安で購入しているとのことだった。


 次は数軒隣の調味料を扱うお店で砂糖を購入した。


 これで本日の買い出しは終了だ。


「シュゼット様はこちらにおいでになるのは初めてでしょうから、もしお時間がありましたら、商店街を見ていかれますか? 私でよろしければ、ご案内いたしますよ」

「まぁ、よろしいのですか? 是非!」


 神父様のご厚意にわたしはありがたく甘えさせていただくことにした。


「では、この商店街は西広場まで続いていますから、そちらまで行ってみましょうか」

「はい!」


 神父様に案内をしていただきながら、賑やかな通りを歩く。


 野菜や果物、パン、お肉、服や雑貨、色んなものが売っていて、しかも活気があって賑やかで、見ているだけでも楽しい。


「あら、あれは何かしら?」


 西広場まであと少しというところで、わたしはあるものに目を留める。


 つやつやしたオレンジ色の小さな丸いものが棒に刺さってたくさん店先に並べられていた。


「ああ、あれはアプリコット飴ですね。アプリコットを水飴で包んだものになります。庶民の定番のおやつの1つですよ」

「まあ!」


 神父様の説明に興味を惹かれたわたしは、エメに人数分買って来てもらった。


 目の前の西広場の噴水前にあるベンチで座って食べようと、そちらへ向かって歩き始めたその時。


「シュゼット……っ!!」


 聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り返ると、肩で息をしているレナルド様がいた。


「まあ、レナルド様? このようなところでどうなさいましたの?」


 レナルド様は学園の制服姿だった。

 生徒は王侯貴族しかいないので、リヴィエール王立学園は王城に近い貴族街にある。


 どうして平民街にいらっしゃるのだろう?


「……っ、君こそ、そんなかっこうでどうしてこんなところにいる? それに、そちらは?」


 孤児院に慈善活動に行く時は動きやすいように、平民が着るようなシンプルなワンピースを着ている。今日も黄色のワンピースだ。


 ちなみに神父様も朝からブラックベリーの収穫作業に参加されていたので、いつもの神父服ではない。

 神父様のことを知らなければ、神父だとはわからないかもしれない。


 レナルド様はなぜか厳しい眼差しを神父様に向けている。


「こちらは西教会のフロラン・ベルニエ神父様ですわ。本日は収穫祭の買い出しにまいりましたの」

「神父……そうか」


 レナルド様の神父様を見る眼差しがいくらか和らいだけれど、発する声は硬かった。


「ベルニエ神父殿。私はシュゼットの婚約者のレナルド・ベルクールだ。私の婚約者がいつもお世話になっている。とても大切な婚約者だ。くれぐれもよろしく頼む」

「かしこまりました。こちらこそシュゼット様にはいつも大変お世話になっておりまして、誠にありがたい限りでございます」


 神父様はにこやかに応じるけれど、レナルド様の態度は声と同じく硬いままで、気まずい沈黙が訪れた。


 なにか話した方が良いかしら? と思ったその時。


「レナルド!」


 どなたか別の人物がレナルド様を呼ぶ声が沈黙を破った。


「全く、俺を置いていくなんて!」


 レナルド様の後ろから駆け寄った人物は呆れたようにそう言って、レナルド様の肩にぽんと気安く手を置いた。


「……シャルル」


 レナルド様の後ろから現れた人物はレナルド様と同じ学園の制服を身に着けており、帽子を目深に被っていた。


 レナルド様はその人物を「シャルル」と呼んだ。 ということは、まさかこのお方は……。


「おっ、王……っ!」


 王太子殿下。


 そう声を上げかけたけれど、その人物が口元に人差し指を当てたジェスチャーをしたので、慌てて続きの言葉を飲み込んだ。

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