王宮
蜜月のような優しい時間も終わりを告げた。
殿下は王宮に戻り私たちの婚約が発表された。
私は王宮で教育を受けるためまた子どもの頃のように毎日王宮に向かっている。
スリザリン家は私を誘拐したこととグレイ家へのこれまでの行いについて罪を認めた。
両家の間で話し合いが持たれ多額の賠償金などで手が打たれた。
私が誘拐された日、殿下がスリザリン家にいたことは故意ではないので王宮からのお咎めはなしだった。
スリザリン公爵はまだ体調は優れないようだが私に対しても個人的な謝罪をくれた。
殿下はこのスリザリン家にこれまでの研究成果についてもっと話を聞きたいと言われ共同研究を始めたそうだ。
私たちが見た通り白蛇様はまだグレイ家の森にいるだろう。
スリザリン家は白蛇様に戻って欲しいようだった。
殿下は白蛇様の移動は森の開拓が影響しているのではないかと研究者を含め調査を進めているようだ。
そのため、とにかく今はお互いに忙しかった。
王妃になるための教育は伸び伸びしたグレイ家の教育とは異なり厳格で戸惑った。
前世の厳しい先生の数学の授業といった感じで気が抜けない。
授業が終わり帰ろうと廊下を歩いているときクォーツ殿下とすれ違った。
「あ…どうも。」
「…クォーツ殿下、お会いできて光栄です。」
私は丁寧に挨拶をした。
王宮ではまだクォーツ殿下を皇太子にというピーター公爵の思惑が水面下で動いている。
食虫の噂そのものはオリヴィア様がお茶会で大々的に否定してくれたことで収まってきている。
「私は虫など食べさせられておりません。
あれは虫の形をした別の料理です。」
「そんなわけありませんわ!」
「絶対に虫を食べさせられそうになりました!」
「あら、では皆様は一口でもお食べになったの?」
「それは…」
「あれは殿下のいたずらです。
アリア様以外と結婚したくないために皆様にいじわるをしただけです。
食べたらただのお菓子でしたわ。」
「そんな…」
どうしてここまで詳細に会話を知っているかというと目の前で見ていたからである。
オリヴィアが開いたスリザリン家のお茶会で私はピーター公爵令嬢たちに虫を食べて手に入れた結婚だと遠回しに責められていた。
エマ様だけは若干そうまでした私を称える様子もあったが、私はさすがに虫は食べていない。
その場でオリヴィア様が否定してくれたのだ。
オリヴィア様は秘密がなくなり令嬢としてではなく夫人としてお茶会に出席していた。
それ以上ピーター公爵も悪評を広められなくなったのだがやはり水面下での動きは消えそうにない。
子どもではあるが何となくクォーツ殿下を私は警戒していた。
「アリア嬢、ちょっとこっちに。」
私より年下の12歳のはずだが力強く手を引かれる。
かなり筋肉質で12歳なのにがっしりとしていた。
ガサツな感じがちょっとにジャック兄様に似ている。
グイグイと引っ張られてついた場所は前世の博物館のような場所だった。
美しい虫の標本がずらりと並べられている。
「ここは…」
「アリア部屋!」
そのあとクォーツ殿下が教えてくださったことに卒倒しそうになった。
何とこの大量な虫たちは私が昔コバルト殿下にプレゼントしたものらしい。
よく見ればみんな見覚えがあった。
奥にあのクサイ古い方の蛇の抜け殻もしっかりと密閉されて保管されている。
自然と顔が赤くなった。
「全部、兄様が研究して調べたんだ!」
自分のことのように自慢しながらクォーツ王子はコバルト殿下が作ったひとつひとつの説明を見せてくれた。
私は何だか泣きそうになっていた。
ここは私の母の部屋と同じだと思った。
父が狩ってきた動物の毛皮を一番良い形に加工して部屋中に飾っている。
ぶつけられた愛情を受け取ってくれた証拠なのだ。
嬉しすぎて震えてしまった。
6歳までのとんでもないアリアの黒歴史が美しいものに昇華されてしまったようだった。




