蜜月
スリザリン領を調べていた父と兄が私を助けてくれた。
心配してくれたようだったがベットの上でコバルト殿下に抱きしめられた私を見て兄は「心配して損した…」と言った。
本当はずっと抱きしめられていることが気になっていたが嬉しかったのでそのままにしていた。
私が一緒にいたいと告白したことへの答えだと思った。
父は顔で「心配して損した…」と表していたが口には出さなかった。
結局ことのあらましをオリヴィアが説明してくれた。
儀式は無事に済んだがスリザリン公爵は眠ったままだということだった。
契約が途切れている間、命を一方的に神に奪われている状態だったらしい。
あの気持ち悪い態度も正気を失っていたからだろうか。
私たちはそのままグレイ家へ連れ帰られた。
王宮ではコバルト殿下が突然いなくなったことで騒がれていたらしい。
しかし殿下は危険がないか調べるまでは王宮に戻れないということになった。
あの抜け殻のせいなので問題ないはずなのに、王宮内に危険がないか徹底的に調べるらしい。
コバルト殿下を追い出したい貴族の嫌がらせかも知れないと父が言った。
コバルト殿下の悪評に乗じてピーター公爵がクォーツ第二王子を皇太子にと推薦したらしい。
ピーター家の血族に当たるクォーツ殿下を台頭させるべく動き出したそうだ。
そのためにコバルト殿下が王宮にいない方が良いのだろう。
少し嫌な気持ちになったが父と兄はあまり気にしていないようだった。
ではしばらく家にいればいいとあっさりと殿下を迎え入れた。
というわけで私は今コバルト殿下と毎日一緒にいた。
殿下は仕事も禁止されているらしく何もすることがないらしい。
私も殿下がいる間は勉強はせずただ殿下と一緒にいた。
「子どもの頃に戻ったみたいだ。」
殿下は毎日嬉しそうに笑っていた。
私はそれを見てこんなにかっこよくていいのだろうかと毎日思っていた。
「コバルト殿下と結婚しなさい。」
父にそう言われたとき公爵令嬢は他に残っていないのだから当然だと思った。
「…よかったな。」
私の隠しきれない喜びを感じ取ったのだろう父は呆れ半分優しさ半分で微笑んでいた。
両陛下も私が婚約者だと認めてくださったらしい。
婚約者としても認められ、殿下にも共にいたいと告白した。
殿下も私をずっと抱きしめてくれていた。
想いが通じ合っているのだと私は嬉しくてたまらなかった。
前世でも一度も恋人ができたことはなく初めての恋人。
その上結婚する相手がこんなに素敵な人でいいのだろうか。
最初は緊張したけど毎日顔を合わせているとそばにいるのが自然になった。
その日、外が雨だったので私たちは私専用の青色の客間で本を読んでいた。
扉も閉めて誰の目もないのでふたりともソファの上ですっかりだらけ切っている。
「神隠しをきっかけに結婚した夫婦がいるんだね…。」
殿下はグレイ領の神隠し体験談みたいな本を読んでいた。
私は殿下の読んでいる本を覗き込む。
「はい。そうみたいです。
もしあのまま帰っていたら事故に合うはずだったとか神様に助けられたという人も多いのだそうです。
それにその本、最後にお父様の体験談も載っているんですよ。
お兄様が生まれる時で…」
殿下の顔を見たら思ったより近くに顔があった。
少し赤い。
「あ、近づき過ぎました!」
慌てて離れようとしたら殿下に腕を取られた。
抱きしめるように身体を寄せられる。
「アリア、キスしていい?」
間近で青色の瞳が私を覗き込んでいる。
一気に顔に熱がたまる。
「…はい。」
もちろん良いのでそういうしかない。
目をぎゅっと瞑った。
殿下は私の腕を掴んだ手に力を入れたが中々近づいてこない。
こっそり目を開けると殿下と目があった。
真っ赤になって緊張しているようだった。
胸がぎゅうっとなった。
いたずら心で私から口付けた。
「っ!」
殿下は少しだけムッとした顔をして私を抱き寄せる。
「誰かとキスしたことあるの?」
「な、ないです!」
「前世でも?」
「はい」
そういうと殿下はちょっと赤くなって嬉しそうな顔をクッションで隠した。
私はとにかく嬉しくてずっと笑っていた。
雨上がり私と殿下は外に出た。
子どもの頃の私たちは雨上がりに遊ぶのが大好きだったからだ。
葉っぱの下にいる虫を探すのだ。
「昔アリアがくれた水たまりがある。
空が映ってるね。」
そう言われて私は昔、水たまりに映った青空を殿下にあげようとしたことを思い出した。
青空は取れないのだがそれを掬おうとして滑った私を助けて殿下が転んだのだ。
「あ、あの時は本当に…」
「今度は掬えるかな。」
いたずらっぽい顔をして殿下が歩き出した。
「ブル様!」
いじわるをいわれていたのでちょっと押したらブル様がそのままズルっと足を滑らせた。
「え!」
私は支えようとしたがそのまま一緒に足を取られて水溜りに尻餅をついた。
殿下はほぼ顔から落ちたので頭から茶色い水でびしょびしょになった。
私は呆気にとられていたが殿下がふはっと吹き出した。
「すごい、子どもの時よりひどい」
私もなんだか面白くなってくる。
「ブル様、ふ、茶色いっ。
お兄様みたい…!」
また吹き出したブル様がお腹を抱えて笑い出した。
「ブル様はやめてブラウン様って呼ぶ?」
「ふっ、ふふふ」
「あは、ははは」
私たちは大爆笑していた。
息が止まるくらい泥水の中で笑いあった。
何事かと出てきた父を見て我に返ったが、ため息をつかれ「明日からは汚れていい服を着るように」と言われた。




