スリザリン公爵家 2
倒れてしまったアリアに気づきオリヴィアは慌てて部屋を用意し運び入れた。
運び込まれて数分でアリアが目を覚ました。
「ここは…」
「アリア、良かった!」
僕はアリアを強く抱きしめた。
「く、臭…くない」
クンクンとアリアが僕の首に顔を寄せた。
緊張で我に返ったが、それでも離す気にはなれなかった。
「コバルト殿下…」
入口脇にオリヴィアが立っていた。
「アリア様、お願いですから…あの人と結婚してください。」
オリヴィアが頭を下げると白い髪がさらさらと流れ落ちた。
僕はアリアを抱きしめる手の力を強めた。
「あ、あの…嫌です。」
「っ! ダメなんです!
あなたと結婚しないとアダムは死んでしまうんです!」
「な、何のお話なのですか?」
アリアが怯えたように呟く。
オリヴィアはハッとした顔をし焦りを抑えたように見えた。
「スリザリン家と白蛇様の契約です。」
そこで切ってオリヴィアが息を吐く。
「この地を守っていただく代わりに白蛇様に愛を捧げねばならないのです。
脱皮のたびに変わるお心は自身の衣を拾った白い髪の乙女を愛します。
スリザリン家の当主は白蛇様と一体化し選ばれた者を伴侶にします。」
そこでグッと息を飲んだ。
「夫婦の愛を捧げることができなければ白蛇様のお心は歪み当主を呪い殺すのです。
アダムはこのままではもうすぐ死んでしまいます。」
一息で話し目に涙を溜めていた。
「…私が抜け殻を拾ってしまったからですか?」
オリヴィアは少し唇を噛み頷いた。
「本来であれば必ず加護のあるスリザリン領の森にて脱皮をしておりました。
当主の妻である白い髪の乙女が他のものが拾わぬよう探しに行くのです。
しかし8年前、なんらかの原因で白蛇様が消えてしまったのです。
スリザリン領には不幸が続き白蛇様のご加護がなくなったことが分かりました。」
スリザリン家ではご子息を立て続けに亡くしている。
「私が最初に抜け殻を拾ったのは8年前です。
なぜ8年間何もなかったのでしょうか。」
「…おそらく、白蛇様は動けなかったのだと思います。」
そこでピンときた。
僕はあの蛇の抜け殻をアリアのプレゼントとして調べていた。
「…そうか。あの蛇は大きな怪我を負っていた。」
色は白いが血に似た成分が染み込んでいた。
あのニオイは腐敗臭だと分かっていた。
「はい。我々も殿下の研究で初めて知りました…。」
「…私は庭で抜け殻を拾いました。」
「はい。蛇神様がグレイ家の森にいることは調べで分かっていました。
グレイ家に奪われたと考えどうにか取り返そうとしましたが時は既に遅かった。
アリア様に儀式をして頂きご加護を取り戻すしかないのです。」
僕はアリアを抱きしめる腕に力を込めた。
アリアは何か考えているようだった。
「儀式というのは先ほどの?」
「はい。乙女が名前を呼び共に生きると誓うことです。」
(私はブル様と共に生きたいです!)
先ほどのアリアの言葉が浮かんだ。
アリアはまだ僕のことが好きなのだと思った。
「…アリアは僕に誓った。僕と儀式をしたのか?」
なぜか期待する気持ちになる。
得体のしれないものでも僕らの間に何かが結ばれたのなら嬉しかった。
アリアと結婚することはもう決まっていたが形があれば嬉しかった。
瞬間移動というありえない体験をして信じる気になっていた。
「…分かりません。
スリザリン家の当主は長年抜け殻に自分の血を染み込ませ蛇神様と一つになります。
コバルト殿下が白蛇様と一体化しているとは思えません。」
オリヴィアがフルフルと首を振る。
「あの…これまで白い髪以外の者が拾うことはなかったのですか?」
「過去にはありましたが…。」
「その場合はどうしたのですか?」
「拾った者よりも白い髪をした乙女が身に着け儀式をすれば伴侶が変わったそうです。
しかし先ほど殿下がお持ちだった抜け殻を使って儀式を行いましたが伴侶は変わりませんでした。」
それであの悪臭がなかったのかと思った。
突然アリアがごそごそと自分のドレスの前を開き始めた。
「アリア?!」
慌てる僕をよそにアリアの胸元からポンっと白い抜け殻が取り出された。
「それは?!」
「この間、森で拾ったのです。これは新しい脱皮の皮ですよね?」
オリヴィアは驚愕した顔ではっきりと頷いた。
「これを差し上げます。」
「いいのですか?!」
「はい。だから早くオリヴィア様が公爵と儀式をして下さい。」
「あ、ありがとうございます!」
ぽかんとしている僕を置き去りにして白い抜け殻を受け取ったオリヴィアは泣きながら走って部屋を飛び出していった。
「契約って…父親と結婚するのか?」
「おそらくあの方は後妻様だと思います。」
「え?」
「公爵のことをアダムと呼んでいましたし…」
確かにあの態度は娘から父へというより愛する者に向けた眼差しだった。
「…貴族の子どもは一般的にあまり外に出ませんから娘が生まれたということにしたのでしょう。
思えば私が幼い頃に見た後妻様にあまりに似過ぎています。
もしかしたら若さも白蛇様のご加護なのかもしれませんね。」
あっさりと解決したという顔をしているアリアに驚く。
僕の腕の中にすっぽり収まったまま、ふーと息を吐いていた。
「アリアは…こんなことをすぐに受け止められてすごいな…」
「私、前世でファンタジー小説が大好きだったので…
こういうのは大体抜け道があるのです。」
アリアはふんわりと嬉しそうに笑った。
「アリア…」
その口にキスをしようとした瞬間ドンっという大きな音が響いた。
多数の馬の蹄の音と大人数の足音。
「アリアをどこにやった?!」
ジャックの大きな声が聞こえた。




