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スリザリン公爵家

「アリア…」


 いつの間にか眠っていたらしく誰かが私を揺さぶっていた。

 目を開けるとなぜかスリザリン公爵が目の前にいた。


 「アリア…」


 なぜか慈愛に満ちた表情で私を見つめている。

 馬車の中ではなくどこかの広間にいた。

 広く真っ白な空間。これはスリザリン公爵家でパーティが行われていた広間だと思った。

 幼い頃、一度だけ訪れたことがある。

 あの頃は後妻であるオリヴィア様のお母様スリザリン公爵夫人がお元気で大きなパーティが開かれたのだ。

 今の私は縛られているわけでもなくただ床に転がっていた。


 「スリザリン公爵…」


 慌てて身を起こし公爵の手を振り払った。

 公爵はオリヴィアと同じ紫色の瞳で私を見つめていた。

 以前見た時より随分と老け込んで見えた。

 頬はこけ顔に生気がなく青黒いクマが目立つ。

 痛みきった白い髪でさながら亡霊のようだった。


 「アリア、私のことを愛しているだろう?」


 突然の発言にパチパチと目を瞬かせた。

 またゾワっと背筋が寒くなったのが分かった。


 「全く愛しておりません。」


 スリザリン公爵は嬉しそうに笑った。


 「そうか、愛しているか。」


 「全然愛してません!」


 「そうかそうか」


 ニヤニヤと笑っている。

 逃げようと思った。

 一目散に走り出したが扉を開けることができない。


 「ここはまだ白蛇様の加護が残っている。出ることはできない。」


 どうしよう、と思った。


 「君さえここにいれば我が領は救われる。私を愛するのだ。」


 「無理です無理です無理です」


 スリザリン公爵と話すのはほぼ初めてだった。

 頭がおかしいおじさんなんだ…。

 だんだん近づいてくるのが怖い。


 「我々と共に生きよう。私の名を呼べ。」


 この人の名前知らない! 


 「嫌です!」


 「伴侶の儀式だ。私の名前を…。」


 「ブル様!」


 私は大きな声で叫んだ。


 「私はブル様と共に生きたいです!」


 私が叫ぶと後方に突然ブル様が現れた。


 「え…アリア?」


 幻かと思った。

 それでもいい。

 反射的に走ってブル様に飛びついた。


 「クサイ!」


 が、ブル様からの悪臭でつい叫んでしまった。


 「…」


 ブル様は漫画で言うところのガーンという顔をしていた。

 ブル様の手には白い蛇の抜け殻が握られていた。


 「…ばかな。」


 スリザリン公爵がそのまま大きな音を立てて倒れた。


 「アダム!」


 あまりにもよく分からない展開にぽかーんとしていると先ほどまで開かなかった扉がバンッと勢いよく開きオリヴィア様が飛び出してきた。

 そのまま走って膝に床をつきスリザリン公爵を抱き起こした。


 「う…」


 「アダム!」


 その時私はスリザリン公爵はアダムというのか…と思った。


 「アリア…」


 呆気にとられて見つめていると後ろからふわりと抱きしめられた。


 「ブル様…」


 ドキッと胸が高鳴ったが、やっぱり尋常じゃないくらいにクサイ。

 もう一度強く抱きしめられた時、クサすぎて失神した。


 「アリア?!」




******

 

 僕の悪評が広まったことですぐに両陛下に呼び出された。

 ふたりは事の詳細を執事に聞いてどうやらもう知っているらしい。


 「私は排除しろではなく選べと言ったのだがな…」


 父は怒っているのだか呆れているのだか分からなかった。


 「とにかくアリア嬢に決めたことは分かったわ…」


 母はもうかなり諦めていた。

 もともとアリア部屋を作った時点で母はかなり呆れているのだ。


 「選べといえばすぐに選ぶと思ったのに…」


 「…」


 僕は黙っているしかなかった。


 「これから王になるにはお前の行動はあまりに軽率だが…」


 「恋愛とはそういうものよね…」


 「申し訳ありません。」


 王宮の一大スキャンダルにされてしまったので謝罪する他ない。

 両親は心底呆れていたがもう何も言わなかった。


 噂が広まっている間、外への外出が禁止になった。

 もちろん研究にも行けない。

 アリアに連絡を取りたいがそれも禁止されていた。


 どうしようもない僕は筋トレをするしかなかった。

 アリアにもらったプレゼントの中で腕立てをする。


 突然悪臭が漂ってきた。


 驚いて腕立てをやめると白い蛇の抜け殻が宙を舞っていた。


 「私はブル様と共に生きたいです!」


 アリアの声が聞こえ白い抜け殻をつかんだ。

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