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殿下の悪評

 グレイ家では神隠しの謎を解くべく調査が行われていた。

 これまで神隠しは神のいたずらで少し道に迷うだけのものだった。


 しかし私たちは襲われた。

 父は神からの警告かもしれないと神妙な面持ちだった。

 さらに神が白い蛇の姿だったことでスリザリン家に関わることではないかと言われた。

 私は知らなかったが、ここ数年、水面下でスリザリン家からグレイ家へ度重なる侵攻があったようだ。

 グレイ公爵の失脚を狙っているというのがもっぱらの噂だった。


 スリザリン家では子どもの命が長続きせず家を継ぐはずだった長男も次男もここ10年以内に立て続けに亡くなった。

 後妻であるオリヴィアによく似た公爵夫人は原因不明の病に悩まされている。

 その度重なる不幸をグレイ家の土地や利権を奪い取れば解消できると言っているかのようだった。

 公爵家同士、よほどの理由がなければ攻撃など国を傾けるだけなのだが。


 白い蛇、かぁ。

 その事実を知りアリアはオリヴィアを殿下に薦めたことが不安になった。

 街で起こる暴動や強奪についてスリザリン家が裏で糸を引いているなど知らなかったのだ。

 明確な証拠がないため追求できていないが何年も被害が続いているそうだ。

 スリザリン家の意図がわからない以上コバルト殿下にとって幸せな結婚になるのか分からなかった。


 幸いコバルト殿下はまだ婚約発表を行っていない。

 コバルト殿下の女性嫌いは有名だったらしく両陛下が


 「お相手の選択をコバルト殿下に任せる」


 と発表した時点で時間がかかるだろうというのが多くの見立てであった。


 ここ数日、「スリザリン家のオリヴィア様が毎日城に呼ばれている」

 との情報があり婚約者として有力ではないかと噂され始めていた。

 自分で薦めた癖にアリアは胸がきゅうと痛むのを感じた。

 

 切なくなったのもつかの間、突然コバルト殿下について悪い噂が囁かれ始めた。

 使用人を虐待している、女性嫌いは仮の姿で女癖が悪い、グレイ家の誕生日パーティで破天荒な振る舞いをした、弟のクォーツ殿下の命を狙っている、虫を集めているがそれは食べるためだ、など…荒唐無稽なものばかりだが殿下を陥れる噂だ。


 ほとんど一蹴されていたがなぜか虫関連のものだけは本当ではないかと言われ始めた。

 そしてそれを決定的にしたのはオリヴィアだった。


 「虫を使い手に怪我を負わされ、城に行くだび虫料理を出された」


 とオリヴィアが発言したのだ。

 また同様かそれ以上の発言をピーター家の3姉妹もしたことから噂は本当なのだと大きく広がり始めた。

 庶民の間で愛読される新聞でも大々的に取り上げられ(クモのからあげのイラストまで載っていたらしい)王族の一大スキャンダルという位置付けで広められた。

 「食虫王子」と呼ばれるようになっていった。


 とにかく本当のことを聞きたかったが私以外の公爵令嬢はみんなコバルト殿下からの仕打ちで心を病み休養しているとのことだった。

 虫関連だったこともあり、また私のせいなのではないかと不安に襲われていた。

 このことについて父か兄に聞きたかったがふたりは神隠し事件のことでスリザリン領に向かっており会うことができていない。

 飛び出して王宮に向かいたい気持ちになるがなんとか思い止まる。

 コバルト殿下を罠にはめようとする人物が他の公爵令嬢と同じように私にも何かするかもしれないからだ。

 


 何もできないのでコバルト殿下とふたりで話した森の庭で神隠しに関する本でも読もうと思った。

 読み進めるがこれと言って新しい情報はない。

 ふと顔を上げると木々が不穏に揺れている気がした。

 途端、空気が変わる。

 背筋が急にゾッとして背後を振り返ると柵の向こう木々の間で白い蛇が私をじっと見つめていた。

 これがコバルト殿下がおっしゃっていた蛇だろうか。


 (我が伴侶よ。なぜ我が元に来ない。)


 声というより地面を伝って這ってくる音だった。


 「何」


 白い蛇がゆっくりと私に近づく。


 (伴侶の証、我が衣をどこへ?)


 スピードを上げて私に向かって飛んでくるがパンっと何かに弾かれた。

 どうやらグレイ家の城内には入って来られないようだ。


 「チッ」


 白い蛇は舌打ちをして姿を消した。

 心臓がばくばくと音を立てていた。

 私はなぜかこの時、唐突にピンと全てが繋がっていた。

 我が衣って多分あの抜け殻のことだ!

 


 このことを父にすぐ報告しようと思った矢先「王宮に来るように」という父からの使いが来た。

 父はいつの間に王宮に向かったのだろう。

 私は慌てて身支度を整え使いが用意した馬車に飛び乗った。


 念のため神隠しの時に拾った白い抜け殻を折りたたみ懐に隠しておいた。

 これが幼い頃拾ったものほど臭くなくてよかった。

 王宮に向かう道すがらあまりにも心配事が多く何を祈ればいいのか分からなかった。


 外を見る余裕がなかった私は気が付いていなかった。


 馬車は王宮ではなくスリザリン公爵の城に向かっていた。


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