師匠と弟子……?
時間を戻した。ちょうど目の前に剣が刺さった。いや怖い……。もう少し前に移動してから戻してたら、私に刺さってただろう。
転移魔法なら使えるし、言い訳はできる……はず。
「…………転移の極意が何か知っていますか?」
知るわけないし何ですか急に。
「転移というのは極端にいえば、その場とその場の距離を、0にしているのです。ある種の闇魔法。虚の魔法。空の法術です」
あー、はい。全くもってわかりません。
でも虚の魔法は聞いたことがある。空の法術と類義語なのだろう。確か、ケイオスの系統の法術が空の法術と言った気がした。
「さて、空が何を示すかわかりますか?」
知らんがな。0じゃないんですか。
最近もう考えるのがバカらしくなってきた。
理解不能な人生と能力を持つ鬼灯といい、どうあがいても化け物でしかない師匠といい……。
考える方が大変なのだ。それに戦闘の最中、あれを理解しようとするのは無理だ。
「私個人の意見となりますが、空というのは〝無駄〟です。意味のない、空白です」
法術見解は毎度の如く意見が分かれる。それは、一言で言えば、法術の理解の仕方は千差万別十人十色。
私も法術については他人の意見が理解できない。というか、実現できないし、実験もできないのだ。
法術とは、その人を表す鏡なのだ。
でも、なぜか私と師匠の意見は似通っている。それはあれか、法術がタロットカードから生まれたからか。
「転移を使いこなせるということは、時間を止めることができる、ということと同義になります。もちろん、一個人の一意見にすぎませんが、私から見て、ゆかり。あなたは、時間を止める能力、もしくはそれに追随する何かがあると、そう踏んでいます」
さっきのことでわかったが、時間停止能力を持ってようが、先に使ったもん勝ちで、鬼灯のように能力を無効化できなければ、時間停止には割り込めないのだ。
鬼灯は、多分この世界で唯一、時空神たちを除いて時間停止空間に侵入できる人間だ。
いつも、唐突だ。
クルリと。暇つぶしと見せかけて、剣を私個人が最も振りやすい持ち方にする。正統派剣術がどうとか、乙鳥流がどうとか、私には一切関係ない。
ただ、勝てればそれでいい。目的が果たせれば、それでいい。相手を満足させれば、それで……ん? それは良くない。痴漢野朗を満足させてよかったなんて、どこのクッッッソドMだよ。
乙鳥流の剣士として開祖である征妹に師範代となって欲しいと言われた。
曰く、もう乙鳥流を継いでくれる人間が、私しかいないそうだ。鬼灯はどうしても乙鳥流が合わないため、無理らしい。
私も、無理だ。
いや、問題も何もない。でも、私の剣は、教える剣でも、魅せる剣でもないのだ。誰かを幸せにするために、誰かを不幸にする剣。
全てを救うことのできる剣では、ないのだ。
乙鳥流は幸せの剣技。
誰かを、敵も味方も、仲良く円満に終わらせる、剣技。どうしようもなくなった者を切り捨て、次代へと紡ぐ剣技。
私は正真正銘、殺すだけの剣技。
その剣に縁なく、その者に笑顔なく、その敵に栄えなく……。
助ける剣技でこそあるかもしれないが、斬られたものは幸せにならない。そういうものだ。
師匠にも、果てはミカエルにも、私の剣はよくないと言われた。
だからこそ、師匠に見せる。
入学試験で使ったのが生物でなかったからこそ良かったと。ミカエルか師匠、どちらかに見られたら、そう言われただろう。
「疾ッ!!」
短く、息を吐く。
斬りかかる動作に入った瞬間に、もう一歩だけ、足を踏み入れる。
速度が、上がる。
風切り音はしない。ただ、ほぼ0距離で切られた師匠に、阻まれ、師匠の体を切る音だけが、聞こえる。
まあそんなに耳よくないからわからんけど。
「…………?」
きょとんとする師匠。何が起こったかわかっていないのではない……だろう。
私に、左腕を斬られた。このことに対しての理解が追いついていない。
そして、痛みはやってくる。
「ッ!!? ァ
二撃。
まだつながっている左腕を、完全に切り落とす。
が。
ガギィ、というスコップで地面を掘る時、岩にぶつかったかのような音ともに、私の腕に猛烈な衝撃がかえってくる。
面白い。
切れないのだ。
某クラフトゲームの岩盤のように。いくら力を込めて切ろうとしても、切れないのだ。
そして、切った瞬間から再生していない。つまり、腕と目の能力は、一切使われていない。
私は、これ以上の攻撃を、手の内を見せることができない。
要するに……。
敗北だ。
両手をあげながら剣を落とし、首を横にふる。
無理だ。化け物すぎる。
「あーあ。負けちゃった」
嫌味まじりなのか、競馬の賭けに負けたような気分なのか、そんなことを鬼灯が口走る。
それでも、その口元は軽く笑っている。目は、楽しそうだ。
「ゆかりん、お疲れ様」
そういい、私の頭を撫でようと、右手を伸ばす。
「鬼灯、分を弁えてください、それも果てしなく」
「えー……いいじゃん、ボクの子なんだから」
「ゆかりは私の弟子です」
語尾に果てしなくをつけたりつけなかったりするのは、語幹によるらしい。もう何が何だか……。
「ま、弟子を褒めるのは、師匠か兄弟子か、どっちかの仕事だもんな〜」
兄弟子って誰ですか?
「ゆかり、喋らないのですか?」
師匠こそ、果てしなく、つけなくていいんですか?
「語尾のことをいいたそうですね? 今更とはいえ少し恥ずかしくなってきました。左腕を斬られた時にようやく思い至りましたよ……」
「本当、一緒にいるボクまで変人奇人の類だと思われてたんだからね?」
「…………」
師匠は無言で顔を赤らめる。意外とこういう面もあるんだなぁと、思った。
◆◇◆◇◆◇◆
「で、ボク何しにきたんだっけ?」
あなた……という目をした師匠に時と目を向けられながらも、鬼灯はいつも通り、気ままに振舞う。
「あー……まあブローディア、別にお前の力必要ないんだわ」
あははー、といつもの調子で笑う鬼灯。もちろん、当の本人である師匠からすれば大ダメージである。
自分の出番だと意気揚々とでしゃばって見せたのに、後から全く必要ないとかい
われれば、そりゃショックだろう。
元より師匠はストレスやらショックやら、そういうのに弱い。
なぜかはしらん。
気まずい時間が流れる。今すぐここから離れたい。
「まあ、ブローディアが使った方がコスパ?燃費?はいいけどね」
センセー! なんの話かわかりませーん!
こいつらあれか? なんかようわからん言葉やこそあど言葉でなんでも通じてるように見える悪役キャラか? あ?
「さてさて」
パンッ、と手の間に何か書かれた紙を挟み、手を叩く鬼灯。
軽く息を吸い、詠唱を始める。
「時より出でるは黄泉返り、死相は消え去り刻みは熾る。織る者、刻む者、壊す者。彼らを起こすは『最後の希望』。我ら巡りて廻帰せん」
そういい、札を地面にそっと貼った。
そして、私に向かってこっちこい、と手招きし、何をするかと思えば、あろうことか指を切れと言われた。
「正確には親指の先を切り、血を垂らすのです。術中は喋ることができないので、先に言い忘れた、鬼灯の落ち度ですが……」
師匠が教えてくれた。本来なら生爪、歯一本に肉がいるらしい。下手をすると片腕丸々使う時もあるそうだ。
痛みで術が途切れるなんて当たり前らしい。
というよりなんかヤバそうな雰囲気がしてるんですけど、これほんとに血、たらしていいの?
垂らした瞬間爆発四散とかやめてよ。なんか妙になりそうで怖いので。
「大丈夫、過去に飛ぶ、そういう術式だから……多分……」
まぁいど毎度! なんでこっちの奴らはこんなに理解してないんだ!
もっと理解してから使ってよ!? マニュアル的なのあるよね!?
師匠もこういうんだし、キット大丈夫ダヨネ!
軽く、親指の腹を切り、血を一滴、二滴、三滴と垂らしたところで、十分だと言われた。三滴分が適量らしい。
そうして、私の意識はゆっくりと、暗闇の飲まれて行った。
はい、おはようございます。
今日も元気に一日が始まっております今日この頃。
目の前に気持ち悪い物体がッ!
「気持ち悪いとは失礼ですね。これでも身嗜みには気をつけているんですよ?」
その喋り方が気持ちわるぅい!
誰だよ! さっきまで一度も見たことないその性格!
……ん? 待てよ。そういえば……。
「一体幾つ人格があるの!?」
ビシィッ、と私の寝室兼私室のベットの前にある椅子に座る少年、鬼灯を指差す!
いい加減気持ち悪い!
「ん〜? 総じて50ちょいですよ」
キモッ! なんだお前! ギネスブックに載りたいんですか!? なら向こうの世界でどーぞ! 私はこっちにいますので!
なんでそんな人格あるんだよ!
優しいあんたは特にきもい!
「さて〜、では今後について話しておきますね。まず、世界崩壊まであと一年の猶予を与えます。それまでに強くなってください」
鬼畜ですか?! 何!? 出会い頭に世界崩壊まであと一年ですって! せめて転生するときに女神様が言ってくれ!
「強くなるためなら僕も力を貸すので〜……まあそこら辺は他の稀有に聞いてください〜」
は〜い! もう話が全然わかりませ〜ん!




