60.
理不尽に出会ったことがあるだろうか。
例えば、野良でトッププレイヤーに出会ったり、決勝戦のチームがバカ強かったり、そんな理不尽に出会ったことはあるだろうか。
もちろん強くなりすぎればゲームはつまらなくなるし、ある種の作業になる。
ただ、こっちの常識で照らし合わせるとどうだろうか? 強ければ強いほど人生を長く生きることが簡単になり、下手をすれば種の壁さえ突破できてしまう。
力を求めるのはこっちでは常識、日常のこと。
つまり、弱いものが淘汰されるのが当たり前の世界、いや、それが色濃く現れる世界というべきか……。
弱肉強食。
シャーロットという強者と、その主を平然とこなせる鬼灯というさらなる強者。その二人に使い古され淘汰されるのが、私。
はーい、抗議文を送りつけたいでーす。
この世界で強さとは基礎ではない。応用だ。
どんなに基礎ステータスが高かろうと、そのステータスを生かせる応用力がなければ意味がない。どんなにいいスキルがあろうと、ただ使いこなすだけでは意味がない。
私もそうだった。
『生命の樹』と『邪悪の樹』があるだけで最強になれる、なんてことはなかった。神術があれば最強になれるわけではなかった。
ミカエルも、乙鳥も、シャーロットも、みんな応用している。自分に合わせた戦い方に昇華しているのだ。
鬼灯だって例外ではない。普段は能力を力任せに振るうだけで勝てるような相手しかいないだけで、自分の力と同じくらいの敵に対してはちゃんと力を応用していた。
何度も何度も手合わせをし、試合観戦を見せてもらい、私は学んだ。
誰も彼も、届かない領域にいるわけではない。確かにスキルの差や能力の差はあるかもしれないが、ミカエルなんて天使長だというのに鬼灯と渡り合えていた。
大事なのは、アドリブ力と応用。
敵に対して常に知らない手が出ると予想し、それに対してどれだけ早く対抗策を練り出せるか。
基礎的な力は、なければならないが、一番重要ではない。
「なーんて思ってるだろうけど、基礎も大事だよ?」
とかいうのはいつも鬼灯だった。
私はそこら辺わかってるっていうのに……。
「それじゃ、試合開始!」
軽いノリで開始の合図を言い放ち、そこらへんに座る鬼灯。巻き添えを喰らうとか、そんな心配は必要ない。
この際、全力でやろうと思う。どうせ、なにも残ってないのだから……。
親も、妹も、家も、何もかも……。
「先手は譲りましょう」
語尾に『果てしなく』が消えるってことは、シャーロットの全力を出す、という証だ。
集中するために口数を極限まで減らしたいから、そうなるらしい。
なにをするべきか。なにが一番効果的か、どれが一番予想外か、どこが安全か、全てアドリブで考える。
既存の知識など、ほとんど必要ない。同じ魔術式でも違うものだったり、違う威力だということを想定しなくてはならない。
そして、一つ、また学んだことがある。
タロットカードは、戦闘に向いていない。あらかじめ用意しておかなければ取り出す時間はロスだし、取り出してもすぐにバレる。取り出した瞬間発動し、その瞬間にしまう、とかいう高等技術でもしない限り無理だ。
改善案としてアイテムボックスなどの収納スキルの中で使う、というのがあったが、収納系スキルは習得条件がほぼ先天的なものなのだ。
無理に決まっている。後天的なものはまだ解明されていない。異世界からの来訪者なら話は別だが、今の私はこの世界の住人である。
先天的に得ることはできなかったし、後天的にも手に入る希望は薄い。もはやお手上げ。
ならどうするべきか。
簡単だ。そんなこと、最初からやらなければいい。特に今回はそれが大きく現れる。
元からタロットを知っているシャーロットが、収納系スキルの対策をしていないとは思えない。
使ってくることを前提として戦っているはずだ。だからこそ、使わない。隙を見て使うべきかもしれないかどうかは、アドリブ力が試される時だろう。
思考はここらへんでやめよう。
多分、シャーロットは私が仕掛けるまで、冗談抜きで、何もしてこない。式や神術の展開段階でも、だ。
ただでさえ威力の出る神術でさえ、真っ向から受けるまで、動かないつもりなのだ。
ハンデなのか、常時発動のスキルのうち、無効化系は全てオフになっている。
そりゃまあ物理無効とか聖魔無効なんてついてたら、まともな試合になるわけがない。
ここで威力を選ぶのは間違いだ。出すなら、デバフ。確実に当たるなら、最上級のデバフをぶつけるべきだ。
ただ、それで大きく力を消耗するのは悪手だ。
だからこそ、わざと消耗する。
瘴血の聖書
耐性半減、全ステータス半減、確率半減……などなど、私が使えるデバフを全てつぎ込んだ上、その効果を50%以下の場合に限り、50%まで引き上げる。
聖書なんて言っているが、もはや魔書だ。
ちなみに私がつけた名前は血書とよんでいる。自分自身の血で書かなければならない、という欠点?があるが、効果は絶大だ。
「わお、血書か〜。てかどんだけ血ぃ使ったんだよっ!!?」
鬼灯が座りながら手を叩き、称賛しながら驚愕している。
「さあ、行きますよ?」
動き出す、『自由』。
◆◇◆◇◆◇◆
初手を譲るなんて言ったのはいいけど、シャーロットのやつ、なに考えてるんだろ?
ゆかりんの一撃を舐めてる気がする。いくら物理耐性の濃度がボクより高いと言っても、無効をつけていない状態なら、ボクのデコピンでさえ致命傷になりかねない。
まあボクに耐性は効果ないんだけど……。そして魔法系の耐性はまずそもボク魔法とか使えないから意味ないけど……。
さてさて、ゆかりんはなにを使うのかな?
神術……は微妙だなー……。反動あるし、シャーロットのいう初手は効果が出た瞬間までだ。
ボクならどうせ何しても勝てるんだけどね。例え、動けなくなるレベルまで力を使い果たしても、一歩も動かず、それこそ何もしなくても勝てる。
思考することさえできれば……。
……………んーと……んー……? ん? あー。うん。
血書……なのかな?
「どんだけ血ぃ使ったらそうなるんだよっ!!?」
心の声に留めるつもりが、声に出てしまった。それほどヤバいものだ。
血書は最初に綴った血が凝固するまでに全てを描き終えなければ、意味がない。それまでに書いたものは効果が出るが、描き途中……つまり確定していないものの効果はない。
血が凝固するまでにかかる時間は正直よくわからないけど、少なくとも、ゆかりんが使っている血書を作れるほど時間はないはずだ。
そう、普通なら。
あれは最大サイズじゃない。
最大サイズっていうか、最高密度っていうか……とりあえずボクが知る限り、一番ヤバかったのは、アマテラスだ。
アマテラスは、契約書をまとめた本を生み出した。
それについては詳しく触れることができない……というか知らないけど、少なくとも、あの血書はゆかりんの血書の二倍はあった……気がする。
それでも、ゆかりんが書けるのはおかしい……。
まあ、それもすぐにわかることか……。血書なんて、どうせすぐ壊れるんだし……。
◆◇◆◇◆◇◆
なに……これ……?
は? 耐性半減、確率半減、無効無効、全ステータス半減、冷却激増……揃いも揃って化け物デバフではないですか!?
いい加減限度ってものを誰か教えてあげたらどうでしょう……。
いえ、限度を教えたところで、治るとは思えません。自分の力に振り回されず胃にいられる、どこかにそんな自信があるのでしょうか?
「どんだけ血ぃ使ったらそうなるんだよっ!!?」
ええ、まさにその通りですね、稀有。
あなたに授かった力を、いくら注ぎ込もうとも、アレは私には作れない……。
まともに応戦するもの馬鹿らしくなってきました……。
あと幾つこんなおかしいものが残ってるのでしょうか……。
タロットカードと神術を中心に危険視していましたが、杞憂どころか、真逆でした……。
あんなハンデつけなければよかった……。
もう、手加減なんてしてあげないから。
◆◇◆◇◆◇◆
血書が使用済みになった直後であった。
シャーロットが、地面を思いっきり踏み込んだ。
ッコッッッ!!!! と、音すらかき消され、地面に大小無数の破片が散らばる。
そして……。
シャーロットの目が、緑に輝き、刹那、青赤緑の三色の軌跡を残して、私の方へと、瞬間移動かってほどの速度で向かってくる。
速い。そして無駄が……んー……無駄がない……わけではない……。どっちかというと、半分振りまわされている気がする。
ん? 違うっ……!
ピッ、と。
気づけば、頬や腕に、無数の小さな傷ができていた。
もう、遅かった。ちゃんと考えるべきだった。
なぜ、わざわざ地面を踏み込んだのか、を。
向かってきている最中、とにかく無駄に腕を動かしていた。わけではない。
無数の破片を、私に向かって飛ばしてきていた。
でも、なんでいきなり傷ができたのだろう……?
わからない。
私も動かなければ……。
死を恐れては殺を取れない。
「『ダアト』」
唯一、『三原色』を100%の効果で扱えたダアト。今では、私がダアト。
シャーロットと違って、私は強化のレベルが違う。ただ、欠点として、慣れていないせいか、鬼灯に一度触れられただけで剥がれてしまう。
でも、シャーロット相手なら話が違う。
私は唯一、赤で回復も行えるから……。
通常、赫は防御、蒼は攻撃、緑はバランスを司る。
が、ゆかりは、イレギュラーな存在故か、赫が防御ではなく、回復になっているのだ。
ただし、防御は上がらないが……。
「シッ」
剣を振るう。
しかし、当たることはない。まるで転移したかのように、剣の通り道を作り、避けた。
一体、どんな能力なのだろうか……。
まあ、そろそろわかってきた。
多分、致命傷になる攻撃だけは、絶対に避けてくる。
なら、細々とした攻撃に見えるよう、うまくカモフラージュさせる。
「ぁ」
なぜ、シャーロットは剣を投げた……?
なぜ、丸腰で向かってくる……?
まった、剣はどこに落ちる……?
シャーロットはなにをしようとしている……?
まずい、直感でそう思う隙もなかった。
私はとにかく前へ向かった。どれが想定外の行動なのか全くわからない。ならば、もうかけに出るしかない。今までに何度もしてきた。
代償は命。しくじれば全てパァだ。
「ぁぁ……」
ダメだ。怖い。
「っ」
この際、なりふり構わずに行動しないのはおかしくないだろうか?
私が死ぬか、シャーロットが負けるか。
己を、超える。
『限界』という勘違いを、捨てる。
「ぁぁぁあああああああああああっっっ!!!」
もう、血反吐を吐こうが、失禁しようがどうだっていい。
どの世界でも、結果が全てなのだからっ!
しかし。
目の前に、シャーロットはいなかった。
あるのは、投擲され、回転しながらどこかへ飛んでいっていたはずの、剣。
まっすぐ、こちらへ向かってくる、剣。
もう、逃げられない。
何をしようにも、避けることができない。
それより、いつから剣を持っていた? 帯剣をしている様子すら見えなかったのに、収納系スキルから取り出した? 私が観てる中、どうやって?
時間?
時間を、止めている?
そんなの勝てるわけがっ!!?
「ふふ」
あっ! 笑いやがった!
油断? 違う。余裕。
もう、どうすれば……。
私が、私が何したってんだよクッッッソ理不尽っっ!!!
「『意味のない時間』!!」
そうだよ。
どうもできないなら、無駄を極限まで出し切ればいい。
この時間が流れる世界で、何が一番無駄か、無意味か、という疑問を一度だけ考えたことがある。
何もしないこと、確かにそうだ。でも、本当にそうだろうか? 別にすることがないなら、何もしなくたっていいじゃないか。何もしたくないから何もしないのだから、いいじゃないか。
では何か……。
何度も考えた。
到底見つからないと思えた。こうして考えること自体が無駄のようにも思えてきた。
それでも、無駄でも、無意味でも、考えた。
答えは、時間を止めること。
自分以外の時間を止めれば、自分だけは老いていくのに、周りは変わらない。時間をとめた中で、動き回ることはできても、事象は進まない。字を書くことすらできない。
つまり、一番無駄で無意味な行為でありながら、その反面、戦闘で有利になるのだ。
これでシャーロットが時間を止めることができるなら、進入してく……あれ? でも時間止めてるんだから入れるわけ、ない?
「うーん……」
「あはは、何も知らずに使ったのかい?」
「うげっ」
「ボクにそもそもこういう系は効かないしね。で、言い訳を聞こうか?」
「いや、ほんと、びっくりしただけです……すいません」
はあ、とため息をつき、鬼灯はテクテクと歩く。私と同じくらいなのかと思ってたら、意外なことにこっちだと156くらいに見える。というか156なのかな?
「ん〜、身長? まあこれくらいが好きなんだよね。かわいいでしょ?」
「年頃の女子かよ」
「んじゃあ社会人の男性かな? ゆかりんは」
「フザケンナ」
本当にペースが狂う。
「あー、まあ話すかなー」
「話すって、何を?」
「いろいろ。聞きたい? 君の出生とか、もう一人の鬼灯とか……まあそこらへんだね〜」
「随分と」
「急でしょ? まあこっちもそれに見合う用事ができちゃったから、仕方なく、なんだけどね」
見合う用事? なんだそれ。
「まあ、今この状態からも、大体二年後くらい? に『七星の闇』が内部崩壊するって話」
え?
いやもうどんだけ急なんだよ。ストーリー構成ぐちゃぐちゃだなおい。システムはちゃんと仕事してるの?
「何度でもいうけど、未来予知なんて便利なスキルはないんだよ? 未来は枝分かれしているからね。どんなことをしても、未来は変わらない、なんていうけど、逆なんだよ? それを信じ込んで、本当に何もしないから、何も変わらないんだよ。バカだよねー、ほんと」
こういうこと平然といってのけけるあたり、やっぱり鬼灯は鬼灯なんだなぁー、と思う。
「ああ、うん。話を戻そうか。本当にゆかりんは脱線させるのが上手だよね」
誰のせいだっつーに。勝手に人のせいにするなよ、本当……。
というか……
「私エンジンかかってきたばかりなんだけど……」
この戦闘への意欲っていうか、なんていうかを鎮めたい。
「じゃあ時間を戻せばいいじゃん。ていうか寿命の無駄遣いだよ?」
誰のせいだっつってんだよ!!
はあ……一周回って呆れるしかない……。
とりあえず、シャーロットとの試合に、ケリをつけなければ……。
行動しなければ、未来は変わらない。そう言われたことを、根に持って。そう、根に持って。
ファンタください。
それか評価ください。




