自由人[シャーロット]
「…………誰かしらぁ。まあ、殺すに越したことは……」
口封じのために、殺すに越したことはない。そうネルは言いたかった。
ただ、忘れてはいけない。レイチェルは、妹は、親であるアクアにさえ、その本体を見せたことがないほどに、警戒心の強い相手であると言うこと。
そして、彼女は、この世界で唯一、拳銃以外の銃を持っている、規格外の、異邦人であると言うこと……。
プシュッ、と。サイレンサー付きのベレッタM93R のトリガーが引かれた。
狙いは単純、ネル………ではなく、その横にいたフリィである。
現時点での脅威性はネルがダントツである。なにも知らない一般人なら、脅威度でネルを打つかもしれない。
しかし、フリィには見たところ回復の手段がなく、その上でネルからすれば軽傷であるとは言え、手負いである。
そしてアクアと睨み合いをしているのはフリィではなくネル。ならばフリィに重傷を負わせ、ネルにさらなる足枷を用意してあげる方がマシである。
見捨てると言う線もあるだろうけど……。
(チィッ、『白血の天使』……ここで出てくるとは……)
言葉通りである。一時期、レイは白装束をわずかな返り血を何度も浴びたせいで半分以上が赤く染まると言う事件を起こしたほどだ。それも、一夜にして……。
簡単に言えば、レイが自暴自棄になって国を一つ落としただけである。
私も落としてるから何にも言えねぇ……。
そしてこれからも落とす予定だからさらに言えねぇ……。
「お姉ちゃん……解封……できた……?」
「見りゃわかるでしょ……。さて、フレア、いえ、ネル。これ以上ここに止まるなら、私たちだけじゃ済まないわよ」
フレアなら、理解できる。
民衆の目、耳、その怖さを……。
「…………えぇ」
ネルが恨みのこもった視線とともに、口を開く。
「えぇ!! いいでしょう! あなたは強いわぁ! 私が思っていた十倍くらいは、ねぇ……!」
狂った……? あ 、
違う……違う違う! こいつの狙いは……ッ!!
「隠れるか伏せてっっ!!」
敵に塩を撒いていたのを忘れていた。
「でも、あなた以外が強いとは限らないわよねぇ?」
フレアには、核爆発の知る限りの原理を教えていた。そして、こっちの世界風にアレンジしていた。
つまり、異世界版核融合を発生させることが、フレアにはできる。
さて、ここで問題が発生する。一つ、フリィは確実に死ぬだろう。体力とか防御力とか、それ以前に純粋に身体が消滅して死ぬ。いわば即死攻撃だ。
この世界で体力や防御力があろうと、圧死やマグマだいぶのような身体自体が再起不能になるようなものを即死として扱う。
フリィは一度の発砲を受けたと思われがちだが、実際には手足に合計四発、しかも足はアキレス腱を狙ったと言う徹底性。動く事は愚か、防御行動は確実に取れない。
次に、私だ。ネルに一番近い上、これは他のみんなにも言えるが、隠れる場所が遠すぎるし、脆すぎる。参考までにフレアができるであろう核融合……実質水爆の威力はここら一体を普通に消し去るレベルなので、隠れることができない。
だいたいこんなところが私が気にしている問題だ。
そして私自身もうまく走れないのだ。大問題だ。
あ、
いいこと思いついた。
開放スキル。元はエラースキルであるこいつは、封印とその解放の両方を行える。
そして、今抑え込んでいるのは私の力。それを開放し、そして……。
考えるより実行。
「開放」
そして……
タイミングを……合わせるッ!!
「封印」
誤差は一秒まで。発動後ではダメだ。発動前。一秒さで言えばいい……。
できた。できてしまう。
私が、殺される可能性も、同時に……。
そういや圧縮とかってできるのかな? 抑え込む……派生させて凝縮してあとは……『鬼灯』にでも握りつぶして貰えば……。
ツン、と。
「邪魔したらダメよぉ」
懐かしい、私の、天、敵……。
スキルの制御が、全部持っていかれた……。
爆発、する。
タイミングを考えて欲しい。頼むから、こんな時に登場しないで欲しかった。
凝縮したのは範囲もそうだ。このレベルならば……。そう思ったが、無駄だ。
願いなど、叶った事はない……。
直後、視界が奪われ、灼けるようなではなく、そのまま灼ける痛みと体が引きちぎられる痛みで全て意識が持っていかれそうになり……それを再生が許さなかった……。
アクアは? レイは? フリィは? フレアは? 観客席にいる観客たちやオティヌス、サーズ……みんなは? 生きていられ、る?
誰もが私のような人間じゃない……。
嫌だ。
嫌だ。やめて。
いや……もうこれいじょう………だれもしなないで……
たすけてよ……。あ、やくそく……まもれなかったなぁ………。
サーズは、アクアは、きっともう……。
あぁ……。
許す気にはなれない。許してくれなんて言ってこないのは知ってる。それでも許す気はない。殺す? そんな甘ったるい事はしない。
爆発の煙だけが残る頃、私は無傷で一人、焦土とかした大地に立っていた。
フレアも死んだ。そうだ、『淑女』は死んだかな?
骨すら残らない。遺骨くらい拾ってあげたかったかな。
「お 」
声だ。そうせレイだろう。ほっといても死にゃしないし、逆に自分で再生するだろう。
そうだ、どうせだし殺してあげよう。
「レイ、もう苦しまなくていいんだよ」
「まっ――」
あれ? 苦しくなかったのかな? まあいいや。どうせ、生きてても大した事はもうできないだろうし。
「」
レイの口元から空気の流れが消えた。薄くなっているとは言え、煙がある分わかりやすい。
死んだ。可愛い。肌も白く、それでいてレイ自身の血でベットリとしている……。白血の天使……嗚呼……今のレイにぴったりすぎる……。
もっと、ぐちゃぐちゃにしたい。
原型をなくすほどに、私の手で、ぐちゃぐちゃにしてあげたい。腐るよりも前に、私が友好的に使ってあげるからね、レイ。
それから煙が消えるまで、消えた後も、ずっとレイをぐちゃぐちゃにした。まだ生温い血液が今では暖かい。レイは身体も同郷。いじっているだけでも懐かしさが思い出せる。
そうだ。内臓を並べておいてあげよう。
心臓と脳は壊しちゃったからもうないけど、まあ七並べでもやろっか。
*
ぴちゃ、ビチャ……。ようわからん音が聞こえてくる。耳が良すぎるのも難儀なもんだ。
正直だれが何をしているかなんて未来を覗けばわかる。かと言ってその未来が100%の未来かと言われれば違う。あくまでも0.0001%の未来を覗いているだけだ。
こんな感じのことが起きたのは史上二回目である。
大体数千年ぶりくらいかな。
あの時は僕以外みんな追い出されたらしい。ケイオスも、総体も……みんな。世界改変の権限を持っていたオーディンやゼウスまでもが……。
何があったかって……覚醒した人間が……つまり勇者が、同じ人を自分自身の意思で食らった、ただそれだけ。
正直驚いた。
勇者が人を食ったこと? それはどうでもいい。その後。勇者は自分自身の制御率を80%以上失ったうえ、小説とかアニメとか……まあそこらのジャンルでいう闇落ち的状況になった。
人間やめた感じかな。
前回はみんなバカみたいに躍起になって、力無駄遣いして止めたけど、僕一人でやるってのは考えてみると面倒な話。
生き返らせんのやめときゃよかった。
ま、いいや。結果オーライ。
どうせ次は成功してるんだし。
「コキュートス、君の出番はまだ先だよ」
「」
喋らないのは知ってるから、念話くらい使ってくれよ。
「聞こえた? 分を弁えろっつったんだよ、かき氷」
ピクリと、普段無表情なこいつに反応が出る。
心配していた人間をこのまま優先すべきか、ここは大人しく引き下がるか……悩むまでもないだろうに……。
最近はみんな日和やがって。昔はもっと楽しかったのになぁ……。
なあ、獣神、どうして娘なんて産んだんだよ……。
かき氷、ちゃんとどっか行ったようだ。
それから少し歩き、音源っていうのかな? そこにたどり着く。
あらまあ、獣でしょうか?
……あ? あー……あーね、そういうことね。美味しいんだね、同郷は。
ゆかり、どうせ誰を食ってるかなんて理解できてないでしょ?
七並べかな? 肝臓、胃……んー……何順? というか大腸小腸ときて食道並べるそのセンスはなんなわけ?
そしてこっちに気づかない。食べてはいない。楽しんでるのか。それとも、生の臓器は不味いと知ったのか……。どっちにせよ、後片付けが余計面倒になったらしい。
「あー、ゆかりや、塚原くんや?」
名前もすでに認識できないのか……末期だな。
ただ、話はつけろとか言われたしぃ……ぶすぅ……すねちゃうもん!
ま、ちょっと困ったな。
頭をポリポリかく。正直いい案なんて浮かばない。久々にこっちの〝スイッチ〟にしたせいかもしれない。
「うーん……聞こえてるなら右手を挙手」
スッと上がる右腕。
なんだ、聞こえていたのか。理解はしていたのか。
そうかそうか、優先度が低かったというか、興味優先というか……。ある種のゾーンなのかもしれない。
だったら話は簡単だ。
「あー、話、聞くだけ聞きやがれ」
*
ああ……もう、何も言う事はない。
このまま死のう。やる事は終わった。完全完璧にクリアしたゲームのデータを消すのと同じだ。
数分のうちに全て破壊された。
フレアは殺すべきだ。いかしておけばどうなるかわかったもんじゃない。
フレアとフリィが死ねば、『淑女』が登場する理由は消える。
そうだ、それでいいじゃないか……。
臓器を並べながら、考える。
レイの血みどろの顔が、いつになく可愛く感じる。
誰かがきた。まだ250mほど離れてる。
興味はない。考えよう。
「l;lgjq;masp;hns;alhjp;q21l@p:;」
何か言っている。
何を喋っているか分からないのに意味だけわかる。
無視を続けた。無視というよりかは、聞くだけ聞いている、って感じだけど……。
「a;p」
ため息をついたみたいだ。なんとなくわかる。
それでも何を言っているかは分からない。難儀なものだ……。
直後、彼は私の頭を、左腕で触った。
その瞬間、私は言語を理解できるようになった。
そういうことなのかもしれない。
「あー……まあ多分気付いてると思うけど、同郷を食ってこっちの事を完ッ璧に忘れてたんだろな」
レイチェルは名前を変え、姿が変わっただけの、血液、肉体全てが日本人の少女。それを元・日本人であった私が食べたから、まずった。
「頭の方もセイジョーになったみたいだしぃ? まあ一件落着……」
「とはいかせません」
黒いゴスロリ風なメイド服に赤のカチューシャ。そしてこっちでは珍しい黒の髪。
どこかで見たことがある……どこ、か?
「あっ!」
「数年ぶりでございますね、ゆかり様。随分と、心が弱いようで……これは、矯正する必要がありそうですね? 果てしなく」
ニコッと笑顔でこちらをみるメイド。
私が生まれるまでの十年間、その修行中、ケイオスも、総体も、征妹ちゃんさえ押しのけて、私に修行をつけてきた、よう分からんメイド。
「随分な評価ですね。まあ妥協点ではありますね、果てしなく」
この人にだけは、逆らってはいけない。そんなリストがあれば第二位に入るであろう化け物である。
何がやばいって、まずこの人青赤緑三色揃ってるうえ、その扱い方は指先だけだったり物体付与は当たり前、敵にさえ付与する。その程度で手加減。手加減どころか手抜きと言ってもいい。
「お久しぶりですね、相棒。えぇ、実に五百年ぶりですわ、果てしなく」
何かと語尾に果てしなくがつくこの人、元は『鬼灯』の相棒兼メイドだったらしい。二人で旅とかしてたとかどーとか……。
「あー、だるいの呼び寄せてくれたなーもー」
だるい……確かに。
この人、見かけによらず粘着質+ダル絡み気質がある。構ってちゃんというよりかはもはや怒ってください怒られたいですって言ってるような感じの人だ。
実力が実力だけに手も足も出せないのだが……。
「さてさて、私の力が必要な時でしょうね、えぇえぇ! それも果てしなく!」
正しい用法なのか間違った用法なのかもう分からん。
でも、初めてこの人の力を見る……。
この人は正直不明な点が多い。神にして人。しかし、人神ではない。そして神と言うわけではないが、神である。
なんと言うか、『鬼灯』と同じ部類なのだ。が、それでも常識の範疇である、と言うわけだ。
この人のどこがやばいって、そりゃもうクロノスだとかサトゥルヌスだとか、全部ガン無視して、自分と効果のない『鬼灯』以外すべての時間を巻き戻したり強制的に進めたりできる、と言うことに尽きる。
つまり、どんなことがあろうと、普通は『鬼灯』以外には倒せないのだ。
「さて、なんでしたっけ、果てしなく……。ああ、そうでした。私の力が必要なのでしたね、果てしなく」
「ま、そーなるな」
やる気のなさそうな声ではあるが、それでもやる気自体はある様子の鬼灯。本当にこいつに任せていいのか不安になってきた。正しくは、こいつの仲間に任せていいのか、だが……。
「さて、ではやってしまう前に、私としましてもやりたいことがあるのです、果てしなく、ね?」
こっちを見てくる。見てく、るな!
怖い怖い! まだ貞○に追われる方がマシだ!
うー、わかりましたよぉ……。
「さあ、始めましょう! えぇ、ただの確認ですよ、果てしないだけの」
ブローディア=クトライレ=シャーロットと、模擬戦をすることになった。




