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失望

や、やぁ……。ひ、久しぶり…………。


パピコのチョココーヒー好きな人、挙手!



 他の参加者たちも強いんだな、なんて思い、いつか彼らと戦うのかな、と思い、しかし。それ以前に、第二試合なんて訪れなかった。



 どうやら私は反則負け処分を受けることになったらしい。事象の説明が不可能、魔術かどうかの最低限の認識が不可能、規模が純粋にアウトすぎる、などなど、の理由で反則負け処分。

理不尽などと思うことはないものの、それでもどこかやってしまった感が大きい。


 補足だが、顔はそこまで知られていないそうだ。まず観客席から会場にいる人物の顔を見るためには相当な視力が必要になるため、名前こそ知られていようと、顔は知られていないと思っていいそうだ。

誰が教えてくれたかって?


 観客席にいたうちの親陣営でございます。


 別に言われなくても大体はわかるとはいえ、それでも教えてくれたことには感謝している。というわけで、それに関してはどうでもいい。

問題は反則で敗退処分。そして相手の敗退を勝利へと変更したこと。それも問題ではない。


 先に説明しようと思う。

タロットカードを扱う上で、重要視されるのは意味への解釈だ。簡単にいえばそのタロットカードの正位置・逆位置をどう理解し扱うかである。


 もちろん、常に同じ意味を確保し続けることも、常に切り替えをすることもできない、という欠点があるものの、一つ一つに剛大な力があり、それが二十二枚もある。


  「すれ違い」

『運命の輪・逆位置』


 言葉としての意味は出会わない、という方向性に感じているが、タロットカードとしての使い道は人探しの方だ。


つまり、私がこの会場で出会っている、もしくは私のことを認識している人物を知ることができる。その人物が問題なのだ。


とっくに死んでいると思い、生きているとしてもここにはいないと思っていた、宿敵にして天敵。

私のトラウマ。


 なんで使ったかといえば試合中ずっと感じる殺意ではないとはいえ、商品でも見ているかのような視線を感じたから、としか言いようがない。

普通視線なんて感じれるもんじゃないけど、私は例外。


 察知系スキルなしに視線を感じるのが無理なだけだけど……。自慢にもならない。


 さて、説明も終わったわけだ。説明しただけでずいぶんと落ち着きを取り戻せた。

その上で誰がいたかを教えようと思う。


 元々、私をそうやって見る人物には心当たりこそあった。

以前声をかけてそのままになってた人。


 でも、現実がそう上手く事を運ばせてくれる訳はなかった。


「こんにちは。朝でも月は見えるのね」

「うっわ、マジでいるじゃん」


 黒の髪に緑の目をした少女……なんてどうでもいい。


 青い髪、炎のような、赤い目。

前世、私とライバル認定しあった仲。楽しく過ごした日々。


()()()()()()()()()()()ッッ!!!!」

「あら、今更ね。それとも、あの後会わなかったからかしら?」


 一緒に冒険者と活動して、楽しく過ごしてきた。

国から追い出されても尚、私についてきてくれた。壊れた私に、だ。以前の私を知っている分、ついてこないものだとばかり思っていたのに……。


今思えば、それも私を騙すためのカモフラージュだったのか……。


「あらぁ、やっぱり、まだ子供なのね……。表情筋が元気すぎるわ」

「っ」


 いくら私が合計に十年と生きていようと、所詮は裏の社会を表面だけかじった程度の子供。暦年齢があがろうが、記憶の年数が増えようが、結局子供としてしか生きてきていない。

大人のように、精神が強いわけでは……ない。


「〝どこから〟………。そうねぇ、あなたと出会ったときは、まだよかったかもしれないわ。でも、あなたは私の組織の敵対人物に手を出した……多分だけど、そこからかしら……。喋りすぎたわね」

「ネル、私がやってもいいのかな?」


 言いたいことは把握されている。まだ、私は手のひらの上にいる。

向こうと違って、万が一も考えず、ただ試験に来ただけの私に、それ相応の用意はない。


「久しぶりのご対面だもん。完璧な戦いを演じていたのに、全く関係ない敗因とか持ち出してきやがったこいつが許せないのは、わかるでしょ?」

「まあ、そうねぇ……。私のお腹の傷も痛むのだけれど……。今回は譲るわぁ。貸し一よ」

「ありがと、ネル。大好き!」

「……………」


 二人は世間話程度に思っているんだろう。私からすればいつの話かもわからない。

少なくとも、この黒髪の少女は、私に恨みを持っている。


「擬似体じゃない僕は一味違うゾ☆」


 ほぼ次の瞬間、彼女の足元が光り、私が何かをする間もなく、地面から光の槍が飛び出してきた。のと同時、私に向かって黒塗りのナイフが飛んでくる。


「ぃっ……!!?」

「日中に黒塗りを使うのは悪手。素人の君じゃあそう捉えるよね〜。だって、黒塗りを使うなら夜だもんね。そうやって固定観念に囚われちゃってる」


 黒塗りに混ぜて、本筋を一本だけに絞り的確に痛いところを突く……。

素人と玄人。


「フリィ、喋りすぎよ」

「はーい……あーあ、怒られちゃったじゃん」


 後ろに下がりたい。五秒もあればタロットは取り出せる。

後ろに……。


 ちょうど私が後ろへ下がろうとした時だった。

ガクッ、と足から力が抜け、喉の奥から熱いものが迫り上がってくる。吐きたい……反射的にそんな欲求が湧き上がり、欲求の通りに〝ソレ〟を吐き出せば、赤黒い液体がバシャリと出てきた。


 あぁ、そうか。初見殺しのナイフ技なのに、それだけなんて、普通ないよね……。

毒、か……。


「お、回ってきたねー。心臓を止めれないんだから仕方ないよね。それに、毒耐性なんて持ってないでしょ?」


 毒耐性……確かに私はそう言った大勢の類はほとんど持っていない。毒を持った魔物と戦ったこと自体ない。

逆手にとられたわけでもなく、純粋に経験不足。


 床に倒れた瞬間、一瞬だけの隙で、タロットを一枚取り出せた。


「『悪魔』〝逆位置〟」


 回復。再生。

永続的に発動させることもできる。戦闘中の回復行動を減らすことができるタロット。


「うっわ、何それ!? 卑怯じゃんかぁ〜!!」

「私、は……なんと言われようとも、結果が最善の答えだとおもって……」

「あー、ハイハイ。そう言うのいいから」


 ズスッッ!!! と、『フリィ』のパンプスの先が、立ち上がろうとした私のお腹にめり込む。蹴られた。

痛い。泣き叫びたいし、助けてと言いたい。


 でも、たかが痛いだけだ。

ただし、そんな言い訳が通用するのは、昔の話。


「いつまで持つのかな? それとも早々に〝封印〟しちゃったほうがいいのかな?」


 封、印……?

この子は何を言っているんだろう。立ち上がって考えたが、考える暇はなかった。


 だってだって、封印って言ったてそんなのしゅく……  あ、?


 体が横に傾き、そのままドスッ、と床に倒れる。

毒の、影響。


「本当にバカだねー。いくら再生してもさ、あくまで怪我を治すんでしょ? 」


 ダメだ。頭がうまく回らない。タロットを持続発動にさせたのはいいけど、破壊と再生を繰り返すせいで身体がボロボロになっていく。


 綺麗なのは外見だけ。ゲームのキャラクターみたいなものだ。見た目は普段と変わらないのに、力尽きる。


「あー……ほんッとにムカつく。何? 私は諦めませんって言いたげなその目は! さっさと死ねよ!」


 パンプスのトップリフトが私の左目に突き刺さる。痛い。もう、それ以上の言葉は出てこなかった。


 以前死んだ時、痛みはほとんどなかった。あの生命体なりの優しさなのかもしれない。

でも、彼女に優しさはあるのだろうか……。私を恨んでいる筋がある彼女に……。


 ぐぢゃ、と左目が潰れ、血が吹き出る。

それもすぐ治った。


「…………どう? どんなに怪我しても、治っちゃう状態ってゆーのは? もっかい潰してあげよっか?」


 痛いのか痛くないのか、体がうまく認識できていないせいなのか、力がうまく入らない。筋肉痛の類なのかもしれない。

再生と破壊を繰り返しているのだから……。


 少女……フリィとか呼ばれてたっけ……とりあえず彼女は私の顔を左手で持ち上げて、右手を私の左目にあて……。


 ぶちり、という何か壊れちゃいけないものが壊れる音が聞こえた。

そして、わずか数秒後、体が新たな痛みを、最も大きく、現時点で正しい痛みを感知した。


 左目が燃えるように熱い。治ってもう左目で周りを確認できるのに、熱い。


「ん? なに? あ、もしかして幻肢痛みたいなやつ? じゃあ……」


 フリィは悪役も真っ青の笑顔で、こう続けた。


「右目も取らなくっちゃね! 大丈夫! すーぐ治っちゃうから!」


 歯医者に行ってすぐ終わるからと言われている気分だ。歯医者、最後に行ったのはいつだっけ……。私、昔はよく虫歯になってたっけ?


…………あれ?


 そもそも私はお菓子を食べるような人間だったっけ?


「んー、耳の奥かき混ぜるのって難しいなー。うっわ、なんかついた!?」


 フリィは、ごく平然とした様子で私の耳の奥に指を突っ込んで、直接蝸牛やら鼓膜やらを壊しにかかっていた。もちろんすぐ治る。だから何度でも壊せる。


「あーあ……もう一方的だよ。さっきの威勢はどこに行ったの? ったく……えいっ☆」


 バシャ、と。

透明な液体がいじられていた左耳から溢れ出る。厳密には、左耳の周りをごっそり持っていかれたせいで、脳脊髄液……まあ実質脳汁が外に漏れ出たわけだ。


 ここまでやられると拷問を受けている気分になってくる。


 タロットを取る隙も、もうない。

さっきのタロットで痛感したんだろう。出させれば負けるかもしれない、と。ただ、出させなければお話にもならない、と。


「痛いでしょ? でも私たちの世界じゃ、こんなレベル、拷問にも値しないけどね。あ、そーうだっ! 私ねー、最近面白いもの手に入れたんだっ!」


 実物を見たことはない。ただネットで、アニメで、映画で、そんな感じのものが出てきたのは知っている。


『鉄の処女』と呼ばれる、拷問器具。


「もちろん改良型だよ? 身動きが取れないだけじゃない。ちゃぁんと刺さるよ。で・も! おねーさんは再生できるからダイジョーブだよね?」


 体が麻痺して動かない。

私はあくまで怪我を治した。解毒はしていないし、できない。毒の効果もいくつあるかわからない。効き目が遅いものが後からじわじわと襲ってくる。


 ダメだ。勝てない。いくら身体能力が高かろうと、勝てない。


 この二人を、私は強いと思いつつ、『強い』中で、過小評価をしていたのだ。


「ネル、殺っちゃうけど、いいの?」

「…………まあ、この程度の子に執着なんて、ねぇ? あなたもそう思うでしょ?」


 ネルはなんとなくなのか知っていたのか、振り返り、その先にいる人物に話しかけた。


 白い髪にちょこんと生えている猫耳に猫のしっぽ。そこらに売っているワンピースを着た少女。

何を隠そう、ゆかりの、もう一人の親であるアクアその人である。


「私のゆかりに……何をしているの……?」


 目からはいつものような、みんなを見守る明るい目ではなく、暗く、ただ邪魔者を消すことだけを目的に添える目。


 言動に不穏な部分があることを除けば、自身の娘を助けようとしている母親なのだろうが……。


「ネル、知り合い?」

「私が一方的に知っている、ね」


 アクアは動かないし喋らない。二人の力量でも見分けているのだろうか。


「ゆかりから……離れて……」

「嫌だと言ったら?」

「嫌でも離れたくさせる……」

「あらぁ。できるものなら、やってみな……」


 フリィは最後まで言葉を言い切れなかった。アクア が動いたという認識程度はできたのだろう。怪訝な顔をした。その直後に、上から降りてきたアクアに斬られた。

鈍い音が響いた。多分ダメージ自体は大して入っていないのだろう。物理防御が高かったのか……。


「あらぁ。やっぱり強いのねぇ……」

「は?」


 ネルもフリィも、きっとアクアは喋ることすら許していない。


「喋らないで……ゆかりに感染る……」

「………これだから魔族は……。力を理解しすぎなのよねぇ」


 前にみたほぼテレポートかって速度で相手の目前に迫り、掌底で胸の中心を突き刺す技。

アクアには、意味をなさない。


「餅つきにぴったりの威力ね……」


 トスッ、と。ネルの、フレアの胸の中心に、お返しとでもいうかのように人差し指を()()()()。ごく自然な行動すぎて、彼女は警戒すらしなかった。違和感がなさすぎるのだ。

アクアという少女の形をした魔族に対して、危機感を大きく持たなかったフレアは、細く小さい手など、驚きと立ち回りの変更のことを考えたせいで、視界に入っても気付くことができなかったのだ。


「ブッ……!!?」


フレアの、ネルの口から血が溢れ出る。


「痛いでしょ……?」


 心臓をついた。

普通、人差し指では到底突き刺せない位置にあるのに、だ。


「ネルっ!」

「フリィ、撤退するわよ。相手が悪すぎるわぁ……」


 ネルには、フリィには……。二人にはアクアという怪物は強すぎたようだ。

撤退。それもいい策なのかもしれない。


 というかそれを敗者である私が語るのもおかしいのだが、アクア が撤退するという言葉を聞いて逃すわけがない。


 そして……。



 頭のいいネルとフリィがそれを言葉で言い表すこと自体、おかしいのだ。

アクアもそれに気づいているのか、一向に手を出そうとしない。


 そう、この三人、経験がありすぎるが故に、相手の裏の裏を見ようとしすぎるが故に、行動を制限されてしまったのだ。

頭の良さというのは、経験というのは、時に自分自身を縛ることになる。私みたいに縛られているのではなく、縛ることとなるのだ。


 いつでも、昔こうだったから今回もこう、なんてゲームのプログラミングみたいなことはないのだ。


 正直に言わせて貰えば、ただの馬鹿である。三人揃って……。

アクア がどうなのかは知らないが、二人は経験を重視しすぎている面がある。


 まあどれもこれも、私が言えた義理じゃないんだけど……。


 さて、ここで私は何をすべきでしょーか。


1.フリィ、及びネルのどちらかを叩く。

 やってもいいけど、正直無駄足。どうせすでに警戒されている身だ。


2.何もしない

 何も起こらない。


3.大声出して人を集める。

 これだ。


 ネルもフリィも、裏の住人であり、それも『守衛の大罪』所属というのを自白してきた馬鹿野郎だ。

一応バレないとでも思ったのか……。


 さて、恥ずかしい。ここでなんと叫べばいいのだろうか……。

言っていなかったが、私は第一回戦で反則負け処分を貴族側から強制的に下された身である。大声でタスケテー、なんて論外だし、それこそ他に言うことが見当たらない。


「コホンっ!」


 咳払いをしてみた。

まあそれだけで殺意バリバリの視線が飛んできたが、すぐさまアクアに戻された。


 すげぇチクチクした。本物の殺意ってコワイナー。


 とりあえず咳払いで落ち着くことができた。


「キャーーーーーーーーーータスケテーーー!!!!!!」


 意外と上がり調子な声になりかけたが、まあ大丈夫だろう。

高音の方が響き渡りやすいので、とりあえず咳払いをしたと言うわけだ。


 咳払いをしたと言う行為を甘く見ていたな((キラーン


 ほぼ十秒ぴったりくらい。

飛んできたのは……。


 隻腕隻眼の白い服を着た少女……まあもっと簡単に言うと、私の()()()()であった。


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