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鬼灯とシズの休暇旅行 Ⅴ

「奴隷って、名前ないものなのか?」

「いえ、この子は生まれた時から私が見込んだ人だけに見せるものでしたので、名前はありません。名前は、あなたがつけるんですよ」

「…………」


 ルスが黙り込んでいる。やばい。ちょっとした地雷を踏み抜いたかも。


 ちなみに買った戦闘奴隷は普通の服を着ている白髪の白猫的獣人の少女だった。どうも隠密系で前衛、その上男性側のボクが攻撃系なら散乱系ということで少女なのだそう。ちなみに戦力として、戦闘訓練は全て迷宮内での実戦だったそうで、えげつない実力者だそう。


 ただ、問題は別で。


「…………御主人様、嵌められてますよ」

「え?」

「獣人族で多分白虎に連なる種族でしょうから、自分より強い存在と親的存在にしか忠誠を示しません。ある意味忠誠心は高いですが、それはその奴隷より強いことを前提としたことです。が、実質合っていますので、違反にはなりません。そのうえ、あの子は迷宮で実戦訓練をして生き残った奴隷、その強さは不明ですよ」


 いつものような『ですよー』とか『ですねー』みたいな口調はなくなって、そこにあったのは厳しい、まるでボクが騙されたこと、その全てが許せないような、奴隷の鏡てき反応。

でも、問題ないって言ったはずだ。


 格上に特化した特殊個体の人間に格上の強さを持つ獣人だよ? 勝てるに決まってるじゃん。


「ああ、お客様、お名前は……」

「稀有」

「稀有様、その子はとある大貴族の息子が狙っていた商品でございます。あちらは権力を振りかざしてきたので、保留していましたが、目をつけられていましたので。その子が顔を覚えていますので、とかづいてきたら気づくでしょう。その場合はうまく対処してくださいね」


 厄介品なのは間違いないが、それだけか?

すでに国単位で壊したのに、今更貴族にびびれと?


 はんっ、断……あ、パーチェ・デルニーエルもここは領地にしたがらなそう。誰が引き取るのだろうか……。

いやここは敢えてボクが統治しても……神聖国の一つを統治するとか愚かの極みだったわ。


 さてさて、これはどうしたものか。貴族ってボンボンなイメージが強かったんだが、『ユースティア王国』でみてきた貴族たちはほとんどが戦闘可能の人たち。大体二十人に一人の割合で戦闘系ではない人を見るが、その人はあくまで体に何らかの支障をきたしてしまったか、家系がそういったものだったかの二択であった。

ほぼ全ての貴族は、剣術を習い、魔術・魔法を習い、スキルの扱いを完璧にし、その上で詐術や算術、字の読み書きはもちろんのこと歴史やらといろいろ学んでいる。日本とは逆で、『運動』をメインに、『勉強』をサブに、といった感じだ。


 が、別に勉強をサブにしたといっても、頭の良さはすごいだろう。まあ素の才能が悪ければバカにしかならないが、それでも先頭には秀でることがあるのだろう。


 やる気起きないなぁ。いくらゲスでも強いんじゃ相手したくないし。何だろう。こう、休暇旅行中はゆったりしていたかったなー。なんて。

ん? あ、お金って別にルスの鱗うれば手に入ったじゃん。こんなことしなくてもよかったじゃん。


 もう依頼は受けちゃったし取り消せないけど、まあそれも人生よな。


「名前は決めましたか? おっとひとつ言い忘れていました。この子には姓名なら、ございます」

「先にいってよね? それで、なんて姓なのかな?」

「アドヴェント 。意味は降臨でございます」


 アドヴェント 。外国語じゃない? いや、まあそりゃいくつか世界があるとしたら、共通の言語が一つや二つあっても不思議じゃない。


「テレサ=アドヴェント 」

「了解しました。では奴隷の証についてですが……。主流なのはやはり首輪ですね。腕輪、足輪なんてのもありますし、装飾品型の証もございますが……どれがいいですか?」


 腕輪、足輪、首輪、装飾品が色々並べられる。


「テレサはどれがいい?」

「どれでも構いません。主人様の思うままに」


 シズといい、テレサといい、この世界って何でこんなに腐ってるんだろう。まだアイリスよりも幼さそう……しずよりは年上かな?……な子に主人とか思うままに、とか言わせるってさ。この世界を変える機会が来るといいけど。

まずはそれまでに生きていられるといいけど。人間の寿命を超えることはできないだろうし。


 神格化とかそういうのってあるのかな。

まあ、あったとして必要はないだろうけどね。


 だってボクの復讐はもうすぐ実行される。それこそあと数年のうちに、機会さえあればいつだって実行する。

それに、ある意味この世界が今のような感じだからボクの復讐を可能なんだ。ある面で考えれば感謝こそすれど、憎しみを持つのはおかしいのかもしれない。


「それじゃあ、テレサ」

「はい、何でしょうか」


 テレサの方を見つめ、静かで、冷酷な声でいう。


「命令だ。選べ」

「…………」


 テレサは奴隷の証のうち、中でも装飾品型のものを熱心にみて回った。

そして、こちらの方を見て。


「………申し訳ありません。私では選べません」


 普通ならどれも良い、といっていることになるが、テレサは違うのだろう。

どれも、選ぶ気も、選ばない気もない。つまり、そういったものに慣れてこなかった影響か、どんなふうに選べば良いのか、どんなふうに選べば主人は喜び、怒らないか。それだけを考えてきた故に、自分のために、というのがよくわからない。



ふりをしている。




 ボクが勘違いしていたが、彼女は猫に見えるが狼だ。白狼族という種族らしい。白猫的ふさふさな尻尾は狼のふさふさ尻尾で、耳は猫と似ているから気づきづらい上、ふさふさなのに騙されたが、無論狼と同じ構造。

目が青いが、それは先祖がそういった種族だったかららしい。普通の狼族は金色の眼をしている。テレサが特別なのだそう。


 あと白狼族は変異種だそう。

元々は人間の形をとったフェンリルと人間との間に生まれた子供が始まりだそう。だから瞳が青いのか。


「あはは。そっかそっか。じゃあ、ちょっと寝てろ」


 ドゴッッッ‼︎‼︎⁉︎ とテレサの頸椎部に誰も投げることも、触ることもしなかった奴隷の証に置いてあっただけのはずの首輪がぶつかり、腕輪が肩の関節を上から強引に外しにかかり、足輪が転ばせにかかった。

つまり、完全に再起不能にしようとしていた。


「稀有様、どうかなさいましたかな?」

「ちょっとオシオキしただけよ……あ?」


 何故だろう。時折意識が何かに乗っ取られるというか、奪われる? 違うな、それよりももっと、こう、上書きされた新しいボク、みたいな? でも影響は口調だけ。それ以外に影響はない。

声の変わりはもう無視したし、放っておこう。


「そうですか。では、引き続きお選びください」

「ああ、そうするよ」


 そういいつつ、ボクはテレサに歩み寄った。




▲▷▼◁




 奴隷商人が新しい客に私を見せる。

早く買われないかな。そんな思いは私にはない。私はただ購入されたらされたで戦い、されなくてもただ自分のために戦う。鍛える、という方が正しい。


 誰のためでもない。自分のためだ。


 今まで何人かの人たちが私をみて、買いたいと息巻いた。が、その誰もが奴隷商人からちょっと法外な金額をふっかけられ、結局大体の人が断った。

最近やってきた大貴族様もその金額に多少目を見開いたが、すぐに値下げ交渉に勤しみ、さらにその上で私の種族的問題を解決するべくと力をつけに行ってしまったきり、顔を出していない。手合わせもしていないのに相手の力を超えるとは、随分なバカだった。


 そして今回やってきたのは、見るからにヤバそうな龍人族……ではない? 龍が人化の術を使っただけの存在。じゃあ、一体何年生きていると……?

が、その女性が主人ではなく、男性と女性両方の匂いを纏った性別もわからない人が主人だったようだ。逆かと思ったが、それもそうかと思った。


 が、どうやら奴隷ではないらしい。


 ただの契約主従関係のようだ。


 どうやら、奴隷商人はこの人を完全に気に入ったようで、私の購入金額を普通の奴隷売買時の金額で売った。

食いつく、というふうに思ったが、どうもまあそんな感じか、といったふうに金銭処理を済ませてしまった。


 この人は何なのだろう。今までの人たちは私を性奴隷目的で探しにきていたけど……。


「命令だ。選べ」


 奴隷の証である様々な装飾品を前に、私はそう言われた。

どれを選べばこの人は満足してくれるだろうか。この人は、私が自分の望み通りに動くかどうかを試しているのか? わからない。


「申し訳ありません。選べません」


 そう正直にいった。


 すると、彼は笑って。


 直後、今まで味わったことのないほどの激痛が、まだダンジョンにいたミイラに噛まれた方が圧倒的にマシなほどの痛みが、襲ってきた。

何が? 奴隷の証の品々が、私にぶつかってきたのだ。


 左肩の関節が外れかけ、首の骨はヒビが入った様子はないが、動くだけでミシミシいい、足をすくわれ、転ぶ。

え、


 ぐい、と頬を思いっきり掴まれ、視線を合わせられる。

何をされるのか。そういった趣味なのか。


「正直に生きなよ。あれが良いんでしょ?」


 そんなわけがない。決めつけだ。そう心では思っても、あの髪飾りに惹かれた事実は決して消えはしない。

頷くのが良いのか、否定するのが良いのか。正直に生きるのが良いのか。


 答えは、自然と出ていた。


 頬を話された直後、私は自分の意思ではなく、本能でもなく、ただ自分の『欲』で、いった。


「はい」


 それをみて、満足したのか。新しい主人は私の頭を撫でてくれた。


「もう少しだけ、このままでお願いします」


 初めてのことに、尻尾は左右に大き振られ、耳はてがかするたびにぴょこぴょこと動いた。興奮している証拠だと奴隷商人が五歳くらいの頃に教えてくれた。

あの頃は戦闘中に楽しいと感じてしまい、没頭した時だった。その後奴隷商人に調教される羽目になったのはいうまでもない。主そっちのけで戦いに集中するのはダメだそうだ。


 そう正直に伝えてみると、新しい主人はうんうん、と頷いて、撫でてくれた。

ちょっと恥ずかしいが、本能的にどうしてもこの感覚に抗えない。気持ちいいわけではないし、気持ち悪いわけでもない。ただ、どことなく懐かしい感覚に襲われて。




▲▷▼◁




 撫でてほしいと言われたので撫でてあげたら何故か寝てしまった。

いやもう床に座っていた状態からそのまま横にこてんっ、て。痛くないのかな? ステータスのおかげなのかな?


 まあ可愛いは正義なのだ。ロリ だろうと関係なく。あの『淑女』がちょっと気恥ずかしそうにお願いをしてきたら断れるか? いや無理でしょ。可愛いは正義だもん。

猫にご飯ねだられたら渋々あげちゃうでしょ? なんか、もー、仕方ないなーとかさ。犬も然り。


 可愛ければ全てよし。


 まあそれはそうとして。

髪飾り、というよりかは髪をまとめるだけの装飾品な気がするんだけども。こんなんで本当に奴隷ってわかるもんなのか?


「あぁ、それに関しては問題ございません。それは鑑定すれば奴隷の証と出る上、まずそのような髪飾りは普通奴隷の証として使われるのが常識ですからはい」

「じゃあこれにするよ」

「ありがとうございます」


 結構時間を食ったような気がするけど。

ここに奴隷売買の契約が成立した。


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