闇夜に紛れし閃光Ⅸ
直轄部隊である〈Keter〉を動かしてから数分後。
いつも通りに歩く。
ノルンと時雨はフィリエル共和国まで軽い体操をしながら行く、と走って行ってしまったし、ジブリールはマキナに連れられ、違うルートで挟み込むとかどうとか……。雪梅も一緒に。仕方ないから『初雪』にみんながどこにいるかマークしてもらっている。
一人寂しく歩いていく。といっても、ボクの立場は暗躍。表立って行動する必要はない。というかしてはいけない。
フィリエルの裏町とでも言えばいいのか、無法都市みたいなところにいるであろうアイリスを助け出すついでに国盗りでも使用というわけである。
問題は一つ。フィリエルの軍事力と勇者の実力である。
勇者というのが何人いるのかは、ノルン曰く数人程度だそうだ。
ちなみにフィリエルはカースト制度がある数少ない国だ。
王侯貴族は裕福で空腹という二文字すら知らないのに比べ、カーストの低い、つまり身分の低かったり武力も知力も低い人は死にそうな人からぎりぎりの人が多いそう。
国盗りしてしまっても問題は少ないだろう。
それにしても、勇者はどこにでもいるのだろうか?
アルカディアにはいなかったが、あれはあくまでもそういう事をできる人がいなかったか、それともジブリールのようにできるがやらなかったか。いずれかが要因である。
第一、アルカディアは勇者などという戦力があっても過剰戦力となるだけだ。
ジブリールは単体でも強いし、ましてやマキナやデアを従えている彼
女にとって、その二人だけで魔導騎士といいはってもいいくらいだ。
それだけの戦力がある。
彼らにとっては勇者でさえ取るに足らない存在なのかもしれない。それは言い過ぎかもしれないが……。
しかし、ノルンとアイリスならば話は別だ。
ノルン曰く、アイリスは五年に一度、世界の法則を外れていようが関係なく何でも願いを叶えることのできる回数が増える、という能力を持っているらしい。ちなみに今の残りはセロだそう。成長とかに使っちゃったとか……。
ノルンの能力は転換系。
例えば物質をその場で反物質にし、生成する寸前でその反物質のルールを一時的に物質のルールと転換し、物質と融合しないようにする。そして反物質を使用する時、爆発しない地面のルールと自分の爆発するルールを入れ替えることで自分はノーダメージで相手だけが爆発に巻き込まれるようにしているそう。簡単に言えば、ノルンの能力は世界の法則の変更に近く、正確にいうと、Aの物質とBの物質のルールを入れ替えたり、敵に斬られたとしたらその影響は転換した物質のほうに行き、自分は無傷になる、という風な複雑な能力なのだ。
単純に考えれば、全ての攻撃を無に変える能力、とでも言っておけば十分だろう。
そう言えば雪梅はノルンに戦術やら剣術やらを習ったとか言っていたっけか? ノルンは剣術に心得があるのだろうか? 別に剣を使わなくても、素手だけで勝てそうな気がするけど……。
フィリエル共和国を落とすのは簡単ではないかもしれない。
ただし、それは軍事力がアルカンレティア以上であり、勇者が生きている状態の話である。
どこかの人間が数より質だと言った。
うん、まあ間違ってはいないかな。神に対して人間を七十億人ぶつけようが意味がないのと同じ。でも、勇者に対してそれをしたら?
話は変わる。数より質というのは毎回毎回、ある一線内での話であり、その一線を超えた数より質というのは覆る。
数は時に有利に回る。
そして、今回、一つだけ違うことがある。
勇者の相手は『七世の闇』ではない。
僕の直轄部隊である〈Keter〉そのリーダーであるケテルだ。
彼の正体はアイリスの『お願い』によって生まれた正真正銘の化け物。その実力は魔神候補たちと並ぶほどに。しかし、彼は自分がアイリスに生み出されたことを知らない。
どこかの辺境に生み出され、そしてそのまま化物へと勝手に成長していく。そして最終的にアイリスと僕の元に転がり込んでくる。そう言ったサイクルがあるのだ。それは歴史に挿入されることで成り立っているとか。
とりあえず、都合よく生み出されたとか。
そんなケテルが勇者をつぶしに向かってくれる。暗殺の必要はない、と伝えてあるので、勇者殺人事件として大々的な騒ぎとなってくれるだろう。勇者には悪いが、こうさせてもらう。
まあ条件次第では殺すなと言い含めてはあるのだが……。
そんなわけで、城壁に到達した。
「君、みんな並んでいるんだ。ちゃんと順番は守れ!」
門番の騎士の一人がそう言ってきた。
今の僕にとっては取るに足らない命。
そう言えば、奪命剣の真の意味は奪命であり、言葉通り自分の魂に殺した相手の魂を融合させる能力だった。
だが、魔物では尽く期間で消えていってしまった。
波長が違うせいかもしれないと考えていたが、では人間ならばどうだろうか?
自分と波長が鍵なく同一である、人間なら……。
門番の騎士が僕の肩を掴んだ瞬間、ノールックの裏拳で頭を吹き飛ばした。
並んでいた商人やら何やらの悲鳴が聞こえる。
アレは殺すつもりはない。
さあ、気分を入れ替えて、
蹂躙しようじゃないか。
この国家を………。
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