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『追放された【犬のお巡りさん】、辺境駐在所でチート犯罪者を凍結検挙する〜訳あり美少女4人と回すポポロ村事件簿〜』  作者: 月神世一


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EP 9

アルディス伯爵家の汚職摘発! 親父と兄貴にワッパをかける日

 決戦の朝、アルディス外れ交番の給湯室は、香ばしい油とソースの匂いで満ちていた。

 スチール机の上に並べられているのは、タローソンで仕入れてきた『厚切りロースカツサンド』と、急須で濃いめに淹れた熱々の深蒸し緑茶だ。

 トーストされた香ばしい食パンの間には、二センチはあろうかという分厚い豚ロースカツが挟まり、濃厚な特製ウスターソースとシャキシャキのキャベツがみっちりと詰まっている。

「カツを食って、悪党に『勝つ』……警察のゲン担ぎとしては王道だな」

 サクッ、と小気味よい音を立ててかぶりつく。

 じゅわっと溢れ出す豚肉の甘い肉汁、パンに染み込んだ甘辛いソース、ピリッと効いた和からしの刺激。すかさず熱い緑茶を流し込むと、胃袋の底からカッと闘志が湧き上がってくる。

「ふおおおぉぉ……! なんという神聖な朝食の儀式ですの……! ソースの照りが私の網膜を焼き焦がしますわ……!」

 目の前でパイプ椅子に座り、両手を合わせて拝むようにカツサンドを見つめているのは、臙脂色の芋ジャージを着た人魚姫リーザだ。

 昨晩タローマンで悪徳用心棒バランを捕縛した際、俺のポケットマネーから一人一つずつ買い与えたものだ。

「冷める前に食えよ、リーザ。今日は体力を死ぬほど使うぞ」

「いただきますわァァッ! ガブッ! もぐもぐもぐ……んん〜〜〜っっ! お肉が分厚すぎて顎が外れそうですけれど、脂身の甘みが脳髄を直撃しますわ! これで今日も、悪党の隠し資産を根こそぎ吸い取る吸引力が百倍に跳ね上がりましたわよ!!」

 鼻息を荒くしながら、早くもお賽銭箱型掃除機のノズルをキュッキュと磨き上げるリーザ。

 その隣では、キャルルが人参柄のエプロンを外し、足元の重作業用安全靴の靴紐を力強く締め直していた。

「リオン様、準備は万全ですわ♡ リオン様とお母様を十年間も苦しめてきた元凶……グレゴール伯爵とその取り巻きたちに、私の『月影流』のフルコースを叩き込んで差し上げます……!」

 トクン、トクン、とキャルルの長い兎耳が俺の心音を捉える。

 ルビーの瞳が熱く濡れ、ヤンデレ特有の純粋にして重厚な愛情オーラが背後に揺らめいていた。

「キャルルさん、気合いが入るのはありがたいが、現場でいきなり首を刎ねたり即死コンボを決めるのは勘弁してくれよ? あくまで『現行犯逮捕』と『令状執行』が警察の仕事だからな」

「もちろんですわ♡ 死なない程度に、骨を二、三本折るだけに留めておきますね♡」

「留まってねえよ!」

 俺がツッコミを入れると、ソファで優雅にハーブティーを飲んでいたエルフのルナが、純白のローブを揺らして立ち上がった。

「ふふふ、リオン様、ご安心くださいな♡ 昨晩のうちに、アルディス伯爵邸の庭に植えられている樹木や薔薇のトゲたちとお友達になっておきましたの。地下金庫の隠し扉の構造から、裏帳簿の原本が隠されている書斎の二重壁の位置まで、すべて植物たちが囁いてくれましたわ♡」

「よし、完璧な事前捜査だな。……キュララ、そっちは?」

 俺が声をかけると、交番の天井付近をホバリングしていた天使キュララが、手元の魔導スマホをパチンと鳴らした。

「バッチリだよ〜ん☆ ゴッドチューブ生配信の待機枠、すでに同接百万人突破! タイトルは【緊急凸撃! 帝都の名門アルディス伯爵邸に朝イチでガサ入れしてみたwww】ね! 特定班もスタンバってるし、全大陸に向けて伯爵家の悪事を全世界リアルタイム拡散してやるかんね〜!」

「よし」

 俺は腰のニューナンブ魔導拳銃を確かめ、背中のガンラックから主武装——『魔改造レミントンM870』を引き抜いて背負った。

 ポケットには、昨晩バランから押収した決定的な裏証拠の束。

 そして胸元には、金文字で輝く大宇宙管理局の警察手帳。

「アルディス外れ交番、出張捜査(ガサ入れ)を開始する。野郎ども、行くぞ!」

「「「「了解ですわ(了解〜☆)!!」」」」

 帝都の中央、貴族院の重鎮たちが屋敷を構える超一等地に、アルディス伯爵邸はそびえ立っていた。

 白亜の大理石で造られた城郭のような豪邸、手入れの行き届いた広大な庭園、そして正門前には重装鎧を纏った私兵たちが十数名、槍を構えて睨みを利かせている。

「止まれッ! 何者だ! ここは名門アルディス伯爵家の屋敷であるぞ!」

 私兵隊長が槍を突きつけて怒鳴り散らしてくる。

 だが、俺は歩みを止めることなく、制服の胸元から黒革の警察手帳をスッと突き出した。

「アルディス外れ交番巡査長、リオン・フォン・アルディスだ。帝都刑法、ならびに大宇宙管理局法に基づき、グレゴール・フォン・アルディス伯爵に対する出張捜査令状を執行する。門を開けろ」

「な、なにぃ……!? リオン……!? あの十年前に追放された、ゴミスキルの三男坊か!?」

 私兵たちがどよめいた、その時だった。

 豪奢な正門の奥から、高笑いと共に二人の男が姿を現した。

「ハッハッハッ! 朝から騒がしいと思えば、誰かと思えば我が家の恥晒しではないか!」

 先頭に立つのは、贅肉のついた腹を金糸のガウンで包み、威圧的な髭を蓄えた五十代の男——アルディス伯爵家当主、グレゴール伯爵。

 そしてその隣には、父そっくりに傲慢な笑みを浮かべた長男——リオンの義兄、カイン・フォン・アルディスが立っていた。

「おいおいリオン、何の冗談だ? 出来損ないのお巡りさんごっこが板に付いたようだが、平民のオバハンと一緒に這い蹲って生きるのがお似合いのゴミ虫が、よくもアルディスの敷居を跨げたものだな!」

「カインの言う通りだ」

 グレゴールが冷酷に鼻を鳴らす。

「十年前、愛玩犬以下の無能スキル『犬のお巡りさん』を授かった貴様を家から追い出したのは、我が家の名誉を守るための慈悲であったのだぞ? 身の程を弁えず、奇妙な女どもを引き連れて本邸に乗り込んでくるとは……よほど死にたいと見える」

「……相変わらずだな、父上。いや、グレゴール伯爵」

 俺は感情を押し殺し、静かに手帳を構え直した。

 ピクッ、と俺の『犬のお巡りさん』の嗅覚レーダーが作動する。

 目の前の親子から立ち上る匂い——。

 ・過去十年にわたる巨額の脱税とマネーロンダリングの腐敗臭

 ・密輸された違法薬品『陽薬草の濃縮液』のケミカル臭

 ・地下牢に幽閉されている平民奴隷たちの絶望の汗の匂い

 ・そして、全身を覆い尽くすほどの「嘘と傲慢の悪臭」

「昨晩、タローマンを襲撃させた貴様の雇まれ用心棒バランは、すでに帝都警察本部の留置場だ。あいつが持っていた裏帳簿と密輸ルートの全記録は、すでに俺の手元にあるぞ」

「な……ッ!?」

 グレゴールの顔から、一瞬にして血の気が引いた。

「バ、バランがヘマを踏んだというのか……!? ええい、構わん! 証拠を持っていようと、貴様のような下級公務員一人、ここで事故に見せかけてミンチにしてしまえば何の問題もないわ! おい、私兵ども! このゴミどもを皆殺しにしろッ!!」

 グレゴールの怒号を受け、十数名の私兵たちが魔導剣や魔導銃を構えて一斉に雪崩れ込んできた!

 ——だが、その瞬間を待ち構えていた者たちがいた。

「全世界のみんな〜☆ これが名門アルディス伯爵家の真の姿だよ〜ん! 証拠隠滅のための殺人教唆、しっかりカメラに収めました〜☆」

 パァァァァッ! と上空が神々しい光で満たされる。

 純白の翼を広げた天使キュララが、無数のドローンカメラを従えて伯爵邸の上空を旋回する!

「ホーリー・メイクアップ!!」

 瞬時にパワードアーマーへと変身したキュララの両手に現れたのは、重火器『M4カービン』!

 上空からの容赦のない制圧射撃が、私兵たちの足元と武器を的確に薙ぎ払った!

 ダダダダダダダダダダダダッッ!!

「ぎゃあああっ!? 空から天使がアサルトライフルを撃ってくるだとォ!?」

「特定班、カモン☆ グレゴール伯爵の個人隠し口座と、カイン兄貴が夜の街で使い込んでる裏金の明細、全部コメント欄にピン留めしちゃった☆」

『特定完了! 脱税総額:金貨一万枚(約百億円)! 違法奴隷売買の契約書データ全公開! 拡散祭りキタコレ!!』

 コメント欄の勢いがサーバーを焼き切らんばかりに加速する。

「な、なんだあの光る板はァ!? わ、我が家の秘密が帝都中に流出しているだと……!?」

「あらあら、逃げようとなさっても無駄ですわ♡ 『茨の檻(ソーン・バインド)』」

 ルナが優雅に指先を翻すと、伯爵邸の豪奢な薔薇の生垣から、数千本もの太い荊の触手が蛇のように噴き出した!

 私兵たちの両手両足を瞬時に縛り上げ、身動きを完全に封じ込める。

「ぐああああっ!? 植物が……世界樹の魔力が絡みついて解けねえっ!?」

「うふふ、書斎の二重壁に隠されていた『裏帳簿の原本』も、お庭の百合たちが運んできてくれましたわ♡」

 ルナの手元に、蔓草に運ばれてきた黒い分厚い原本がストンと収まった。

「しまっ……! 貴様ら、よくも我がアルディス家をコケにしてくれたなァッ!!」

 逆上した長男カインが、腰の家宝『紅蓮の魔導剣』を抜き放ち、炎の刃を激しく燃え上がらせた。

「俺のユニークスキル【剛炎剣閃】の錆にしてやる! 死ねやリオン——」

「リオン様に、その汚らわしい刃を向けること自体が——万死に値しますわッッ!!」

 ドォォォォォンッッ!!

 大気を震わせる音速の踏み込み。

 割って入ったのは、タローマン特注の重作業用安全靴を履いたキャルルだった。

 彼女の華奢な右手が、電光石火の軌道でカインの顎先へと突き上げられる!

「月影流体術——『顎砕き(あごくだき)』ッッ!!」

 バッキィィィィィィンッッ!!

「ごぶぇぇぇっ!?」

 下顎を完全に粉砕されたカインの身体が、独楽のように回転しながら吹き飛び、豪邸の噴水へと頭から突っ込んで白目を剥いた。一撃沈黙である。

「カ、カイン……!? ば、化物め……! こうなれば、当主たるこのワシ自らが貴様らを灰燼に帰してくれるわァッ!!」

 グレゴール伯爵が絶叫し、両腕を天へと掲げた。

 代々アルディス家に伝わる最上級ユニークスキル【灼熱の業火(ヘル・インフェルノ)】。

 庭園の空気が瞬時に沸騰し、数十メートルの巨大な火炎の巨人が伯爵の背後に具現化する!

「死ね! 我が家の恥晒しが! 灰となって消え失せるがいいッ!!」

「——職務質問および、行政執行を行う」

 業火の熱波を前に、俺は一歩も引かなかった。

 前世で理不尽なクレーマーと渡り合ってきた胆力。そして天使長ヴァルキュリアから叩き込まれた、治安を守る執行官としての覚悟。

 俺は黒革の警察手帳をグレゴールの眉間へとビシッと突きつけた。

「大宇宙管理局・カスハラ部・執行部の権限により——貴様のチート能力を、強制凍結する!」

 ガギィィィィィィィィンッッ!!

 天が割れるような凍結音が轟いた。

 具現化しかけていた炎の巨人が、一瞬にして真っ白な氷像へと変貌し、パラパラとダイヤモンドダストとなって砕け散ったのだ。

「な……ッ!? ワシの炎が……スキルが消えた……!? 魔力回路が……完全に遮断されているだと……ッ!?」

「悪徳貴族が振り回すチートなんざ、最高法規の前ではただの規約違反ツールなんだよ。……さあリーザ、やれ!」

「任せてくださいましーーッ!!」

 芋ジャージの裾を翻し、リーザが猛ダッシュで突撃してきた!

 抱え持った『お賽銭箱型掃除機』のスイッチを、限界のレッドゾーンまで捻り込む!

 ヴオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

「伯爵家の隠し金庫! 不正蓄財! 脱税金貨! すべて我が賽銭箱が全吸引いたしますのーーッ!!」

 ズボボボボボボボボボボッッ!!

 庭園の地下から、書斎の壁の奥から、そしてグレゴールの懐から、金貨、宝石、貴金属、権利書の束が凄まじい竜巻となって掃除機の中へ吸い込まれていく!

「ぎゃああああああっ!? ワシの財産がああああっ! 一族の全資産が吸い取られていくううううっ!!」

 最後の金貨一枚まで吸引され、グレゴールは空っぽになった金庫の前でへたり込んだ。

 チートを凍結され、全財産を失い、全世界に悪事を晒された名門の当主。

 その哀れな男の前に、俺は静かに歩み寄った。

 ジャキィンッ!

 背中から引き抜いた『魔改造レミントンM870』のポンプアクションを鳴らし、銃口を突きつける。

「ひ、ヒィィッ……!? た、助けてくれリオン! お前は我が息子だろう!? 伯爵家の跡継ぎにしてやる! だから——」

「十年前、母さんと俺をゴミのように捨てたあんたが、今さら父親面するな」

 俺の声には、一片の迷いもなかった。

 腰から引き抜いた鋼鉄の手錠を、グレゴールの両手首に冷酷に噛み合わせる。

 ガチャリ。

「帝都刑法、巨額脱税、違法奴隷売買、ならびに殺人教唆の現行犯で逮捕する。……ワッパ完了だ」

 グレゴールはガクガクと震え、その場に崩れ落ちた。

「処分を言い渡す。あんたたち親子の行き先は——北方極寒海域、マグローザ一本釣り漁船での終身強制労働だ。凍える甲板の上で、一生マグロと格闘しながら罪を償いな」

 一時間後。

 帝都警察本部の特務部隊が到着し、捕縛されたグレゴール、カイン、そして私兵全員が護送馬車へと積み込まれていった。

 アルディス伯爵家は即日取り潰しが決定し、地下牢に囚われていた無実の平民奴隷たちも全員無事に保護された。

「リオン巡査長、信じられん大金星だぞ……!」

 駆けつけた本部の警視正が、震える手で俺の手を握りしめてきた。

「帝国の中枢に巣食っていた巨大な腐敗を、証拠隠滅の隙すら与えずに完全摘発するとは! 君の昇級ポイントは天井を突き破ったぞ!」

「ありがとうございます。俺はただ、交番のお巡りさんとしての仕事を全うしただけです」

 連行されていく護送車を見送り、俺は深く息を吐いた。

 十年の時を経て、ようやく母さんと俺の過去に、完全な決着をつけることができたのだ。

「リオン様……本当に、お見事でしたわ……♡」

 キャルルが頬を染めてすり寄ってきて、俺の胸に耳を当てる。

 トクン、トクン、と穏やかな鼓動が響く。

「復讐に溺れることなく、法と正義を貫いたリオン様の心音……やっぱり、世界で一番美しいですわ……♡」

「重いけど……まあ、今日はありがとうな、キャルル」

「ふふ、お礼に今夜は、伯爵邸の瓦礫で極上の焚き火をして、新鮮な内臓でも焼きましょうか?♡」

「ルナさんは最後まで物騒すぎるからやめて!?」

「リオンっちー! 今日の配信のスパチャ、宇宙新記録の一億ルナPay突破したよ〜! 夜は最高級の打ち上げだね☆」

「吸い込みましたわ! お賽銭箱の中に、一生分のカツ丼代が詰まっていますのーーッ!!」

 歓声を上げるヒロインたちを前に、俺はやれやれと肩をすくめた。

 これで帝都での懸念事項はすべて片付いた。

 ——だが、大捕物を成し遂げた俺たちの前に、天界からの恐るべき『監査』と、さらなる激動の運命が待ち受けていることを、この時の俺はまだ知る由もなかったのである。

読んでいただきありがとうございます。

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